レカバの町にて 前編
大分久々になってしまいました。申し訳ありません。
その後は特に戦うこと無くレカバに着いた。とりあえず宿屋を探そうと町を歩く。
「結構色々あるんだな。」
「そりゃあ小さくても町ですからね。あっ、ちょっと寄って行きません?」
レゼリアが指をさした先にあったのは小さげな屋台だった。
「…んー?」
看板に書いてある文字が何と書いてあるか分からない。当然か、異世界だし。そう思っているとレゼリアが横から声をかけてきた。
「…読めないんですか?」
「…うん。」
俺自身出来ないことを出来ると嘯くことはあまりしたくないので正直に言った。
「あー…それではちょっと失礼して…」
そう言うと彼女は手を俺の頭にかざし何やら唱え始めた。恐らくは魔法だろう。そうして詠唱が終わった直後、俺の頭の中に情報が舞い込んできた。
「うっ…これは?」
「んー…知識を与える魔法ですね。」
「知識を…与える?」
「はい。厳密的には私の持っている情報を相手に与える、そういった感じの魔法です。今回は字に対する知識をレン様に与えた、ということです。」
情報伝達みたいなものなのだろうか。そう区切りをつけて改めて見てみると今度はハッキリと読めた。
「石化魔鳥の…串焼き?」
「はい!野生のコカトリスを串に刺して焼いたシンプルなものですけど絶品なんです!じゃっ、買ってきますね!」
「あ、ちょっ…」
言い終わる前に彼女はスタコラと行ってしまった。よほど食べたかったのだろうか。それにしても異世界に来て初めての食事が焼き鳥か…そんなことを思っていると彼女が両手に焼き鳥を持ってこっちに来た。30センチくらいの串に大ぶりの鳥肉が刺してあり、見るからに出来たて感を漂わせる匂いが鼻腔内に入ってくる。その香ばしい肉と炭の匂いで俺の空腹がさらに増し、それを告げる腹の音が鳴る。
「ふふっ、じゃあ食べましょうか!いっただきまーす!」
言われてそれを口に運ぶ。そして噛んだ瞬間、溢れんばかりの肉汁が口いっぱいに広がり平らげるのに数秒かからなかっただろう。それほど美味かった。
「凄い食べっぷりでしたね!」
「いやぁ…どうにもお腹が空いちゃって。」
「さて、宿屋に行きますか!」
「あっ、見つけてたの?」
「無論、あらかじめリサーチしてますから!」
仕事が早いな。そんな一言を言う前に彼女は俺の手を引き走り出す。それに少し慌てつつ歩を進める。
数分後
「レン様、着きましたよ!ここです!」
そう言われ見渡す。少し古ぼけてはいるがそれが味になっている外観と庭に咲いている色とりどりの花が目に入り、親近感を覚える。
「ひだまり亭、か。」
「じゃっ、入りましょう!」
中は外見と同様に広く、一階は宿泊者の憩う広間と食堂、それと公衆浴場になっていて二階に十数の宿泊部屋があった。
「それじゃあ、部屋を借りてきますね!」
そう言われたので椅子に腰掛け少しぼーっとしているとレゼリアが少し困惑した面持ちで戻ってきた。
「レン様…ちょっとお話が…」
「何?」
「えーっとですねぇ…」
「どうしたの?」
まさか、部屋が空いてなかったのだろうか。そんな考えが頭をよぎる。だが、次に発した言葉はある意味部屋が無いことの方がマシだと思える程だった。
「部屋が一つしかなくて、相部屋になります…」
「…誰と?」
「レン様と、私とです…」
「…ええー!?」
「嫌なんですか!?」
「嫌じゃないけど…」
魔族とは言え一見すればただの女の子であるレゼリアと相部屋。はっきり言えば嬉しいのだがどうにも女子に対する免疫が多くない俺は顔を赤くしてしまう。
「襲わないで、下さいね?」
「襲うか!!」
そんな受け答えをしつつ俺たちは部屋に入った。
「そういえばですねレン様。」
部屋に入ってベッドに腰掛けたところでレゼリアが話しかけてきた。
「ん、何?」
「いえ、魔法のことについてなんですけど。」
「魔法って、さっきのファイアみたいなやつ?」
「はい。流石に魔法をあまり使えなければこれから先厳しいと思いますので使える魔法をピックアップしておきました。」
確かに先刻のスライム程度ならなんとかなるかもしれないが、何も敵の使う手駒がスライムだけではないだろうしとてつもない化け物が襲ってきたらそれこそ終わりだ。
「どれどれ…」
手渡された紙には使える魔法が載っていた。
火炎魔法:ファイア
氷結魔法:アイスバレット
具現魔法:具現化・装備
召喚魔法:眷属召喚
移動魔法:テレポート
「えーと…ちょっといいか?」
「何ですか?」
「俺、一応魔王だよな?」
「はい!貴方様こそ由緒正しき闇の覇者、魔王レン様です!」
その謳い文句にたじろぎつつも話を続ける。
「…その魔王だとしたら、使える魔法少なくない?」
少なくとも、俺の魔王のイメージとしては強力な魔法をいくつも使用し敵を葬る。そんな感じだったのだが。
「いえ、レン様は大体の魔法は使えますよ?」
「え、じゃあなんで…」
「うーん、何といいますか肉体と精神が合わさってないんですよね。例えるなら幼子に伝説の剣持たせる的な感じです。」
「あー身の丈に合ってない的な?」
「そうですね。レン様が別世界から来たという話が本当だとしたら強力な魔法使ったら一発で自我失って終わりですから。」
「改めて言っとくが本当だからな?俺は普通の人間だからな?」
「はいはい分かってますよ、天使 憐さん?」
「…信じてないな?」
「いえいえ、信じてますって。」
絶対に信じてないなこいつ。そんな顔をしているのが分かる。だが、こいつの言うことも一理ある。
「まぁ、そういうことにしておくとしてだ。他にもいくつか質問がある。」
「なんでしょうか?」
「この、具現魔法ってのはなんだ?」
「読んで字のごとくですよレン様!名の通り武器や防具を具現化する魔法です!」
「それって…どんな物でもいいのか?」
「はい!伝説の聖剣から暗黒の魔剣までどんな物でも具現化できます!」
その言葉にクラっときた。勇者が使うような剣もこの手に出来るとあれば心が動かない男子はいない。
「ですが、一つ条件がありまして…」
「条件?」
「はい。条件は一回レン様が自分の目で見た物を具現化出来るというものです。」
…俺の野望は音を立てずに崩れさった。
「それでも、武器屋行って武器見ればいいんですから結構便利ですよ!」
「…まぁな。あ、あとこの召喚魔法ってのはあれか?魔物出せるやつ?」
「はい!ですけど、それにも条件がありまして…」
「またか…で、今度は?」
「一つ目は一回倒したモンスターであること。もう一つは一度に呼び出せるモンスターが三体まで、というものです。」
「今までに倒したモンスターとなると、えーと…」
「スライムちゃんだけですね!」
「…そうなるな。」
ま、最初からドラゴンを出せるわけないか。とりあえずそう区切りをつける。
「さて、明日は情報収集もしますからとっとと寝ましょうか。」
「あぁ、そうだな…っておい!」
「…?何ですか?」
「服!な、なんでここで脱ぐんだよ!」
身に纏っていた法衣を脱ぎ、下着だけになっていた。その艶やかな肢体は、特に女性に対する抗体が少ない俺を赤面させ、顔を背けさせるには充分すぎるほどだった。
「だって、ここ私の部屋ですよ?」
「いや俺の部屋でもあるから!」
そう言って顔を背け続ける俺を見て彼女は何かを閃いたようだった。
「もう、レン様ったら〜。安心して下さい!私、レン様の側近になった日から身も心も貴方様に捧げると誓っております!さぁ、どうぞ!」
「な、何もしねーよ!おやすみ!」
「もう、照れちゃって〜。じゃ、おやすみなさーい。」
からかいやがって…。その一言を言う前に瞼は閉じていた。
王の城
「頼むぞ、勇者よ。必ずや魔王を討ち取ってくれ。」
「お任せあれ。この勇者アンク、必ずや貴方様のご期待に応えてみせます。」
雷鳴鳴り響く王の城で二人の人間が動いているのを、まだ、知らない。
久々になりましたが投稿させていただきました。見て頂ければ幸いです。
2017/03/24 前編その二とくっつけました