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レン達vs.オーナー2

「いつつ…油断してたニャ…」


刀を杖代わりに、ミシロがよろっと立ち上がる。まだ息は荒いが、目には闘志が宿っている。


「バケモンか…あいつ…」


壁を支えにハイドも立ち上がり、投げ出された楽器を手に取る。


「ぐぅっ!」


7と8の兵が依然としてレンに攻撃を畳み掛ける。レゼリアにかけてもらった守護魔法がなければ最初の一撃で死んでいたが、それでも劣勢なのは変わらない。浮かせてある剣を駆使し、どうにか攻撃を防いでいる。


その隙にレゼリアが先ほど攻撃を受けた2人の元に向かい、回復魔法をかける。重い一撃だったようで、多少の時間はかかったが、どうにか回復させることができた。


「すまないな…にしてもあいつ、まだ全力じゃなかったのか…」


こちらが最初に倒した1から6の兵は、アルシードにとって全て雑魚処理のもの。それを倒して浮かれていたのも情けないが、7と8の兵だけで実力者2人を沈めたのだから、男の力はまだまだ秘められていると思われる。


「手伝うニャよっ!」


必死で防御に徹しているレンにミシロが援護に入る。これが大きなチャンスとなり、レンに攻撃した際にできた僅かな隙を狙い、ミシロが居合一閃。7の兵を倒した。8の兵にはすんでのところで避けられてしまったが、それでもあと6体にまで敵の力を減らした。


「ちっ…7がやられたか…」


ここにきて初めて男が本音を漏らす。どうやら6より上の兵が倒されるというのは、アルシードにとってあまり予想していなかった状況のようだ。


「さっさと、倒れやがれぇ!」


7のトランプが手元に戻るや否やというところでハイドが斬撃の二重奏(リッパーコンセール)を発動させ、アルシードへと飛ばす。だが。


「甘いんだよ…9、弾き返せ!」


アルシードの周りを固めていた兵のうち、9の兵が飛んでくる曲剣を弾いた。弾かれた曲剣は壁にあたり、壁に斬撃の跡がついた。


「こいつ、俺の魔法を…」


先ほどはこれで倒せたものを弾かれたとあり、ハイドに焦りの表情が浮かぶ。


「皆さん、下がって!」


レゼリアの声に、兵との戦闘を行なっていた3人が後ろに飛び退く。直後、彼女の頭上に巨大な剣が出現していた。


巨人の大豪断(トール・エスパーダ)!」


大量の小刀を1つの巨大な剣に纏め、相手めがけて振り下ろす。アイゼン戦でも見せたレゼリアの魔法だ。


「くっ…8、9!受け止めろ!」


流石にこれにはアルシードも兵を2体使っての防御を行なった。巨人の大豪断(トール・エスパーダ)発動の直後にかけた重力魔法により、剣はかなりの重さになっていたが、なんとそれを受け止めた。


「ちょ…!…舐めないで、下さいよぉ!」


さらに剣に重力を付与し、兵が受け止めている場所が徐々に沈んでいく。


「はぁぁぁ!!」


そして剣を地面に完全に振り下ろす。そこには2枚のトランプがあるだけだった。


「…」


とうとう、アルシードの顔から笑顔が消えた。ここまでの事態は、本人も予想していなかったのだろう。戻ってきたトランプ2枚を握りしめた。


残るは10から13の兵4体。恐らく更に強い力を秘めているのだろうが、ここまで来たら何が来ようと倒すだけ。そんな意気込みが湧き始めた。



「…アレを使うか。」


その言葉を、聞くまでは。


アルシードは懐から1枚のトランプを出した。それは、なんの数字も書いていない。だが、何かの絵が描かれているのが見えた。


「もう何を出したって無意味ですよ!どんな奴も私が1発でーー」


レゼリアの調子めいた声を遮るかのように、アルシードは言った。


「どんな奴も…ねぇ。…レゼリアだったか?世の中そんなに甘くないんだよ。そんな絵空事はここじゃ通じねぇ。そんなんじゃ誰にも勝てない。…少なくとも、こいつに勝てないようではな!ジョーカー!!」


その名を口にした途端、アルシードの周りを守っていた10から13の兵が消えた。次の瞬間、俺たちの前に黒い影とともに、巨大な大鎌を持った道化師(ピエロ)のような兵が現れた。


「今度は、一味違う敵のお出ましってわけか…ニャっ!」


いち早く何かを察したミシロがピエロめがけて斬りかかる。本能的に早く倒さねばならないと感じたのだろう。だが。


「…」


ミシロの刀を振り下ろすタイミングと同時に鎌を振り、攻撃を弾いた。


「んニャ!?こいつ、俺の太刀筋を読んで…」


ピエロは、そのニヤついた顔のままミシロを鎌で刈ろうと振り回す。


「んニャっ…!ふざけん、ニャあ!」


迫って来た大鎌をどうにか刀で受け流し、そのまま後ろへ飛び退く。


「強いな…けど、それなら集中砲火で倒すだけだ!」


ミシロがああまで手こずった相手に接近戦は厳しいだろうと、4人はありったけの魔法をピエロめがけて放つ。


「…」


しかし、それも全て大鎌の一振りで相殺されてしまった。


「嘘だろ…!?いや、あいつ、いつの間に魔法を武器に…」


魔法を相殺するならば自分の武器に魔法を付与しなければならない。だがあのピエロにはそれを行なったのを見受けられなかった。


「いえレン様、あれは召喚魔法で呼び出された魔法生物なんです。だから、あのピエロ全部に今の魔法を掻き消せるほどの魔力が込められてると思っていいです…」


確か、あのピエロの召喚にアルシードは10から13の兵を消費していた。となると、4体分の魔力があのピエロに込められているというのか。それは強いな。


「…もしかしたらだが、行けるかもしれない。」


「…どういうことだ?」


何かに気づいたようなハイドのその言葉をいまいち理解出来ず、レンが聞き返す。確かに数的には少なくはなったが、その分戦闘力は増加しているはずだ。なのになぜそれが弱点なのか。


「…なるほど。いいですかレン様、あのピエロに全部の魔力がいってるってことはですよ?あれを倒してしまえば、もうあの人に私たちに対抗できる手段が無いってことですよ。」


ハイドの言葉の意味に気付き、付け足してレゼリアが説明した。そういうことならまだ希望が見えてくる。あいつを倒せるだけの力があればだが。


「要はあいつの魔力が空になるまでぶちかませばいいってことニャよね?だったら話は早いニャ。…鎌鼬(かまいたち)!」


ミシロは真空の刃を5本、ピエロに向かって放った。それをピエロは、気味の悪い笑顔こそ変わらないが、呼吸をするかのように鎌を振り、全てを弾いた。


「なら…斬撃の二重奏(リッパーコンセール)!」


半透明の曲剣2本がピエロに向かう。ピエロはそれも易々と弾く。だが、それで終わるハイドではなかった。


「…まだ、まだぁ!」


弾かれた曲剣は、再びピエロに向かう。斬撃の二重奏(リッパーコンセール)は楽器を鳴らし続けている間発動し続ける。その特性が今ここで発揮された。


何度大鎌に弾かれようと、ハイドは演奏を続け、その度に曲剣はピエロへと向かう。


「さっきは呆気にとられて忘れていたが、これで魔力切れにしてやる!」


「援護します!追尾刀剣弾ハンドレッド・ハウンド!」


レゼリアは巨大な剣を分解して大量の小刀に戻し、それをピエロに飛ばす。それでも変わらずに弾き続けるがハイドの魔法同様、弾かれても再びピエロへと向かう。


「ふん…そんなチンケな攻撃で俺のジョーカーは倒せんぞ?」


この状況においても、アルシードは笑みを浮かべていた。この程度の攻撃で、自分の切り札が負けるわけはないと自負しているのだろう。現に、2人の猛攻を受けても最初の勢いと変わらない力で鎌を振るっている。


「だったらこれもおまけだ!火球連弾(ガトリングフレイム)!」


相手の魔力切れを狙うため、レンはいつも十数発放っている火球を今回は際限無く撃ち放つ。自分の魔力がどれ程なのかは分からないが、魔王である以上かなりの魔力が自分にあるはずだ。


そしてレンの攻撃を皮切りに、僅かにではあるがこちらが優勢となっていった。ピエロは相変わらず攻撃を弾き返しているが、最初と比べると反応が鈍くなっている。


「流石に鎌じゃ厳しいか…ジョーカー!」


アルシードの声に呼応し、ピエロの持っている武器が大鎌から2本の曲剣となり左右の手に持たれた。鎌の時とは違う手数の多さで、向かってくる攻撃を弾き返す。


しかしそれでも続く攻撃に、ついにピエロがダメージを受けた。レンの火球が、ピエロに当たる。


「よしっ!次は…」


「…たかがファイア1発で粋がるなよ!ジョーカー、畳み掛けろ!」


アルシードの命令で、ピエロは自分に向かってくる攻撃の中を走り抜けていく。その間も攻撃は続くが、それ全てをがむしゃらに弾いている。これでは隙をついてアルシードを倒すことができない。下手をしたら弾かれたものが当たってしまう。そうなればこちらが不利だ。


「このまま一気に…」


倒せ、とでも言おうとしたのだろうか。だが、アルシードは、そう言う前にある異変に気付く。


ピエロの足が、凍っている。これでは動くことができない。


「な…!?一体何故…!」


アルシード視線の先に、先程からファイアを連発していたレンが目に入る。だが、そいつはファイアを撃っていたわけでは無く、地面に手を向けていた。


氷結妨害(アイスジャマー)…初めてやったけど、上手くいったな…」


レンは、この街に来た時に強盗が使っていた魔法を使った。足元を凍らせて相手の動きを封じる妨害魔法だが、言った通りこれを使ったのは初めてだ。


「さあ、形成逆転ですよ!ボコボコにされないうちに負けでも認めたらどうですか?」


どうにか魔力を送って動かそうとするが、ピエロはそこから動くことが出来ない。小物と思っていた子供の魔力とは思えないほどだ。


「…誰が、認めるかよ!」


こうなってはやられる前に逃げるしかない、そう思ったアルシードは、自分のジョーカーをトランプに戻し、その場から逃げ出した。


「あ、待て!」


一瞬気を取られた4人がアルシードの後を追う。逃げられて増援でも呼ばれたら厄介だ。それに、囚われている人達の居場所もわからない。


「妹を…返しやがれぇぇ!」


ハイドは、頭一つ抜き出たスピードを出し、アルシードを捕まえようとする。伸ばした手がアルシードを捕らえようとするが、当の本人もただで捕まる気は無いようだ。懐からコインを取り出す。


「悪いが、ここで捕まるわけにはいかないんでな!閃硬貨(フラッシュコイン)!」


指から弾き出されたコインが光り輝いて一瞬何も見えなくなり、足を止めてしまった。光が収まる頃には、既にアルシードは事務所への階段まで走っていた。この距離だと魔法を放っても届く前に階段を昇られてしまう。


昇りきったらドア封鎖して、戦闘員掻き集めて数で倒す。その間には俺の魔力も大方回復してるだろうから今度は初っ端から全力で…


思考を巡らせながら、アルシードが階段を昇ろうとーーー



グサッ。


「が…あ…?」


思考が停止した。一体何が、いつの間に…音の正体は、自分の腹に刺された…剣…?出血はやばいが、ギリギリ致命傷というほどでも無い…か。


「てめぇ…何、モン…!?」


こんなことをしたヤツは殺す。問答無用で八つ裂きにして殺す。どんなツラか拝んでやろうと顔を上げた。が。



「…何故、お前…いや、あなたが…!?」



アルシードの目の前にいたのは、自分がよく知っている人物だった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。その日その時で展開を書いていますので、ん?と思うところがあるかと思いますが、これからも読んで頂けたら幸いです。

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