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戦場大助の日常 十八話

 一度、『ツバサ』の方に戻った俺は、事の顛末を柳さんに伝える。

「術者ねぇ、まさか『影の会』の警告無視してカチ込んでくる奴がいたとは、恐れ入ったよ」

「恐れ入ったよ、じゃないですよ。あ、それとその沖恵千里が妖怪を見つけては退治していたみたいです」

「つまり、最近妖怪を全く見なくなっていたのはコイツのおかげだったと」

「そういうことです」

「成る程ね」

「あ、指輪返しておきますね」

「ういよー」

 カウンターを挟んで、柳さんに指輪を返す。

「はいよ。で、結局、コレに反応したやつはなんだったんだろうね」

「さあ、わかりません」

 飛べる妖怪だからまあ限られてくるはずだ。帰って覚えていてなおかつ暇だったら聞いてみよう。

 その後、適当に雑用して、無事に仕事は終わりを迎えた。



 帰り道、いつもなら妖怪と出くわさないかと気を張っているのだが、今日の俺は妖怪との遭遇率減少の理由がわかっているので、いつもよりもだいぶゆったりできている。


「と、思っていたんだけどなあ」


 つい十五分前の自分をぶん殴ってやりたい。余裕ぶっこいて身構えていなかったから攻撃を食らったんだぞと。


 背後からの気配を直前に感じ取り、体を倒すことでギリギリ回避できたのだが、ハサミみたいな腕が頬に引っかかり少しだけ引っ掻いた。

 上空を飛行するソイツは、細長い胴体とハサミみたいな両腕、あとは刃物みたいに鋭い歯と攻撃的な見た目のやつだった。

 油断なくソイツを見ながらポケットから携帯を取り出す。今日二度目の小守ヒントだ。

 手慣れた手つきで携帯を操作して耳に当てる。

 三コール目で不機嫌そうな小守が電話に出た。

『誰だ、何の用だ』

「いつも言ってるがその電話対応はやめろ」

『なんだお前か、で何の用だ?』

 小守は悪びれる様子もない。

「久しぶり出た」

『どんな奴だ』

 小守の声が急に真剣になる。

 それと全く同じタイミングで妖怪が突っ込んできた。

「のぉわ!?」

 狙いは頭で、しゃがむことで刃物みたいな攻撃を避ける。

『おい! 大丈夫か!? 返事をしろ!』

「大丈夫だ、攻撃されたが避けた、問題ない」

『全く、心配させやがって。それで、どんな奴だ?』

「見た目はなんか細長いやつ、飛んでいて両腕がハサミで歯がカッターみたいだ」

『刃物系か、髪を切られなかったか?』

「髪? ああ、でも執拗に頭を狙ってきたな」

『ふむ、髪切りだな。出典は嬉遊笑覧(きゆうしょうらん)という江戸後期の書物だ。それには髪切りの正体は髪切り虫のせいだとある。実際にいるカミキリムシとはまた別の、今お前の目の前にいるような見た目をしている』

「対策はどうすればいいうおわ!?」

 またもや髪切り虫の攻撃を受ける、今度は左に回避した。なんとか回避したがジリ貧だ、飛んでる妖怪に対してこちらは手出しができない。

 歯がゆい思いで回避に専念する他ない。

『確か、「千早振(ちはやぶる)神の氏子の髪なれば切とも切れじ玉のかづらを」という歌が書かれてる札があれば髪切り避けになる』

「そんなもん持ってる訳ねーだろう」

『だろうな。ならお前はひとまず帰ってこい、その間に髪切り虫から逃げられればそれでよし。ついてこられたらわたしが札を用意しておく』

「わか――うわっ! チクショウ、メンドクセェ!」

 どうやらあのクソ虫、ヒットアンドアウェイ戦法をずっと続けていくらしい。非常に面倒臭いことこの上ない。

「いいぜ、ならもうとことんついてこいよ!」

 言葉がわかるのさえも分からないが、とりあえず挑発して走り逃げる。携帯の通話を切るのも忘れない。

 うまく撒ければいいと思っていたが……まあ、そううまくいくことはないようだ。

 某チビ系問題児と長年過ごしてきたおかげで、危機感知が非常にうまくなっている。

 髪切り虫の執拗な頭部、というか髪への突撃を首を傾けることにより回避する。俺よりも前に出た髪切り虫は、更に俺との距離を話していき、お、これ俺を諦めたんじゃないか? と淡い期待を抱かせてくれたのだが、そんなことはなかった。

 ある程度先に進むと、髪切り虫は反転して俺に向き直る。

「まさか、な」

 嫌な予感は大当たり。髪切り虫は今度は前から襲ってきた。

「うおおっとお!」

 もしやという予想ができていたからか、前方からの突撃を何とか左に避けてかわすことができた。

 そしてまたすぐに後ろから突撃、また前から突撃、と、前後突撃を交互にしてくる。

(くそ、なんかだんだん腹が立ってきたぞ。そもそも、髪を切るとかどんな妖怪だよ)

 考えるだけ無駄なことなのだが、そう思わずにはいられない。

 そうこう考えたりしているうちに愛しのボロアパートが見えてきた。

 珍しく小守がアパートの外に出ていた。アイツのことだから札を書いても部屋からは出ないものだと思っていただけに珍しく感じてしまった。

 小守はいつも通りの不遜な態度で俺に呼びかける。

「よく頑張ったな、後はわたしに任せておけ!」

 そう言って小守は、その手に持っている紙(札? ヘタクソなミミズがのたくったような字で書かれているためなんて書いてあるのか読めない)を俺に――いや多分俺にくっついてきた髪切り虫に向ける。

 するとなんということだろうか、あれだけしつこく俺を追い回していた髪切り虫は、札を見た途端に俺から興味を失ったかのように反転してどこかへと飛び去って行った。

「よかったな、対抗策が用意されている妖怪で。まあ、お前なら多少の傷と引き換えにすれば力押しで倒せたと思うが」

 小守が近寄ってくる。

「とりあえずお帰り」

「ああ、ただいま。散々な目にあったよ」

 とにかく怪我なく帰れてよかった。ん、今思ったが怪我なくと毛がなくって――いや、しょうもないダジャレなんて言わない方がましか。

 そういえばとりあえずコイツと砂糖さんに沖恵千里のことを話さないといけないのか。まあ、それはひとまず部屋に帰って落ち着いてからでもいいや。

 俺と小守は我が家へ戻るのだった。

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