アイゼン魔法騎士団団長 アイゼン=ヴァルトウォール
「ここがアイゼン魔法騎士団の本部です。」
歩くこと数分、俺たちはレンガ造りの建物の前に立っていた。
「はぁ〜、大きいですね〜」
「まるでお城みたいニャ。」
「それ程でもありませんよ…さ、中に入りましょう。」
ホーガンは扉の前に立っていた団員に敬礼を交わし俺たちを中へと迎え入れた。内装は中世ヨーロッパの古城の様な感じで個人的には好きだ。
「では、ここでしばらくお待ちください。」
応接室の様な所に案内され、ひとまずソファに腰掛けた。することもないので周りをキョロキョロ見渡して時間を潰す。
「なんか、高そうなモノがゴロゴロしてるニャね。」
「レン様、壊さないで下さいよ?」
「お前らもな…」
確かに見るからに高そうな壺や装飾過多な宝剣などがそこかしこに置かれていた。
「一個くらい貰えないですかねぇ…」
「バチが当たるんじゃねーのそういうのって。」
「わ、分かってますよ!いくら何でもそのくらいの分別はあります!」
いやそんな輝いた目で宝剣見ながら言われてもなんの説得力もないんだが。
「そ、そう言うレン様こそさっきからキョロキョロしてるじゃないですか!」
「これは暇だからで…てか、ミシロはこう言うの興味ないのか?」
「んニャ?あぁ、興味が無い訳じゃニャいけど他人のに手を出すマネはしないニャ。」
こういう旅人は宝物に目がないと思ってたけどそういうもんなのか。
「それにしても、ホーガンさん遅いですねぇ…」
「ん、あぁ、なんか用事でもあるんだろ。」
およそ5分経っただろうか、とりとめのない会話をしているとドアが開き、ホーガンが見知らぬ人物を連れてやって来た。
「すみません、お待たせしました。」
「いえいえ、それほど待ってませんでしたよ!…ちなみに、そちらの方は?」
ホーガンの後ろをついてきた男はぱっと見で175から180くらいの身長でゆったりとしたローブを纏っていた。
「えーとですね、この方はーー」
「余計な前置きはいらんさね。俺が話す。」
言いかけてたホーガンを後ろに下がらせ男はソファに座った。
「そんじゃ、余計な前置きは無しにして自己紹介といこうか。俺はアイゼン=ヴァルトウォール、このアイゼン魔法騎士団の団長をやってる。」
「えっと…あ、はい。…え、団長?」
スラスラと流れる自己紹介で呆気に取られていたがこの男が団長なのか。もうちょっと年老いた厳つい武人を想像していたのだが、まだ20代くらいの青年に見える。
「団長さん…ですか?」
「結構若いもんニャね。」
「かっかっか、お嬢さん二人に言われるとは嬉しいねぇ。」
二人に言われ、嬉しそうな表情を浮かべるアイゼン。…女子2人?
「ミシロって、女なのか…?」
「え、そうだったんですか!?」
確かに女と言われればそう見えるが、口調から考えて中性的な男かと思っていた。
「あれ、言ってなかったかニャ?」
「マジかよ…てか、それを一発で見抜いたアイゼンさんって一体…」
「確かに、俺が女って初見で見抜いた人ってあんまり居ないニャね。」
「あららそうかい、そいつは面白いねぇ。」
アイゼンはそれを聞いて呵呵と笑ったが次の瞬間には顔を変えて真面目な顔をとった。
「いきなりで悪いんだがお前たち、ウチの騎士団に入るつもりはねぇか?」
「…はい?」
突然の問いかけに思わず聞き返した。
「なに、さっきホーガンからお前さん達が凄い魔法使うって聞いてな。なんだっけな、えっと確か…」
「具現魔法です、団長。」
「おお、そうだったな。それで、その具現魔法とやらを使える奴がウチには一人も居なくてな、それにそっちのお嬢さん達の魔法も中々ときた。勧誘しない訳にはいかねぇだろ?」
「まあ、そうだニャ。」
ミシロがうなづく。しかし、俺の決意としては…
「すみません、申し出はありがたいのですが、お断りさせてーー」
「そうくると思ったぜ。なら仕方ない、とはいかねぇんだ。こっちとしても戦力を増やしたい所でな、そうそう諦める訳にはいかないんよ。」
アイゼンの言い分は間違ってはいない。誰も使えない魔法を使う者、優秀な魔力を持っている者。俺なら迷わず仲間に誘う。本来なら申し出を受けるべきなのだろうが俺にはやるべきことがある。国王を倒し、元の世界に帰らなければならない。女神がどうとか、レゼリアはそう言っていたが、伝説上の存在である以上はその不確定要素に頼る訳にもいかないのだ。
「では…一体どうすれば?」
俺の質問にアイゼンは少し考えた後こう言った。
「そんじゃ、俺と手合わせしてお前さん達が勝ったら好きにしな。その代わり、負けたら俺の言うこと聞いてもらうぜ?」
「…手合わせ、ですか。」
「あぁ、こっちとしてもお前さん達の実力見てみたいしな。」
「団長、いくらなんでもそれは…」
「硬いこと言うなよホーガン。そんなガチガチだと人生つまんねーぞ?」
「で、ですが…!」
「ま、無理にとは言わんよ。さっきはああ言ったがぶっちゃけお前さん達に任せる。さぁ、どうする?」
いきなり手合わせを申し込まれたのでどうしようかと考えていたがこう来るとは思わなかった。
…ぶっちゃけやらなくて良いならやりたくない。魔王の力があるとはいえ、あまり使った事もないのでその状態で魔法騎士団の団長と戦うのは流石に分が悪い。さて、どうしたものか…
「レン様、ここは戦っといた方が良いと思うんですが…」
などと考えていると、レゼリアが俺に耳打ちしてきた。それに合わせて俺も耳打ちをする。
「何でだよ、やらなくて良いならそれでいいだろ?」
「いや、そうですけど!なんか、鼻っ柱折っとかないと気が済まないじゃないですか!」
「どんな思考回路してんだよ…」
「それに、一回見せつけといた方がいいですって!こう言うのは曖昧な返事するとしつこく勧誘されますもん!」
「そうだけどさ…」
「ニャんか、コソコソやってるようだけどさ。」
不意にミシロが俺に話しかけた。少しビクッとしたが彼女は話を続ける。
「別に俺はどっちでもいいニャよ、やりたい方を選べばいいニャ。」
ふーむ、どうしようか。戦いたくないと言うのは事実だが、レゼリアの言ったこと間に受けるとなるとちょっと気にくわないし…
そして考えること数分、俺は決断を下した。
「では…お手合わせお願いします。」
「…そうくると思ったぜ。」
アイゼンは呵呵と笑いながら席を立ち、案内するような仕草を見せた。
「そんじゃ戦う場所に案内…といきたいが、俺も準備があるんでな。先に行ってるぜ。ホーガン、案内任せたぞ。」
そう言うとアイゼンは足早に部屋を出て行った。
「…申し訳ありません。団長の勝手で皆様に迷惑を…。」
「気にしないで下さいよ!むしろ団長さんをボコボコにしますからその心配してて下さい!」
…そんな啖呵を切る発言していいのだろうか。
「中々に面白いことを言いますね。よほど自信がおありのようで。」
「はい!なんたってレン様は魔おーー」
「いえいえ!こちらも全力で戦いたいと思いますのでよろしくお願いします!」
この野郎、何さらっと俺が魔王ってこと言おうとしてんだ。
「は、はい。では、参りましょうか。」
ホーガンが部屋を出て、それにミシロが続いた。それを見計らって小声でレゼリアに文句を言った。
「馬鹿野郎!何バラそうとしてんだよ!」
「いや〜すみません、つい…」
「つい、じゃねーよ!バレたら俺らただじゃ済まねえだろうが!」
「ま、まぁバレてなさそうですからいいじゃないですか!それより、二人とも行っちゃいますよ?」
「やべっ…急ぐぞ!」
なんかはぐらかされた感が否めないのだがとりあえずそれは後回しにすることにした。
そして、アイゼンとの戦いが幕を開けるーーー
遅れましたが投稿させていただきました。見て頂ければ幸いです。




