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ワドパスの街にて

「なぁレゼリア、あとどのくらいだと思う…って行ったことなかったか。」


「うーん…分からないですけど多分あと3㎞くらいじゃないですか?」


「いや、後1㎞くらいだニャ。」


「あ、分かるんですか?」


「まぁ、何回か行ったことはあるからニャ。今回はちょっと道に迷ったけどニャ。」


などと、他愛のない話をしている内にワドパスらしき街影が見えてきた。


「あれがワドパスか。」


「長い道のりでしたねぇ〜」


「…?なんか、様子がおかしいニャ?」


そう言われて急ぎ足で街に入ると妙な光景に気付いた。と言っても街の活気としては何ら違和感は感じないのだが、所々に見られる法衣を着た謎の集団が目に映った。


「何なんだあれ…」


「ミシロさん、あの人達は?」


「…少なくとも俺が前来た時はいなかったヤツらニャ。」


法衣を着た連中は、初め俺たちを見てもなんのリアクションも起こさなかったが風貌を見て冒険者と判断したからかその内の一人が近付いて来た。


「ようこそ、旅の方ですね?」


「えっと、あ、はい…」


「ようこそワドパスへ。私達はこの街で訪れた旅人達に魔法を布教と自治をしているアイゼン魔法騎士団と呼ばれておりまして、私はホーガンと申します。」


貴方達は、と問おうとしたがそれよりも早く向こうが説明してくれた。そして、レゼリアがふとした疑問に気付いた。


「…?ここって魔法都市ですよね?なのに、魔法を布教するって変じゃないですか?」


「あぁ、説明が足りませんでしたね。ここ、ワドパスには魔法を学びに来る方も多いのです。ですので、それの支援を無償でさせていただいております。」


「そうなんですね、立派なことだと思います!」


「…ふむ。皆様方、魔法は使えるようですね。よろしければどんな魔法を使うのか見せて頂けませんでしょうか?」


別に、魔法が使えるとは一言も言っていないのだが何故分かったのか。そんな疑問が生まれ、理由を聞いてみた。


「何故、俺たちが魔法を使えると?」


すると、存外簡単な答えが返ってきた。


「実は、魔法が使える人は周りの魔力の流れが少し違って見えるのです。目を凝らせば違いが分かりますよ。」


言われた通りに目を凝らすとうっすらとだが光の胞子の様なものが漂って見えた。恐らく、これが魔力なのだろう。その胞子を追って周りを見るとそこら中に胞子が漂っていた。


「うわ…すっげ…」


そして、よく見ると確かに違いというものが分かった。ホーガンと名乗るこの男の周りの胞子は他のものより光の度合いが強くなっていた。


「分かって頂けましたでしょうか。では改めまして、魔法を見せて頂けますか?」


「あー…っと…」


言われたものの、まだ躊躇いが消えたわけではない。そんな訳で、申し訳ないが断りを入れようとしたら、


「分かりました!お安い御用です!」


と、レゼリアが答えてしまったのだが。


「な、なぁレゼリア…。大丈夫なのか…?」


「大丈夫ですよ!見せたって別に減るもんじゃないですし!」


そんな簡単に見せていいものなのか、と思いレゼリアに耳打ちをしたのだが無駄だったようだ。


「ありがとうございます。私、人がどの様な魔法を使うか見てみたいものでして。」


職業病なのだろうか、はたまたそういう性分なのか。兎にも角にも魔法を見せることになった。


「それでは、そちらの…えっと…」


「あ、言い忘れてましたね。私はレゼリアと言います!こっちがケットシーのミシロさんで、こっちが私がお使えしているレン様です!」


「そうでしたか。では改めまして、レゼリアさんからお願い致します。」


「分かりました!ではでは…」


そう言い、集中を始めた。そして間もなく(てのひら)に火の玉が浮かび上がった。


「ほほう、火炎魔法ですか!基本的だからこそ術者の腕が問われますからね、そうなるとレゼリアさんはかなりの腕前とお見受けします。」


「いやぁ〜、それほどでもないですよ〜」


こうして否定をしている訳だが、無論レゼリアの顔には笑みが浮かんでいる。…分かりやすいな。


「ではミシロさん、お願い出来ますか?」


「あー、いいけど…んじゃちょっとそこにあるやつ取ってきてくれるかニャ?」


ミシロが指差したのは外壁に立てかけられていた棒切れと鉄材だった。


「分かりました。少々お待ち下さい。」


一体何をする気なのだろうか。まさか、それで何か作るのだろうか。


「お待たせしました。それで、これをどうするつもりですか?」


ミシロはおもむろに棒切れを受け取り、鉄材を目の前に置く。棒の長さは60センチあるかどうかの何処にでもありそうなものだった。


「まぁ、見てのお楽しみニャ。」


そう言うと棒を正面に構え鉄材に目を据えた。周りの人達も何が起こるか一目見ようと集まってきた。そして多少の喧騒の中、一呼吸置いてーーー


「せあっ!」


鉄材は真っ二つに斬れ落ちた。


「…うはー!すごいですねミシロさん!」


「おぉ…すげぇ。」


「なんと…」


「ま…大したことはないニャ。」


俺たち以外にも「すけーぞあんた!」や「カッコイイー!」などと言われ謙遜こそしていたものの尻尾をフリフリしていたのでまんざらではないようだった。


「いやはや…見事でした。それにしても今のはどうやって…?」


「んー…まぁタネを明かすと、ただの斬撃魔法ニャ。あんたも、なんとか魔法騎士団ってのに入ってるんだったら見たことくらいあるんじゃニャいかニャ?」


「た、確かに見たことはありますが…少なくとも、私の記憶では木の棒で鉄材を斬れた人は居なかったですね…」


「それって、凄いことなんだよな?」


「まぁ…そうだと思いますけど…」


今さっきの出来事に呑まれながら曖昧な返事と共にミシロを見る。ひょっとしたら前に戦ったアンクよりも強いのではないだろうか。

…絶対怒らせない方がいいな。


「…おっとそうでした。最後にレンさん、貴方の魔法も見せて頂けますでしょうか?」


忘れられていたのだろうか、それともミシロの剣技が凄まじかったからだろうか、ついでの口調で呼ばれたことは目を伏せておくことにしよう。


「そんじゃ、いきますよ…それっ!」


とりあえず、具現化魔法でも使えばいいかな、的な考えで剣を具現化してみた。


「まぁ、こんなしょうもない魔法ですけど…って、どうかしました?」


何故かホーガンは目を丸くしていた。まぁ、魔法騎士団に居たらこんな魔法ありきたりに見えるだろうな。などと思っていたら


「…今、何しました?」


そう問いかけられた時には返答に困るだろう。ミシロも興味津々に俺の方を見ているので少し気恥ずかしい。


「何をした、と言われてもただ剣を具現化しただけです…けど…?」


ミシロはそんな俺の説明を聞いて「もう一回見せてくれニャ。今度はタネを明かしてみせるニャ。」と手品かなんかと思っているし、肝心のホーガンは俺が言い終わった直後から何かブツブツと言っている。耳を済ませてみると


「何故魔力で無の状態から物質を…いや普通の魔法だって…しかしそれはあくまで胞子の集合体であって…ならば何故…」


などと聞こえたので、あぁ、やっぱり職業病なんだなと思わせられた。


「…よろしければその剣見せて頂いても…?」


「あ、どうぞ。」


俺から恐る恐る剣を受け取りまじまじと眺める。切れ味の確認だろうか、持っていた紙を剣に近づけたらスパッと斬れたのに多少驚いていた。それから数分、満足したのか剣を返してきた。


「ありがとうございました!…ちなみに、この魔法はどこで…?」


「え?あー…気付いたら、覚えてたんですけど…」


ぶっちゃけ修行も何もしてないし、レゼリアに使える魔法のリスト見せられて知っただけなんて絶対言えない。


「……」


ほら、ホーガンさんも固まってるよ。収集つくのかなこれ。


「…あの、よろしければ魔法騎士団の支部に来て頂けませんか?」


「…何故?」


なんで?しょっぴかれるの俺たち?そんな言葉を呑み込んで問いかける。


「貴方の魔法にたいへん興味が湧きましてですね、よろしければ詳しくお話しさせて欲しいのですが…」


「うーん…」


先を急いでるから遠慮したいな…よし、そうしよーーー


「いいですよ!でも、お茶菓子は出して欲しいですねー」


…レゼリア、お前バカなの?ねぇ、バカなの?そう言いたいのをグッと堪えて彼女に耳打ちをする。


「…大丈夫なのか?俺が魔王ってバレたら…」


「大丈夫ですよ!魔法でなんて素性バレませんから!」


なんかさっきもこんなのあった気がするな。歴史は繰り返すってこういうことか?


「それでは本部まで案内致しましょう、こちらです。」


「はーい!」


「…大丈夫なんだろうか。」


「どうしたんですかー?置いてきますよー?」


「ま、郷に入っては郷に従えってやつニャ。行くニャよ?」


「はぁ…」


こうして、レゼリアに急かされ、ミシロに励まされ魔法騎士団の本部へと向かう事になった。










「嫌な予感しかしねぇ…」


そんな呟きは誰に聞こえる訳もなく空へ舞っていった。

かなり久々となりましたが投稿しました。見て頂ければ幸いです。

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