レカバの町にて 後編
「レン様、起きて下さい!朝ですよ!」
「うわやっべぇ!また遅刻…ってあれ?」
跳ね起きて辺りを見回すとそこは俺の部屋、ではなく宿屋の二階にある部屋の中だった。
「そうだ、俺、異世界に来たんだった…」
「何寝ぼけてるんですか!さあ、下に降りますよ!」
俺の側近である彼女、レゼリアに諭されて身体を起こす。
夢なら覚めてくれ…。そう一瞬思いつつも、昨日倒したモンスターや魔法を直に見てしまってはもう夢とは言えない、そう考えて階段を降りた。
その後、食堂で簡単な食事を済ませ宿屋を出た。
「さて、情報収集…と言ってもまずは何をしようか?」
「えーと、まずは町の人達に話を聞くのが一番なんですけどその前に武器屋行きません?」
「え、何で?」
「何でって、そりゃあレン様の魔法を使えるようにする為ですよ!」
「あーそうだったな。忘れてた。」
「忘れてた、じゃありませんよまったく!」
「ごめんごめん。まぁ、武器屋でも何か情報を手に入れられるかもしれないしな。」
「そうと決まれば善は急げですよレン様!武器屋に行きましょう!」
数分後、俺たちは町中にある武器屋に来た。
「こういう所くるの初めてだなぁ。」
「いやぁ、まさかレン様が最初に入った武器屋がここになるなんて…ここの主人はさぞ光栄に思うでしょうねぇ。」
「いや、不憫だろ。魔王に利用された武器屋なんてさ。」
「そうですかね?」
「そんなもんだろ…んじゃ入るぞ。」
「はーい!」
他愛のない話をしつつ中に入ると武器屋の名の通り女性でも扱えそうなナイフから騎士が使いそうな両刃の剣や巨大な槍、さらには刀や杖など様々な武器があった。
「…すっげぇ!生でこんなの見るの初めてだ!」
こんなものが現実にあったら間違いなく銃刀法に引っかかるであろう武器の数々に俺は目を輝かせていた。
「んもーレン様ったら子供ですねぇ。んじゃ早く武器見て下さいよ?」
「おい。」
そんなやりとりをしていると店主らしき人に声をかけられた。
「はい、なんでしょうか?」
「買わないつもりか。」
「あ、えっと、その…」
そりゃそうか。見るだけ見て買わずに帰ったら冷やかしもいいとこだろうな。多分怒られるだろうと感じた矢先、
「よく来てくれたな!ウチの武器屋は他のところより品揃えがいいんだ!見てくれるだけでもOK!冷やかし大歓迎さ!」
「あ、ども…」
「あ、ありがとうございます!」
「何かあったら言ってくれよ!」
とんでもなく陽気な店主のテンションに押されて曖昧な返事をとってしまった。
「明るい人だったな…」
「優しい店主さんでしたねぇ〜」
そんな会話をしつつ武器を見渡す。個人的に実感がないが本当にこれで使用条件を満たしているのだろうか。
「本当にこれでいいのか?」
「はい、大丈夫です!」
「だったら帰ろうか…とはいかないよなぁ…」
「確かに、何か買わないと申し訳ないですしねぇ…」
いくら先程の店主に冷やかし大歓迎と言われても何も買わずに帰るのは流石に心が痛む。とはいえ何か買うにしろ金が足りない。
「だったら…あ、これなんかどうですか?」
彼女が指差したのは女性でも扱える小刀だった。
「え、なんでこれなんだ?」
「うーん、魔力が切れた時用の予備なんですけど…いいですか?」
「いや俺がとやかく言う義理はないよ。レゼリアの好きなようにしたら?」
「あ、ありがとうございます!じゃあ買ってきますね!」
そう言うとそそくさと会計を済まして戻ってきた。手には飴らしきものを持っていた。
「あのおじさんいい人ですね!二つも飴くれましたよ!」
「おお、良かったな。」
彼女から手渡された飴を口に放り、店を出た。
「さて!情報をーー」
「それ!拾ってください!」
彼女の言葉を遮る大声ところがってきた果物に呆気を取られたが慌ててそれを拾った。
「はい、どうぞ!」
「ありがとうございます!なんとお礼を言えばいいのやら!」
「い、いえいえ、当然のことをしたまでですよ!」
身なりの良い老人に大げさ過ぎるほどの感謝をされ、少し圧倒されながらもことばを返した。
「ささやかながらお礼をしたいので家に来て下さい!」
「いえ、いいですよ。そんな大したことではありませんし。」
「これは私の気持ちなんです。どうか受け取ってやってください。」
こちらが断ってもお礼をさせてくれ、と言ってる限りかなり人が良いのだろう。
「でしたら!お言葉に甘えさせていただきます!」
「おお、ありがたい!家はこちらです!」
とうとう断れずに家に行くことになった。対して急いでいる訳ではないので別にいいのだが。
「おい、いいのか?いくら何でも…」
「こういうのは素直に応じるのが一番なんですよ!行きましょう!」
そう諭され、とりあえず老人について行くことにした。
案内された老人の家は予想以上に広くちょっとした豪邸並みの大きさだった。
「あの、お爺さんはなんのお仕事をなされているんですか?」
ふと気になって聞いてみた。こんな豪邸ならさぞすごい職業に就いているのだろう。
「実は私、この町の町長をさせていただいております、カゲンと申します。」
「…えええええ!?」
笑顔で何の前振りもないでこんなこと言われたらそりゃ驚くだろう。普通、こういう役職の人は厳つい顔の男性がセオリーなのだ。町を統治する為、己と他人を厳しくする為に威厳漂う風格をしてるはずなのだ。だが、今目の前に立っている町長さんはそんなイメージとはかけ離れているくらいニコッとして朗らかな好々爺の風情だ。
「も、申し訳ありませんでした!私、レゼリアと申します!こちらは私が側近…じゃなくてお使えしているレン様でして…その、町長さんとは知らずご無礼をおかけして…」
「いえいえ、先に言わなかった私にも非があります。顔を上げてくださいレゼリアさん。」
顔の色を変えて謝るレゼリアに笑顔で応対する町長、カゲン。これが町長の器なのか、と感服する程だった。
「さ、着きましたぞ。」
部屋に案内され、中に入るとそこはどうやら応接間のようだった。カゲンに促されソファに座る。フカフカの感触に呆気にとられているとカゲンが話を切り出してきた。
「飲んで下され、せめてもの礼です。」
用意されたのはハーブティーとクッキーだった。ハーブの香りが鼻腔に広がり心がホッとした。
「では…いただきます。」
戸惑いつつもハーブティーを口に運ぶ。あまり飲んだことがないので分からなかったが、美味しいと思えた。
「美味しいですね、これ!」
「ほっほっほ、喜んでいただいて何よりです。」
レゼリアは味が気に入ったらしく、数回に分けて飲んでいた。そしてハーブティーの余韻が口に漂う頃、カゲンが話しかけてきた。
「さて、まだ会って間もないのですがお二人に頼みたいことがあるのです。」
「何ですか?」
「実は、街外れでゴブリンたちが盗みを働いておるのです。お二人に退治して頂けないかと…」
「ゴブリン、ですか。」
「お二人を冒険者と見込んで、お願いいたします!」
モンスターとの戦闘経験が乏しい俺にとっては少し無理な話だが、お礼を戴いた上に食べてしまってはもう断りようがない。こうなることを計算して話を持ち込んだのならこのカゲンと言う町長、中々の策士だ。
「もちろん!喜んでお受けします!」
「本当ですか!ありがとうございます!」
カゲンからの依頼を即座に受けたレゼリアに慌てて耳元で話しかける。
「…いくら何でも無茶じゃないか?」
「大丈夫ですよ!新しい魔法の試運転としては絶好の機会です!」
「まぁ…いいか。」
個人的には具現魔法を試して見たかったし、ちゃんとした戦闘も経験しておいた方が身の為になるだろう。
「では、くれぐれもよろしくお願いします。」
その後、装備を整える為の資金を貰いカゲンに見送られ俺たちは屋敷を出て町中を歩いていた。
「いや〜お金まで貰っちゃいましたね。いい人ですよね、カゲンさんって。」
「ぶっちゃけ、武器とか魔法で出せるからアレなんだけどな。」
「まぁ、色々と入り用になりますよ!行きましょうか、ゴブリン退治!」
「…そうだな!」
そして俺たちは、町の外へと足を踏み出した。
見て頂ければ幸いです。
2017/03/24 後編その二とくっつけました