レン達vs.ミカカゲ
「お前のお遊びに付き合ってる暇はないんだよ!斬撃の二重奏!」
そんな言葉に身を任せ、ハイドが楽器を鳴らすと勢いよく半透明の曲剣がミカカゲに向かう。
「なんじゃ、無粋な男じゃのう。命を賭けるからこそ遊びというのは楽しいというのに…」
ミカカゲはククッと笑いながら、手を前にかざす。それに合わせて彼女の周りに浮かんでいたものが彼女の前を陣取る。
「じゃが、妾が死んでしもうては元も子もないからの。…”青丹”。」
その言葉を口にした瞬間、彼女の前にあったものが大きく青い反物へと変化し、ハイドの攻撃を受け止め、それを掻き消した。
「は…!?…なら、もう一度だ!」
再び楽器を鳴らし、曲剣を出現させてミカカゲに飛ばす。普通なら楽器を鳴らしている間発動し続けるはずのこの魔法が、あの青布に当たった途端消えた。ならばあれを避けつつあの女に…
「…芸がないのうお主、それじゃとすぐに飽きられてしまうぞ?」
優雅な動作で腕を振ると、反物が軌道を変えた曲剣を受け止め、再びそれを掻き消した。
「ちぃっ…!なら…!」
「やめといた方がいいですよハイドさん。」
三度攻撃をしようとするのを止めたのはレゼリアだった。制止され、少しキレ気味にレゼリアに突っかかる。
「何故だ!早く倒さないとーー」
「…多分、あの布が魔法を吸収する何かで出来てて、だからハイドの攻撃が効かないんじゃないか?」
憶測ながら、レンがそう言った。発動し続けるはずのこれがあの布に当たって消えたということは、その通りなのだろう。
「なら、話は早いニャ。あの布を直接ぶった斬った方がいいってことニャよねっ!」
地面を蹴り出し、その勢いで走りながらミカカゲに斬りかかろうと居合の動作をする。
「ふむ、お主中々に強そうじゃのう。これじゃと妾の青丹が斬られてしまうわ。…じゃが、対抗策を用意しとらんほど妾は阿呆ではないぞ?…”赤丹”。」
今度は別の札がミカカゲの前に陣取り、それが大きく赤い反物へと変化し、ミシロの居合を受け止めた。
「へぇ…便利な布ニャね。…レン!援護するニャ!」
「え!?あ、お、おう!火球連弾!」
気を張り詰め過ぎていて一瞬ミシロの言葉に対応が遅れたが火球を赤い布に撃ち込む。斬撃を防いだということは、あの布は物理的な攻撃には強い、ならば魔法攻撃には弱いはずだ。飛んで来た火球を見たミシロはその場から避け、火球は目前まで迫る。
だが、それを予測していたかのようにミカカゲは青い反物で飛んでくる火球を全て掻き消した。
「悪くはないのう。じゃが、ちと戦略が短絡的じゃ。それでは妾の赤丹と青丹は破れんぞ?」
「さっきから赤丹だの青丹だの…なんかのゲームですかね?」
「確か、花札だろ?俺も小さい時にばあちゃんとちょっとやってたんだ。」
そう言ったのはレンだった。昔から日本に伝わる遊びだったがまさかこんな異世界で、しかも花札を魔法として扱う人がいるとは思わなかった。もしかしたら日本みたいな国もこの世界にあるのかもしれない。
「なんじゃそこの童、花札を知っとるのか。…妾の住んどったところでしかやっとらんと思うとったが、世界は広いもんじゃな。」
どこか憂いた様な笑みを一瞬言葉の端に浮かべたが、それに気づく間も無く次の瞬間には残酷な笑みに変わり、口にはどこからか取り出した煙管を咥えていた。
「まあ、主の言う通り妾の魔法は花札が元じゃ。作った役で効果の変わる妾の月読ノ花札、とくと味わうがよい!」
ミカカゲは右手を掲げて浮かんでいる札を取ると、その札が短冊の様に細く、長く変化した。
「さあ、参るぞ…!」
その短冊を持ったままミカカゲはこちらに向かって走り出す。それをチャンスとみてミシロ以外の3人は魔法での攻撃をするが、そのすべてが青丹に掻き消される。
「…っ!」
ミシロが短冊を斬り落とそうと刀を振るがそれを短冊で防がれ、金属同士が鳴り響く音がした。
「…あんたのそれ、随分と硬いけど鋼鉄製かなんかかニャ?」
「主の刀こそ、妾の”短冊”で折れないとは中々の業物じゃの。」
互いに互いの武器を弾き、後ろへ飛び退く。これまでの一連の動作を見ているだけでもこの戦いが今までより厳しいと感じる。物理、魔法の攻撃を防ぐ反物を操り、ミシロの剣を真正面から受けきる実力。花札にはまだ役があるので、もしかしたら更に強い何かがあるかもしれない。
「…なんじゃお主、足が震えとるぞ?」
ミカカゲがクスクスと笑いながらそう言った視線の先にはレンがいた。
「レン様…本当に大丈夫ですか?」
「あ?…大丈夫大丈夫。武者震いだよ…!」
どう考えても武者震いのそれではないということはレンが一番分かっていた。だが、そうでも言わないとこの場に立っていられない。発狂して逃げ出してしまいたい。
だがそうしたからといって、どこに居場所がある。ロクな魔法も扱えない、この世界の地理も分かりはしない。強い魔物かあの勇者に出会ってしまえば殺されてそれで終わりだ。だから、レンは苦し紛れの虚勢をはるのが精一杯だった。
「かかか、そうかのう?妾には怯えている様にしか見えんが…まあよい、どちらにしろこれで終いじゃ。これまでの中では中々に面白かったがもう飽きた。切り札を使うにはちと早いがまあよい…」
ミカカゲが手をかざすと5枚の札が大きな五角形をかたどる様に彼女の周りに漂う。やがてその札一枚一枚が輝き出す。
「そうは、させない!」
危険なものを感じ取ったか、レンが具現化した剣でミカカゲに斬りかかろうとする。だが、それよりも少し早く、ミカカゲの魔法が発動した。
「もう遅いわ、たわけが。…”五光”!」
その五角形からビーム砲が発射された。それは地面を抉りながらレン達に襲いかかる。斬りかかろうとミカカゲの正面にいたレンが、一番近くでそれを見た。
「レン様!早く避けて下さい!」
いや、避けろと言われても既に避けきれない場所に立っているのだが。だが、そう言い返す余裕もなく、既にビーム砲は迫ってきている。
「…くっそぉぉ!氷壁!」
咄嗟の判断で氷壁を張ったが、どう見てもビームの方が優勢だ。氷の壁には既にヒビが入っていて、今にも壊れてしまいそうだ。
「かかかか!その様にちゃちな氷で妾の五光を防げるとでも思うたか!これで主らはーー」
「まだだ!」
レンが氷の壁に魔力を込めると入っていたヒビは消え、厚さが増していった。
「貴様、それ程の魔力が…」
中身が身体に合ってないから強い魔法は使えない。だが、身体だけなら俺は魔王だ。魔力なら腐る程ある。
「う…おおおお!!」
更に魔力が込められた氷の壁は、とうとうミカカゲのビーム砲を防ぎきった。荒々しく呼吸をしながらこちらを見ているレンを見て、ミカカゲは口が緩む。
「…かかかかか!防ぎおったわこの童!妾の最大魔法を防ぎおった!お主、面白いのう!」
からからと笑いながら、ミカカゲは続ける。
「これならまだ楽しめそうじゃな。さあ、妾を退屈させてくれるなよ…?」
ミカカゲが札を並べると、その札が光り出した。
ここまで読んでいただきありがとうございます。花札の役に関しては今の所ルールに従っておりますが、都合上「ん?」と思うところがあるかもしれません。これからも読んで頂けたら幸いです。
なお、私用により来週の投稿はお休みさせていただきます。ご了承ください。




