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戦場大助の日常 四話

「ただいまー。おーい、小守、帰ったぞ」

 今日も今日とて学校に行って、バイトに行って、やっと帰ってきた。毎日が同じことの繰り返しでそろそろ飽き飽きしてきたが、平和が一番だと無理にでも思うことにする。

「おーい、返事くらいしろ」

 靴を脱いで六畳間に行くと、「くー……くー……」とかわいらしい寝息を立てた小守がいた。

「ったく、テレビの前で横になるって、優雅な生活だなぁコイツ」

 テレビ画面の中で、小守の操作するキャラクターがずっと立ったままになって放置されていた、どれくらいこうしていたのだろうか?

「お前も大変だな」

 俺はゲームのキャラクターにそういうと、テレビの電源をオフにする。

「――普段は不遜でエラッソーにしてるけど、寝顔だけはガキだな。まあ、こいつにもこいつなりの苦労があるんだろうけどさ、って、よく見るとこいつよだれ垂らしてるじゃねーか……まあ、起こすのもかわいそうか、しかたねー」

 タンスの中からタオルを出して、それで小守の口元を拭う。

「う、うん……」

「ん、起こしちまったか?」

「…………くー」

「そうでもないか」

 よし、ヨダレは拭いてやった。あとは知らん。腹も減ったのでカバンを部屋の隅に投げ置いて、俺は二階の食堂に行くことにした。




「ただいま、芽衣子さん」

 二階の階段を上がって、すぐのところにあるドアを開ける。

 食堂の作りはというと、俺らが借りている部屋三つ分くらいの広さにカウンター席とテーブル席があって、初めて見たときはなんとなくラーメン屋の作りに似ていると思った。

「あらー、大助くんお帰りー」

 芽衣子さんはニコニコと俺の帰りを出迎えてくれた。

 芽衣子さんについて、芽衣子さんはこのアパートの大家さん兼調理人。どんな時でも落ち着いていて、何があっても「あらあらー」で済ませてしまうある意味肝っ玉母さんだ。

 そしてもう一人。

「よっ、大ちゃんおかー」

 気軽に右手をピシッと上げてニシシとどこか挑戦的ともとれる笑顔を俺に見せる。

「涼子、お前も帰ってたのか」

 カウンター席には長年一緒にいるもはや腐れ縁のチビ幼馴染、寺門涼子が座っていた。

 涼子について、といっても長年一緒にいる俺もこいつのことを何と言えばいいのか言葉に詰まる。小さい頃、施設で初めて出会って、いじめられていたコイツと避けられていた俺は同じ外れ者同士一緒にいる機会が多かった。中学に上がるころにはいつの間にか涼子はいじめられなくなり、というかむしろいじめてた奴らにやり返して、土下座させてたのは忘れられない。それからどんどん人間をやめていくように力をつけはじめ、今となっては頼れる相棒といった感じだ。小守の件でもかなり助けられた。今の状態の小守がいるのは俺じゃなくてコイツと、あと砂糖さんの力によるところが大きい。容姿は低身長とポニーテールのせいで年齢相応には見られない。胸もまあ、つつましいほうだ。いろいろと人間離れしているコイツだけど、成長だけはうまくいかなかったんだよなぁ。まあそんな感じで、うまくまとめられなかったけど涼子ついてはこんな感じ。

「なんか久しぶりにお前を見た気がする」

 靴のまま入って、カウンター席にいる涼子の隣に座る。

「まーねー、ちょいと気になることがあるって砂糖さんからお使い頼まれてた」

「へー」

 涼子は、その能力の高さを砂糖さんに買われて、たまに仕事の手伝いをしている。

「大助くんご飯あとちょっとでできるから、もう少し待っててねー」

「はい、いつもありがとうございます」

「気にしないでいいのよ、私が好きでやってることだからー」

 そういって芽衣子さんは料理に戻る。

「あ、そうそう。これその時の戦利品。大ちゃんにあげるわ」

 涼子は思い出したかのように、制服スカートのポケットから正方形の小さなものを俺に差し出した。

「なんだこれ、鏡?」

 受け取ってみると、それは手のひらサイズのどこにでもありそうな手鏡だった。

「そう、鏡。照魔鏡だ」

「ショウマキョウ? なんだそれは」

「伝説上に存在する鏡なんだと、なんでも、人間に化けてる妖怪なんかの正体を見破る鏡なんだそうだ」

「へえ、伝説上の鏡ねぇ」

「あ、大ちゃんその顔はうさんくせーって思ってるな」

「まあ、伝説上のーだなんて聞くとな」

「アタシもそう思う。でも、砂糖さん絡みだからなー。確か、伝説を元とした術式を埋め込んであるとかないとかなんとか、聞いたんだけどよくわからなかった、けどとりあえず何枚かもらってあと全部割ってきたからもう使えないでしょう」

「お前砂糖さんに何頼まれてんの?」

「それは言わぬがなんとやらってやつだぜ、ニシシ」

 涼子は笑う。

「はーい、二人ともできたわよー」

 丁度、芽衣子さんの料理ができたようだ。鏡は邪魔なので制服のポケットに入れておく。

「今日は肉うどんよー、たくさんあるからおかわりしてねー」

 俺と涼子の前に器に入ったうどんが出てくる。

「うほー! うまそう、いただきまーす!」

 涼子は箸立てから箸を取り出して、麺をすする。

「うまー!」

 がっつく涼子を横目にチラリと見て、俺もうどんを食べることにする。

 うどんの上半分ほどに自己主張するように肉があって、その隣に刻みネギが少量。ダシのにおいが鼻孔をくすぐり、口の中に自然とよだれが出てくる。

「いただきます」

 小守も起こしておけばよかったかなとも思ったが、そんなことはもうどうでもいい。今はただ空腹を満たすのみであった。

「うまい!」

「やっぱ芽衣子さんの手料理は最高だ!」

 その夜、俺と涼子は肉うどんを三杯おかわりをしたのだった。

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