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戦場大助の日常 二三話

この話の視点は智香ちゃんになります^^

「ねー、絶対あそこにはなにかいるよねー」

「うんうん、わかるー。私もあそこを通ったらこう、背筋が震える感じがしてさー」

「わかるー」

 お昼休み、私こと鳳凰堂智香は教室の隅っこでお昼のお弁当を食べているところでした。

 今日は大助くん教室では食べないらしく、お昼休みになると足早にどこかに行ってしまって、私は独りぼっちでお弁当を食べることになってしまったのです。

 お友達と言えるのかわからないけど、蓮浄白蓮さんが一緒に食べようと誘ってくれましたが、白蓮さんは私と違ってクラスでは人気がある人なので、周りの人に申し訳ないので今回は遠慮しておきました。

 誘ってくれた白蓮さんは「そう、ですか」とちょっと寂しそうだったけど、ごめんなさい。また今度一緒に食べましょうね。

 そんな訳で一人でお弁当を食べていたところでした。

 近くの三人娘さんたちの会話が耳に入ってきたのです。

「やっぱりこう、本能的な部分が何かいるっていうのかさー」

「だよねー。こう、ぞっとするよね、いつも」

 彼女たちは購買で買ったパンを食べながらおしゃべりに興じているみたいです。

 ここで、私はあることに引っかかりました。

 詳しいことはよくわからないし、説明されてもわからないけど、この街はいま、小守ちゃんというとってもかわいい女の子が住んでいます。でも、その子のせいで妖怪がこの町に現れるようになっているみたいなのです。

 現に、私のカバンの茶色いしっぽのストラップ、これは実は平八郎さんという化け狸がストラップに化けているのです!

 平八郎さんは私の家にたまーに出てくる妖怪さんを追い払ってくれています。頼んでもいないのに用心棒をしてくれているのです、助かっています。

 とにかく、この街はいま、身の回りにおかしな現象や怪しいモノが普通にでてくるある意味とてもバイオレンスな街になっています。

 だから、彼女たちが話しているのももしかしたら何かの妖怪かもしれません。

 普段は大助くんや涼子ちゃんが『そういうの』の相手をするのですが、あいにく今は二人ともいないので私が頑張りたいと思います。

「あ、あの……」

 同じクラスの人とはいえ、ほとんど話したことがない人と話すのは結構勇気がいります。もう話しかけてしまったのですが、すでに後悔が出てきました。頑張れ私。

「あれ、鳳凰堂さん。どうかした?」

 三人組の一番背の高い子が私と話をしてくれるようです。よかったです、無視されれたら私多分トラウマになっていました。

「あの、今の話を、詳しく聞きたいなー、なんて思いまして……」

「ああ、もしかして鳳凰堂さんこの話知らないの!?」

 背の高い子が少し驚いたような顔になりました。たぶんこの話は多くの人が知っていて当然みたいなのでしょう。

「へへ、どうしようかなー、教えてあげようかなー」

「みっちーそう焦らさないの。どうせ誰かに聞けばすぐにわかる話なんだから」

 背の低い子が話に入ってきました。あと背の高い子はみっちーさんだともわかりました。

「鳳凰堂さんは松通りの道知ってる?」

 松通り? 聞いたことはないですね。

「ああ、その顔は知らないって顔だね、まあ鳳凰堂さんちからは逆方向だから知らないのも無理はないけど」

 私の家は山の奥に屋敷があって、そこと反対側ということは、市街地辺りでしょうか?

「商店街のさらに奥の方、私の家があるんだけど、その辺に松の木が並んで植えてある道があるんだけどさ、最近そこを通るとどうもこう、ぞっとするような感じがするんだよね。最初は私の思い込みかと思ったんだけど、近くにする人と話してみたらその人も似たような経験をしていてヤバイってなって、そこから怖いもの見たさでいろんな人が松通りに行って話が大きくなってきてる訳」

「なるほど、そうだったんですか」

 背の低い子は説明終わりとペットボトルの飲み物で喉を潤す。

「でも、この話題も知らないくらい流行に後れてるのはちょっとヤバイよ鳳凰堂さん」

 三人組の最後の、特に特徴のない子がそう言ってくる。

「いやね、鳳凰堂さんの友好関係をとやかく言うつもりはないけど、戦場大助と寺門涼子だけはナイなーと私は思うのよ。関係を切れとは言わないけど、せめてどこかのグループに入ってた方がいいと思うよ」

 多分これは親切心で言ってくれたのでしょうけど、私には大切な友人二人をバカにされたようにしかとらえられませんでした、ちょっと悲しくなりました。

「ほら、鳳凰堂さんたまに白蓮さんと話してるじゃん? あの人も少し近寄りがたい部分もあるけどあの二人よりかマシよ」

「スイマセン、そう言ってくれるのはありがたいのですが、私はあの二人の友達です。お話を聞かせてくれてありがとうございました」

 悲しい気分ですが、ほしい情報は手に入りました。

 三人組にお礼を言って自分の席に戻りたいと思います。

「あー、うん。なんかごめんね。でしゃばったこと言っちゃって」

「いえ、大丈夫ですから、お気になさらず」

 そう言って私は自分の席に戻りました。

 机の横にかけてあったカバンのストラップが『元気出しな』と言うように少しだけ揺れていました。ありがとうございます、平八郎さん。



 お昼休みも終わり、大助くんと涼子ちゃんは結局帰ってきませんでした。

 午後の授業の先生は、二人がいなくても特にこれといったリアクションはなく、普通に授業を進めていました。私は後であの二人にノートを見せるために気合を入れてノートを取ります。

 昼食後というのもあって、眠気が襲ってきましたが、何とか授業を乗り切りました。

 この後は放課後。私の自由な時間です。

 今日は春夜が車で迎えをしてくれるのでちょうどいいタイミングでした。昼休みに聞いた松通りに行ってみることにしましょう。

 校門前で止まっている車を見つける、あ、春夜だ! 車に駆け寄る。

「ただいま春夜!」

「お帰りなさいませ、お嬢様。今日もお勤めご苦労様です」

 春夜は車の窓を開けて微笑む。

「うん、今日も疲れたよー」

 言いながら後部座席のドアを開けて車の中に入る。クーラーが効いていて涼しい、ちょっとだけうれしくなった。

「今日も異常なしやで」

 ストラップの平八郎さんが春夜に報告する。

 平八郎さんは毎日こうやって、学校で私に危険がなかったかを春夜に報告するの。

「いつもありがとうございます」

「いや、かまへんかまへん」

「ねえ春夜、今日はちょっと寄ってほしいところがあるの」

「寄ってほしいところ、ですか」

 普段なら普通に帰るところなので、春夜は意外そうな表情を作る。

「怪異絡みやで、でもまあ、危険は今のところはないような感じや」

 平八郎さんが私の伝えたいことを補完してくれる、やっぱりあの時の話聞いてたみたい。私じゃちゃんと伝えられるか不安だったからこれは助かる。

「本来なら、それは戦場大助がするべきでは?」

 少しだけ、春夜は口調が固くなる。春夜は大助とは犬猿の仲なのだ。

「そう、なんだけど、大助、なんだか忙しそうな感じで。お昼休みからどこかに出かけたみたいで、午後の授業にも出てないの」

「私の知ったことではないですね」

 そっけなく春夜は言う。

「でも、お嬢様の頼みなら仕方ありませんね。でも、私が危険だと判断したら即刻帰りますよ、いいですね」

「春夜~!」

 よかった、最初は断られるかと思ったけど、納得してくれたみたい。

「それで、私はどこに向かえばいいんですか?」

 私は教えてもらった松通りだと伝える。

「あっち側ですか、わかりました」

 春夜は車を動かす。

 松通りにつくまでは三人でお話しをして過ごした。今日学校や屋敷であったことなどを語りつくすの。お屋敷で話せばいいと思うだろうけど、春夜はあの広いお屋敷を一人で管理しているの。だから思いの外春夜と話す時間は限られているの。こういう時間こそが私が大事にしたいものなのです。

 そんなこんなで車は松通りに無事に到着。

「ここがそうなのですか」

 春夜は車を道の邪魔にならなさそうなところに止めて、車から出る。

「見たところ、普通の並木道って感じですけど」

 私も車から降りて春夜の隣に並ぶ。

「聞いた話では、この通りを歩いていると背筋が震えたり、ゾッとしたりするみたい」

「そうですか」

「とりあえず歩いてみよか?」

 私たちの隣に急に茶髪のお兄さんが現れるが、私たちは別に驚くことはない。この人は、実は平八郎さんが人間の姿に化けているものだからです。

 初めて見た時はちょっと驚いたけど、今はもう驚きません。春夜もこの姿の平八郎さんをこき使っているみたいだけど、何故か平八郎さんは春夜のことを怖がっているみたい。二人の間に何があったのかは興味はあるけど怖いので聞けません。いつか知れたらいいなくらいに思っています。

 私たち三人は、とりあえずこの松通りを歩きだします。

 松通りはやっぱりというか、植えてあるのは松の木で、とがっている松の葉は心理的にちょっとイヤです。

 車の通りは、無いわけではないみたいですが、比較的少ないほうみたいです。人通りもたまにすれ違う人がいるくらいです。

「ふーん、なんやここしけたような場所やな」

 平八郎さんが呟きます。

「人通りも少ない、日当たりも少し悪い、まあ、それっぽい条件はそろってるな」

「それは『いる』と思ってもいいという訳でしょうか」

 春夜が平八郎さんに聞く。

「いやいや、そんな感じの雰囲気はあるなーって言っただけや。まだわからんよ。それに、出るにも条件がいるヤツとかもおるし、本当に出るとしても今日出遭えるとは限らんわな」

 平八郎さんはそう締めくくった。

 そっか、今回私は場所だけ聞いただけだったけど、次からはどういう状況で出遭ったのかも確認しなきゃだね。

 そう私が思った瞬間、ゾッと背筋に寒気が走った。

「――っあ!」

「お嬢様? どうかされましたか」

 変な声を出した私を、春夜は心配そうに覗き込んできた。

 平八郎さんは、あーわかったわーみたいな顔をしている。

「へ、平八郎さん! い、今!!」

「ああ、おったよ。震々(ぶるぶる)やった」

「震々とは?」

 春夜は聞いたことのない言葉に説明を求める。私もいまのやつの説明を聞きたい。

「ええとな、人間が怖いなーって思った時とかにゾッとするのは震々が襟元に取り憑くからなんや。つまり、震々は人間をゾッとさせる妖怪。別名はゾッとさせるからぞぞ神、または臆病神とも言われてるらしいな」

「妖怪自体が恐怖の対象なのに、震々はゾッとさせるのですか」

「ある意味、一番妖怪らしいヤツやろ。まあ、これは放っておいても大丈夫や、春夜さんが視えなかったのなら実体のないタイプやろうし、ワイらは何にもできんよ。まあ、見つけたってことで明日にでも戦場大助に教えればいいやろ」

 平八郎さん、私を見てニコッと笑う。

 まるで、明日声掛ける話題ができてよかったねと言いたげな顔だった。ありがとう、平八郎さん。

「さー、じゃあもうここにいる意味はないなー、はよ戻ったろうや」

「そうですね。お嬢様、帰りましょうか」

「うん!」

 これで、少しは大助の役に立てるかな。なんて、私は思ってしまう訳です。

 明日は会えるかな、会えるといいな。そんなことを思いながら、私たちは車に戻るのでした。

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