観光案内をしてくれる楽師さん
その後、憲兵隊によって泥棒は捕まり、事態は収束した。俺たち4人はその場での行為から1時間ほど個別に事情聴取をされ、詰め所から出た。
「なんで何もしてないのに疑われなくちゃならないんですか!こっちは泥棒を退治したヒーローですよ!まったく…」
歩きながらもレゼリアは小言を垂れていた。まぁ、終始変な目を向けられてたから無理もないか。
「…アンタも災難だったニャね。えーと…」
ミシロが楽師に話しかけるが名前を言おうとして詰まっている。
「…ああ、言い忘れてたな。俺はハイド、ハイド・デュクシーだ。そっちは?」
「んニャ、俺はミシロでそっちの女の子がレゼリア。んで、こっちの男がレンニャ。」
途轍もなく大雑把な説明だが、変に何か付け加えられてる訳じゃないのでスルーする。
「へぇ…そういえば、お前らは魔法使いか何かなのか?」
「まぁ、そうですね!…あっ、だったらハイドさんも魔法使いですよね?さっきの鞭を斬ったやつ!」
問いに答え、更に新たな問いをレゼリアが投げかけた。
「…まぁ、な。色々あって、魔法が入り用になったんだ。」
一瞬苦しめの表情を見せたが、それを笑顔で隠し答えてくれた。
「それにしたって、さっきのやつどうやって斬ったんですか?見えなかったですよ!」
グイグイと彼女はハイドに聞きにいっている。確かに俺も興味はあるが、それにしたって初対面の人にそこまでいけるのか普通。
「秘密だ。…と言いたいが、1回見られたしな。…ちょっとこっちに来てくれ。」
ハイドに促され、宿のある方へと向かう。
「ここに泊まってるんですか?」
「まぁな。…ああ、宿の裏に来てくれ。」
付いて行き、宿の裏にある少し広がった庭に着いた。
「ここで見せるのか?」
確かに今は人もおらず、うってつけの場所だが、やはりそう簡単に見せてもらっていいのだろうか。
「ああ。…これで、いいかな。」
ハイドは落ちていた棒切れを拾い、背中に背負っていた弦楽器を取り出す。
「そらっ!」
彼が棒切れを思い切り放り上げ、楽器を鳴らす。すると棒切れは先程の鞭同様、ブツ切りになって落ちてきた。
「…やっぱり見えないな。」
「一瞬のことだったニャね…」
「…もう1回、もう1回お願い出来ませんか?」
レゼリアの懇願に折れたのか、なら少しゆっくりめに、と楽器を鳴らす。するとハイドの周りに半透明の曲剣が2本現れた。
「うわぁ…これがさっきの正体ですか?」
「斬れ味良さそうニャねぇ…」
「ああ。これが俺の魔法、斬撃の二重奏だ。恥ずかしい話、これしか使えなくてな。」
「いやいや十分すごいですよ!それで魔法を斬り落とせたんですから!」
「そうかな、そう言われると嬉しいよ。」
照れ臭そうにハイドが笑う。そりゃ、可愛い子に褒められて嫌という人はいないだろうな。
「すげぇなこれ…あっ消えた。」
まじまじと眺めていると剣は音もなく消えた。
「鳴らしている間は発動し続けるんだがな、1回だと10秒かそこらしか保たないんだ。」
その光景を残念そうに見つめながらハイドは呟く。そして、何かを思い出したかのように言った。
「…そういえばだが、お前達はなんでこの街に来たんだ?」
「いや、王都に行こうと思ってワドパスのテレポート施設を使おうとしたら何かのミスでここに来ちゃいまして…しかもその施設が壊れちゃったそうで足止めくらってるんですよ…」
その問いにレゼリアが慣れた口調で答える。ああまでスラスラと言える辺り、元々の頭の切れ具合が伺えるな。
「そりゃ御愁傷様だな。にしてもこの街に来る必要は無かったろうに…」
「…今何か言いました?」
「ああ、いや、なんでもない。残念だったな、って言っただけだ。」
今それ以外に何か言った気がしたが、気のせいだったのだろうか。
「…それよりお前ら、この街に来てまだ間も無いだろ?せっかくだ。少し案内するよ。」
少し考える素振りを見せた後、何かをはぐらかすようにハイドが言う。
「いいんですか?あ、でも何か用事があるんだったら…」
だがそれが俺たちに気付かれることは無かった。
「いいんだ。あの演奏が終わったら俺も暇だしな。」
「…それじゃあお言葉に甘えて!いいですよねレン様?」
「いや俺に聞くなよ。まぁ…いいんじゃないか?俺たち、この街の地理に疎い訳だし。」
「俺たちも暇してたところだし、いいんじゃないかニャ?」
「なら、話は決まりか?付いて来てくれ。」
ハイドの後に付いて行って、この場を後にする。その後、厄介な事に付き合わされることになるのだが…それはまだ先のお話。
ここまで読んでいただきありがとうございます。次からは少々観光も交えて話を進めようかと思いますので、これからも読んで頂けたら幸いです。




