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ミシロvs.アイゼン 後編

「…ここで諦めるのは男じゃねえからな、悪いが最後までやらせてもらうぜ。」


「いい根性してるニャね。それじゃ…遠慮なく行くニャよ?」


ミシロは再び刀に手を掛ける。一方のアイゼンは構えを取り素手で立ち向かう姿勢を見せている。さっきの言葉はただの蛮勇なのか、それとも…


「あんまりこれは使いたくニャいけど…喰らうニャ!鎌鼬(かまいたち)!」


刀を振ると斬撃状の衝撃波が出現し、その勢いのままアイゼンに斬りかかる。しかしすんでの所で避けられ、斬撃は壁に衝突。大きな穴を開けた。


「…あぶねぇあぶねぇ、流石にこれ喰らったら無事じゃ済まねぇな…」


「すげぇな、石造りの壁が真っ二つだよ…」


「うーん…」


「どうしたんだよレゼリア。そんな微妙な顔して。」


素人目にも分かるシンプルかつ豪快な魔法。何故レゼリアはそれを首を傾げて見ているのか、それがふと気になった。


「いえ…あんな魔法使えるならどうして最初から使わなかったのかなー、と思いまして。魔法同士ならさっきの魔法弾も相殺出来たはずなんですよね…」


…言われてみると確かにそうかもしれない。序盤から使用していればもう少し早くケリがついただろうし、あそこまでの苦戦を強いられることは無かっただろう。そんなリスクを負ってまで何故頑なに魔法を使おうとしなかったのだろうか。


「にしても、こんな隠し球持ってたとはな。正直驚きだ。初っ端から使っときゃ良かったんじゃねーのかい?」


「…確かに便利ニャけど、近接戦闘上等の剣士が斬撃飛ばすなんて、そんなの邪道でしかないからニャ。」


その後ミシロはポツリポツリと訳を話す。彼女曰く、武器による命のぶつかり合いの間際に磨かれる精神。剣舞の様な美しさと狂気染みた鬼迫。それらを全て圧縮した一振りを放つ。これが近接戦闘を行なう者の信条であり誇りであるらしい。なので、遠距離攻撃を使うことはその道の者にとっては好まれないものであり、ましてや自分の愛用している武器を媒体として放つなどもってのほか、だとか。


「…なるほどな。」


それを聞いていたアイゼンがゆっくりと口を開ける。


「だが、その誇りってやつはここでは捨ててくんねーかい。それをモットーにしてるのは分かるが、お前さんだってやり辛ぇだろ?それに、もう使ったんだから2、3回使ったって一緒だぜ。」


「それは、そうニャけど…」


(うつむ)き黙るミシロを見て、何を思ったかアイゼンが言い放った。


「まぁ、たかが一回使ったくらいでそんな顔されちゃこっちも興醒めなんでな。そんなちっぽけなプライドが傷付いたってんならやめてもいいんだぜ?」


「おい!それは言い過ぎーー」


「落ち着いて下さい、レン様」


「これが落ち着いてーー」


「大丈夫ですよ、きっと。」


仲間を侮辱され、一瞬激情に身を任せそうになったが、レゼリアに見つめられる内にその怒りが過ぎ去ってしまった。


「多分、あれはーー」


レゼリアの見据える先には俯きながらもその場から離れようとしないミシロの姿があった。


「さぁ、どうすんだ嬢ちゃん。続けるのかい?」


「…別に、使いたくないとは言ったけど、使わないとは一言も言ってないニャよ?そこんところ、履き違えないで欲しいニャ。」


「…余計なお世話だったってか。」


不敵な笑みをアイゼンに向け、刀に手をやる。どうやら吹っ切れたようだ。


「…本気で行くニャよ!」


「…来い!」


そして再び、鎌鼬での攻撃が始まる。2撃、3撃と繰り出すものの、全てを避けられる。だがそれを気にするわけでもなく更に鎌鼬を繰り出す。そしてーー


「うおっ!?」


長らく回避をしていた為か、アイゼンの足がよろめく。それを好機と見たミシロは居合の構えを取り、アイゼンに斬りかかる。


「これで…終わりニャ!」


そして、刀がアイゼンの顔寸前まで迫る。…はずだった。


「甘いっ!」


その一振りは、放たれた銃弾に遮られた。ミシロは間一髪でそれを避けたが、顔は驚きに満ちていた。


「ニャ!?さっき銃は斬ったはずニャのに…」


アイゼンがおもむろに法衣を脱ぐ。するとそこには大量の銃の類が入っていた。


「…なんでニャ。普通そんなに持ってたら重くて動けないはずニャよ?」


確かに、見た所10数丁の銃が装備されており中には機関銃(マシンガン)の様なものもあった。単純に見積もって30㎏くらいはあるであろう物を身に付けながらずっと動き回っていられるわけがない。


「まぁ、言っちまうと魔法だな。俺の重力魔法、無重力(ニューロ・グラビトム)で触れた者の重さをゼロに出来んだよ。」


「なるほどニャ。でもいくら無重力だからってそれ全部持って撃てる訳じゃニャし、別に怖くはないニャよ?」


普通であればそう思うのが妥当、だがそれはある魔法を使えば一瞬で瓦解する。


「なら、もうちょい本気出すか。操作魔法、自動射撃(フルファイア)!」


発動と同時に10数丁の銃が浮かび上がり、ミシロに照準を合わせた。


「…こりゃ、面倒くさいニャね。」


溜息をつきながらも、刀に手を掛ける。まだやる気のようだ。


「安心しな。流石に2つ同時に使うと魔法弾そんな撃てねぇから実弾で相手してやるよ。全弾斬り落とせたら、の話だがな。」


「…それはありがたいニャね。生憎だけど、弾の弁償費は払わないニャよ?」


再び互いが挑発しあう。そして直後、戦闘が再開した。


「喰らえやぁぁぁ!!」


アイゼンの大声とともに銃達が火を吹く。数千発は下らないだろうその弾が全てミシロに牙を向ける。無論それを片っ端から斬り落としていくが、いくら腕前が達者だとはいえ数千発の銃弾を全て斬ることは出来ず、腕や足の末梢部分に弾がかする。


「ギニャっ…」


苦痛の声を上げながらもミシロは弾を斬りながら距離を詰めていく。


「…やるねぇ。敵ながらあっぱれだ。」


攻撃を続けつつ、アイゼンは称賛の声をあげた。


「だが、これ以上は見てられないんでな。ちょいとキツイが、これで終わりにしてやらぁ!」


銃弾の雨嵐を止めるとアイゼンは精神を集中し始めた。その隙を逃すはずもなく、ミシロは傷ついた身体で距離を詰めようとする。だが、それよりも少し早く。


「喰らえ!魔導滅弾グリモアール・ビライツ!」


10数丁の銃全てから魔導弾が発射され、それが一つに合わさって極大の光線となって襲いかかる。


「こんな…こんな所で終わってたまるかニャあぁぁぁ!!一式居合・滅魔斬り!」


それに負けじとミシロも刀に魔力を込め居合を放つ。魔力を帯びた刀身は長さが数メートル程伸び、魔力の影響だろうか光輝いていた。


そしてその光線と刀がぶつかり合った瞬間、辺りが眩い光と爆風に包まれた。


「うわぁぁ!?」


「きゃあああ!!」


やがてそれも収まり、次第に視界が開けていく。ミシロは満身創痍ながらもなんとか立っている。一方のアイゼンは多少の手傷を負っているものの、まだ戦えそうな素振りを見せている。


「…さて、まだやるかい?」


「あんまり…舐めないでほしいニャね…こっちはま…だ…」


刀を見やったミシロの言葉が止まる。刀身は折れ、果物包丁ほどしか無かった。


「俺の…刀が…」


「…お前、さっき俺の魔導砲斬ろうとしただろ?いくら魔法を纏ってても流石に折れるぞ。」


「…」


ミシロの手から刀が落ち、その場に立ち尽くした。そしてアイゼンはミシロの前にやって来て銃を突きつける。


「今度こそ終いだぜ、嬢ちゃん。」


「…」


ミシロはどうとも言えない表情でアイゼンをしばらく見ていた。やがて、口を開くと。


「…降参ニャ、俺の…負けニャ。」


震えるような声でそう言ったあと、ミシロは地に伏した。


何故かしら長くなりましたが書かせていただきました。見て頂ければ幸いです。

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