レンvs.アイゼン 後編
なんかいつもより長くなった気がしますが、読んで頂ければ幸いです。
『好きなようにやれば良いんですよレン様!』
『…へ?』
『…ふニャ?』
そのあまりの微妙さに、何とも抜けた声が出てしまった。それくらいレゼリアの口から出たアドバイスは、この場において、何とも言えないようなものだった。
『…どうしたんですか?そんな微妙な顔して?』
『いや、どうしたも何もねえよ!なんだよそのアドバイス!?ふわふわし過ぎだろ!』
『ふわふわもなにも、これが一番のアドバイスですよ!?これ以外に今回の攻略法ないですからね!?』
攻略法も何も、そんな大雑把なので勝てるのだろうか。
『…いや、案外これありかもしれんニャよ?』
…ミシロまでそう言うのか。戦い慣れている人って皆こんな感じなのか?
『て、言ったってさぁ…』
『まぁ、好きなようにやれってのは大げさでしたね。詳しく言えばこんな感じで使いたい、ってのをイメージするんですよ。』
さっきよりはマシになったのだろうが、それでもまだはっきりとは分からない。
『んーとですね、例えば…』
そう言うとレゼリアは手にファイアを掲げ、少し集中する。するとファイアは徐々に姿を変え、やがて剣の形を模ったものに姿を変えた。
『とまぁ、こんな感じですね!厳密的には炎魔法ではなく創成魔法ってジャンルになるんですが…ようは、術者のイメージに合わせて魔法を変化させていく、と言ったところでしょうかね?…って、どうしました?』
レゼリアは目を丸くしたままの俺たちを見て首をかしげる。
『…レゼリアって、凄いニャね。そんなことも出来るのかニャ?』
『いえいえ、これくらいある程度魔法の練習すれば誰でも出来ますよ!凄い人はファイアからドラゴンとか創り出せる位ですから!』
てか、それを使ったらもう少し楽にアイゼンを倒せたのでは、と思ったが何かしらの真意があるのだろうなと考え口を閉じる。
『まぁ、いきなりは無理かもしれませんがレン様ならなんとかなると思います!』
『…それで、大丈夫なのか?』
『まぁ、なんとかなりますよ!』
『…ある意味マトモなアドバイスニャね。』
『さぁレン様!後は当たって砕けろです!行ってらっしゃ〜い!』
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「悪いが、これで終いにさせてもらうぜ?」
一歩、また一歩と歩みを進めてくるアイゼン。だが、それを目の前にしても恐怖の意はなく、1つの思いが駆け回っていた。
好きなように、か。なら、俺はーー
「…終わりだっ!!」
アイゼンの力を込めた右ストレートが、俺の顎を捉える。
…その瞬間。
「そう簡単に行くと、思うなよ!」
俺は、手を地面に翳す。それと同時に俺の前に氷の壁が出現し、ストレートを受け止める。
「ぐっ…面倒なもん出したなオイ。だが、こんな氷くらいブン殴って壊してやるよ!」
そう言い、アイゼンは連打で氷の壁の破壊を試みる。そして、約20回程の殴打が氷の壁にヒビを入れた。
「これで、トドメーー」
アイゼンのストレートが壁を叩き割ろうとする。だが、拳と壁が触れた瞬間さっきまでヒビの入っていた氷が更に厚く、大きくなる。
「はっはっは!これでもうお前のパンチは怖くないぜ!」
俺の笑い声に多少の苛立ちを覚えたのだろうか、アイゼンが不敵な笑みを浮かべながらこう言った。
「まぁ、確かにこいつは厄介だがよ…忘れちゃいないかいお前さん?俺の変化魔法。」
アイゼンは手に巻いていた布の硬質化を解き、氷の壁に触れる。するとガチガチに硬かったはずの壁がまるでゼリーのようにプルンとしたものになってしまった。
「…なんか、美味しそうニャね。」
「えぇ、あれが本物だったなら飛びつきたいくらいです…」
女子2人の会話を尻目に戦闘は続く。ゼリー状になった氷の壁を崩しながらアイゼンは歩みを進め、俺はその隙に距離を取る。
「うぉっ、やっぱ冷てえ…柔らかい氷とか初体験だな…」
どうやら氷ゼリーが予想以上に柔らかく、少々出るのに手間取っているようだ。
「そうかよ、なら今度はあっためてやるぜ!」
手にファイアを発動させ、アイゼンに向かって放つ。だが、それだと避けるか防がれるだろう。そこで1つ思いつく。
あ、連続してやったらいけんじゃね?
「おらおらおらおらぁ!!」
そんなわけでファイアを連続して放った。後から聞いた話ではこのやり方は初級魔法をある程度使いこなせたら出来る芸当らしく、火球連弾と言うらしい。他にも色々と種類があるとか。まぁ、この場では関係のない話だが。
そして打ち出した20ほどの火球がアイゼンに向かう。恐らく防がれるだろうが、少しでも足止めになればいい。
そう思って放った火球が、全て当たるとは思わなかったが。
「ぐぉあっ!!」
苦痛を上げるアイゼンに俺は少々疑問を覚える。
なんで今のは受けた?今氷の壁を柔らかくしてるんだから炎だって性質を変化させれば避けられたはずーー
「…!」
その考えから、1つの答えが生まれた。それを試すべくアイゼンに駆け寄り、2、3メートル程まで近づいた。
「…アイゼン、お前の変化魔法のカラクリ、分かったぜ!」
「…ほう?」
「お前は…常に1種類しか性質の変化が出来ないんだろ?」
「…かっかっか!何を言うかと思えばそんなこと…な訳ねぇだろ。」
「どうだろうな?だったら、なんで氷をゼリー状にする時わざわざ布の硬質化を解いたんだよ?」
「それは、手を布で覆っていたからさ。俺の変化魔法は手で触れないと発動出来ないのよ。」
「そうか、だったら左手でやれば良かっただろ?実際左手は覆って無かったんだし」
「そりゃ…右手で触れるっていう条件もあるからな。」
「…へぇ、なら今は右手も空いてるし周りには地面も見えてる。この状態なら床の性質を変化させて俺を攻撃できるだろ?」
「そりゃ…」
口が閉じ始める。どうやら図星のようだ。
「仮に俺の言ったことが合ってるなら、床の性質を変化させた瞬間、お前を覆っている氷ゼリーの性質は元のガチガチの氷に戻る。そうすればお前の下半身を覆っている氷ゼリーも戻るからついでに凍りつく。だから迂闊に攻撃出来ない…と、俺は考えたがどうだ?」
アイゼンは完全に口を閉ざし、やがて。
「ご名答だ。…まぁ、詳しく言えば2個目の変化をした場合、1個目の変化はしばらく使えないって条件もあるがな。…だがよ、だからどうした?別にカラクリを見破られたからってどうこうなるとは思えんぜ?」
「…でも、さすがにこの距離からならファイア一発でも致命傷だよな?」
僅かに眉を動かすもアイゼンは不敵な笑みを浮かべる。
「さて、どうだか…な!」
アイゼンは不意に辺りにあった氷ゼリーを俺に投げつける。その瞬間に変化魔法を使ったのだろうか、氷ゼリーは一瞬でガチガチに硬まり俺の顔面に迫る。
「うおっ!?マジかよ!?」
慌ててファイアで応戦するが、溶けにくくしてあるのか溶けない。
「なら、叩き割って…!」
具現化していた武器を飛ばして破壊しようとするものの硬さが強化してあるのかことごとく弾かれる。
「くそっ、避けるしか…!?」
動こうとすると足元に違和感を覚えた。見ると足元が氷に覆われていた。恐らくは最初に投げた時に合わせて投げ、硬質化したのだろう。
「さて、形成逆転だな!」
気付けば、アイゼンは氷ゼリーから抜け出していた。氷の塊も1メートル程に迫っている。
「くそ、どうすれば…」
必死で模索する中、レゼリアが剣を炎で創っていたのを思い出す。
「…やってやる!」
ファイアを手にかざし、なんとか剣を形成しようと試みる。だが、思っていたよりも難しく、ウネウネとするばかりで思ったモノにならない。
「くっ…やっぱ、そう、上手くはいかない…か…」
諦めかけた、その瞬間。
「レン様ー!好きなようにやるんですよー!」
「…!」
そうだ、別に剣じゃなくても良いんだ。防げれば、これを防げさえすればーー
「一か八かだ!創成魔法!炎盾!」
ファイアは俺の声と同時に形を変え、直径2メートルはあろう大盾を模した物に姿を変えた。
「や、やっーー」
ホッとするのもつかの間、盾の出現とほぼ同時に水分が蒸発する音が大音量で鳴り響く。もしこれが当たっていたら…そう考えると身震いが止まらなくなるのでやめた。
「…」
アイゼンもそれを見てさすがにポカーンとしている。その隙にファイアで足を覆っていた氷を溶かす。
「アイゼン、これで形成逆転だな!」
「はっ…形成逆転だぁ?まぁ、創成魔法ってのは見事だが…それでどうにか出来んのか?」
アイゼンは再び腕に布を巻きつけ硬質化する。
「まぁ、厳しいけど…今は結構調子が良いから…な!」
具現化していた武器を引き連れアイゼンに駆け寄る。
「どうした!またさっきの攻撃に戻ってるぞ!」
「あんただって、腕の布で防げるのか?」
「ご心配なく。これくらいの距離なら余裕で変更出来るんでな!」
アイゼンは瞬時に布の変化を解き外套を硬質化して自らを覆う。それと同時に武器は襲ったがまたも弾かれてしまう。
「さて、これで終わりか…い…?」
外套から姿を出したアイゼンを至近距離で迎え討つ。
「せあっ!!」
武器での攻撃は案の定避けられ、距離を取られた。そして再び布を巻きつけ硬質化してこう言った。
「あぶねーなまったく…さて、今度こそいく…うおっ!?」
こちらに向かおうとしたアイゼンが転ぶ。
「痛え…どうなってんだ…?」
辺りの地面一帯には氷の膜が張っていた。
「お前が外套で覆っているうちに辺りに氷を張らせてもらったぜ!」
「なるほど。滑って転んだってわけか…こりゃ恥ずかしいな。だが、次はこうはいかねえ…!」
起き上がろうとするが、何故か動けない。見れば両腕両足が氷で覆われていた。
「ちっ、面倒くせえことを…」
氷を無理やり起き上がろうとするが、それをされてはたまらないのでアイゼンに詰め寄り剣を喉に突き立てる。
「動くなよ?出来れば、負けを認めて欲しいんだが?」
この状況下で、それでもアイゼンは不敵に笑う。
「かっかっか、見事だ。だがこんなの、俺の変化魔法でーー」
「確かに、また氷をゼリーにすればいいだろうさ。でも、自分の右手を見てから言った方がいいぜ?」
「…!」
アイゼンの右腕は、硬質化した布で手の先まで覆われたままだった。
「…まぁ、確かにさっき右手を使うとは言ったがよ、それが嘘ってこともあるんだぜ?」
「なら、無理やり起き上がる必要は無いよな?」
「…」
再び口が閉じる。
「さあ、どうする?」
生まれる静寂。そして。
「…分かったよ。俺の、負けだ。」
不敵な笑みを浮かべたまま、アイゼンは負けを認めた。
やっとこさアイゼンとの勝負に一区切り着いた気がします。これからも読んで頂ければ幸いです。




