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戦場大助の日常 二七話

ここから第二部的な?

続けられるかな?

 みーんみんみんみんみん、みーんみんみんみんみん。

 蝉の声がやかましい七月下旬。俺たち学生にとってはうれしい時期に突入した。そう、夏休みだ。


「よっしゃああああ! これから毎日遊べるぞ!」

 隣を並んで歩くポニーテールのチビは寺門涼子。幼馴染というか腐れ縁だ。人間離れした身体能力を持つ分類上は人間だ。

「ふん、言っておくがありすぎる時間は人をダメにするぞ」

 俺を挟んで涼子の反対側にいる黒髪ロングのさらにチビは小守。こっちは正真正銘の人外、分類上は妖怪になるんだと思う。俺の部屋に居候している穀潰しだ。

「お前のそれは実体験だもんな、深みが違うな! 散らかすだけ散らかして片づけは全部俺だもんな!」

「ひゅー、ひゅー」

 小守は吹けもしない口笛を吹いてそっぽを向く。後で覚えておけ。

「まーそう言うなって大ちゃん、『アレ』から今日までずっと平和なんだ。そりゃ平和ボケもするぜ」

 涼子の言うアレとは、つい一か月ほど前の大妖怪がしゃどくろの討伐のことだ。

 無限に湧き続ける骸骨と超巨大ながしゃどくろ。『影の会』からアリスちゃんと沖恵千里が協力してくれたがそれでも本当にギリギリの戦いだった。

 そのかいあってか、その後今日まで妖怪の類は一切みていない。

「だけど、そういやアリスちゃん最後に不吉なこと言ってたんだよな……」

 そう、一つ気がかりなこと。それは……


『がしゃどくろは討伐しましたが、これまで以上にあなたたちは大変になると思います。敵は妖怪だけじゃありませんよ』

『それってどういう意味だよ』

『その時が来ればわかると思います。決して小守さんを捕られないようにしてください、日本が乗っ取られかねませんから』


 がしゃどくろの討伐後、アリスちゃんが言ったこと。

 敵は妖怪だけじゃない。

 その意味が分からないまま頭の片隅でもやもやとしたものがずっと残っている、そんな感覚。

 まあ、考えてもわからないし、その時が来ればわかるって言ってたし、考えたって仕方がないか。

「お、大ちゃんアレみえるか」

 考えるのをやめた俺に涼子が話しかける。

「みえねーよ、お前の視力おかしいんだよ」

「あのガキの集団だよ、野良犬でもいるのか? イジメてやがる、ちょっくら行ってくるわ」

「おい涼子!」

 涼子は走っていく。こうなったら止めるのは不可能に近い、仕方がないから付き合うしかない。

「小守、追いかけるぞ」

「走るのか、嫌だぞ背負っていけ」

「なめんなクソガキ」

 腹立たしいクソガキの要望には応えずに俺たちも涼子の後を追う。


「くぉらクソガキども!」


 足の速い涼子はもう着いたようだ。ここからでやっと小学生の集団だということが分かった、アイツ視力よすぎだろ。

 しばらく走りながら様子を見ていたが、涼子が一人にビンタをかまして小学生の集団は散り散りになったようだ。

「はあ、はあ、涼子、お前ガギに手ぇあげんなよ」

「ちゃんと手加減したぜ、小動物をいじめるのが悪い」

「で……そいつがいじめられてた小動物か?」

「ああ、そうだ」

「……なあ涼子、俺にはこれが犬や猫に見えないんだが」

「大ちゃんにはハムスターかイタチにでも見えてるのか? アタシにはそうは見えないな」

 ここで遅れてやってきた小守が到着する。

「はあ、はあ、お、お前ら……ちょっとはわたしに気を遣え……あ? なんだコイツ、カッパじゃないか」

 そう、小学生の集団にいじめられていたもの、それは、干からびて息も絶え絶えのカッパだった。



「いやー、あんさん方には危ないところを助けていただいてホンマ感謝ですわ!」

 あれから俺は、とりあえず近くの自動販売機で水を買って、カッパの皿にかけてやった。するとみるみるうちに干からびていた体はみずみずしさを取り戻し、元気なカッパが現れたというわけだ。

「普通にしゃべれる妖怪はタヌキ以来だな。小守、一応解説してくれ」

「カッパだな、主に水辺に生息しているはずなんだが、どうしてこんな街中にいるのか理解できない」

「あれだろ、小守っち、カッパは相撲が好きなんだろ? んで、負けたやつからしりこだまを抜き取る」

「おねーちゃんよく知ってますなー、そう、ワイは相撲が大好きで、相撲で負けたやつからしりこだまをもらうことにしている」

 カッパはにこにこと話してくれた。

「せっかく助けたが、こいつはどちらかといえば有害な妖怪だ、放っていてもこの暑さでやられるだろうからさっさと家に帰ってアイスでも食べるぞ」

 小守はもうカッパに興味がないようで、ひとり歩き出した。

「ちょ、そんな! お願いです、話を聞いてくださいな!」

「小守っち、なんかかわいそうだぜ、とりあえず話だけでも聞いてみようぜ」

 涼子はカッパ擁護派なようだ。

「もしもの時はアタシが血祭りにあげるからさ」

 ……訂正、少なくとも擁護派ではないようだ。


「実は、ワイは川の横穴で暮らしているカッパなんだけど、つい一ヶ月ほど前この世のものとは思えないほどのデカイ妖力を感じてな?」

 カッパは語り始める。

「こんな時代にアレほどの妖力を持った妖怪がいるとは思えなくてな、こんな世の中やさかい、家族のためにも様子を見に来たところなんや、それでな、お前さんら一ヶ月ほど前に何か変わったことは無かったかい?」

 一ヶ月ほど前、うん、思い当たるなあ。

「おいカッパ、それはがしゃどくろだぞ、その日のうちにわたしたちに退治されたからお前が恐れることは何も無い、干からびる前にさっさとうちに帰れ」

 子守が興味なさげにいう。

 でもコイツは本当に興味がなかったら自ら話したりはしないんだ。なんだかんだ言ってお人好し、いやお妖好しだな。

「なんだよ大助、ニヤついてるじゃねーよ」

「はいはい。そういうことだカッパ、安心して帰りな、あと下手に人間に見つかるなよ」

 街の信仰値? ソレが上がるからな。

「お前さんらが、そうか、そうだったのか。助かる、あんなデカイ妖力持ったやつがいたらコッチだって安心できないし、退魔師が集団でやってきてワイらのような存在をまとめて消しにかかってくるからな」

 どうやら、このカッパ昔退魔師に襲われた過去があるらしい。

 退魔師、『影の会』のことかな?

「お礼と言ってはなんだが、これを貰ってくれ」

 カッパがどこから出したのか(どっから出したのホントに)丸っこい容器を差し出してきた。

 涼子が見て「化粧品か?」と反応しているが小守が目を丸くしているのを見るとただものではないことがわかる。

「カッパの妙薬か」

「おお、よくわかってらっしゃる」

「小守、例のごとく解説頼む」

「カッパの妙薬、打ち身や切り傷なんかによく効く薬だ」

「切れた腕もくっつきます」

「へー、スゲーな」

 涼子も感心してる。

「生傷が絶えない大ちゃんがもらっとけよ」

「主にお前らのせいで生傷が絶えないんだけどな!」

 一応の突っ込みは入れておく。

「人外人間、お前は一応このカッパを家に帰してやれ」

「アタシがか?」

「街中でまた干上がったりされたらせっかく助けたこっちもいい迷惑になるだろう」

「まー、そうだな。うし、任された」

 そういうことで、涼子とカッパとはここで別れることとなった。

 その十五分後、愛しのボロアパートに帰ってから涼子とは別れない方がよかったと後悔することになる。

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