魔王になったけど旅立つことになりました。
懇々と微睡む意識の中で俺は壮大な物語を見た。自分が魔王になって世界を侵略するというものだ。あまりにも馬鹿馬鹿しい。高1にもなってそんな夢を見るなんて…
「…!」
そんな目が覚めかける前の状態の俺を呼ぶ声が聞こえた。恐らくは妹だろう、もう少し寝かせてくれ…
「…様!」
…様?おかしい。俺の妹はお兄様などとは呼ばないはずだが…
「魔王様!」
その言葉で意識が覚醒した。周りを見渡すと見慣れたいつもの部屋…ではなく、洞窟の中のような所だった。ベッドだと思っていたのは岩だった。どうりで寝心地が悪かった訳だ。続いて声の主を探す。声からして女の子ではあるようだが何故俺を魔王様などといったのだろうか。そうするとわりと近くから声の主が見えた。
「やっと起きられましたか、魔王様。」
瞬間、俺は固まった。見た目が変だったからだ。と言っても顔立ちや外見という点ではただの可愛い女の子なのだが、そんな彼女の頭に目がいった。角だ。普通の人間に生えてるはずのない角が生えていたのだ。そうして固まっている俺をよそに彼女は言葉を続けた。
「さぁ!あの憎き王を倒しに行きまーー」
「待て待て待て。」
ようやく口が動いてきた俺は彼女に対して言いのけた。
「…何の話?てか俺魔王じゃないし、普通の人間だし、あとここはどこ!?ツッコミ所多いよ!」
俺の問いに対し今度は彼女が固まった。が、すぐに返しがきた。
「…まさか、覚えていないと?」
「覚えてない。てか、何か分からない。」
「……」
お互いに沈黙。そんな空気を破ったのは彼女の方だった。
「とりあえず、順序を辿って行きましょう。恐らく魔王様はショックで記憶が飛んでしまったのです。」
「あの、さっきから俺のことを魔王様って呼んでるけど何かの流行りかな?」
起きてからの数分で一番気になったことを聞いてみた。そんな俺に対し、彼女は呆れるような口調で言った。
「はぁ…でしたら鏡を見てください!ほら!」
無理やり渡された手鏡で自分の顔を見る。見慣れた茶色のショートヘアー、少し細めな目、頭に生えた角…
「ん!?」
角!?見間違いだろうと頭に触れる。するとあるはずのない触り心地があった。予想より硬く、引き抜こうとしてもビクともしない。
「…まさか」
「そうです!貴方様はこの世を統べた魔王、レン様なのです!」
…信じたくはなかったが、あながち嘘という訳でもなさそうだ。頭に生えた角がそれを証明している。
「そうか…そういえば、君の名前は?」
「それまでも忘れたのですか!?」
反応からすると割と近しい間柄だったのだろう。落胆しているのが目に見える。
「私は!貴方様の側近、レゼリアです!」
…どんどんと現実味を帯びてきている。が、それでもまだ信じられない。こんな夢みたいな話…夢?そうだ、そういう時にはきちんとした対処法があるんだった。
「だったら…レゼリア、ちょっと俺の頬を叩いてくれないか?」
「…へ?」
案の定キョトンとされたが続ける。
「いや、まだ寝ぼけててな…とりあえずビンタされたら少しは目が覚めると思うんだ。」
「なるほど、分かりました!それでは失礼ですがさせていただきます…」
これで夢から醒める…そう思った矢先、
バチィン!!
レゼリアの全力のビンタが頬を捉えた。しっかりと伝わる痛みと共に。
「痛ってぇぇぇぇ!!!」
俺はその場でのたうち回った。
「だ、大丈夫ですか魔王様!」
「あ、あぁ大丈夫だ…」
これではっきりした。これは、現実だ。俺に角が生えたことも、俺が魔王だということも、この痛みが証明した。
「そんな訳で、あの憎き王を倒しに行きましょう!」
「えーと…その王って誰?」
「それも忘れたのですか!?」
「うん…ごめん…」
「……」
彼女は呆れかえって、俺に説明し始める。
「いいですか?私達魔族は人間と干渉しないようにしてきました。ですが、とある人の王は私達が保有している魔力に目が眩み人間虐殺と言うあらぬ罪を着せたのです。それによって侵攻してきた人間軍によって魔族の大半はやられ、残った者は散り散りに…」
「そんなことが…」
「こんな状況では魔王様の記憶が消し飛ぶのも無理はないです。それだけ悲惨な状況だったと言う訳ですから。」
「……」
何も言えない。言えるはずがない。そんな戦争の真っ只中にいるなんて信じられない。
「ですから!一刻も早くあの王を倒しに行きましょう!」
「え、あ、ちょっ…」
「善は急げですよ!魔王様!」
「えーー!!」
こうして天使 憐こと、魔王レンの旅が幕を開けるーーーー
新参者ではありますが、見てくれたら幸いです。気が向いたら投稿させていただきます。