戦場大助の日常 十三話
それは、ある雨の降る日のことだった。
「はい交換、そんで攻撃透かし」
「ぬあああああああ!! また攻撃読まれた!何度目だ!」
「ニシシ、小守っちは素直だな〜、だから読みやすいぜ。ほら、どうせ交換するんだろ? 交換先に通る攻撃だ」
「ぬがあああああああああ!! また読まれたぞ!」
俺の部屋では小守と涼子がゲームの通信対戦をしている。勝敗は、まあ涼子に勝てるはずが無いだろう。今の所、全て涼子の一人勝ちだ。そもそも小守は涼子の手の平という感じで、まるで考えを読まれている。それも、表情に出ていては仕方の無いことだと思うがな。
「で、どうせここで交換読み交換でしょ? まあ、アタシは交換しないけど」
「はああああ!? なんでこの状況で替えてこないんだよ、これじゃ、自分から不利対面にしてるじゃないか」
「でまあ、小守っちの交換読んでた訳で、ソイツに通る攻撃選んでる訳で」
「ウチのエースが!!」
「はい、終了。後はサブウェポン撃って退場待ち、んで、後続有利対面で試合終了だな」
「まだだ、まだ、クリティカルがあればチャンスが残ってる!」
ゲーマー達は楽しそうだ。
「なぁ小守、奇跡のクリティカルを願ってるとこ悪いがもう一度聞いてもいいか?」
「こいこいこいこい! ぬがあああああああああ!!」
「ニシシ、クリティカルなんてそうそうでないぜ」
奇跡はそう簡単には起こらないらしい。
「で、なんだって?」
負けて少しふて腐りながらも小守は聞き返してくる。
「ああ、この雷がなる土砂降りの雨の中、ここから見えるあの子供は放っておいてもいいのか?」
部屋の窓からはタライをひっくり返したような勢いの雨と、向かい側に見える道路に蓑笠をかぶった子供がアパートの前でうろうろしていた。
「さっきも言ったが放置してて構わん。といっても、お前はさっきそれで納得しなかったな。よし、では負けがこんできたし少しだけ気分転換がてら話してやるか」
小守はいつもの不遜な態度で話し始める。
「あれは雨降小僧といってな、雨の神様を雨師と呼ぶ、雨師は雨降小僧という児童を召使い師に持っているつまり雨降小僧は雨師の取り巻きとして存在しているんだ。アレ単体で何か出来るというものでもない、放っておいて構わん。むしろ、こんな日には別なヤツを警戒しないといけない」
「別なヤツ?」
俺が疑問を覚えると同時にピカリと閃光が窓の外に走る。数秒遅れてゴロゴロと腹に響く低い音、雷だ。
「そう、コレだ。近くにでも落ちたら停電するだろ、そうなったらネットが切れるだろう? いいとこまでいったのにぬがあああああああ! 思い出しても腹が立つ!」
(ああ、これは俺が帰ってくる前に一度なってるな。だからネット対戦じゃなくて涼子と対戦してたんだな)
「まーまー、落ち着けって小守っち、どうせあのまま行ってれば勝てたかどうか怪しかったぜ?」
「だからこそなのだ! これでは相手に逃げられたと思われるじゃないか!」
変なところにプライドあるな。
ふと窓の外を再び見てみると、既に雨降小僧の姿は消えていた。
「いつの間に」
そもそも魑魅魍魎の類にそういうのは関係ないのかもしれない。ふっと現れ、すっと消える。それがアイツらなのだから。
「雨、やんだな」
涼子がポツリと呟く。
「なに、雷獣でも出てくるかと思ったが雨やんだか!」
「どーする小守っち、ネット対戦でもまたするか?」
「当然だ」
「ニシシ、アタシがサポートしてやるぜ」
「イラン、余計な事するな、わたしのカレーな戦いを黙ってみておけ」
ゲーマー達はまた自分達の世界に入って行く。
「ん?」
そんな中、俺は外から視線を感じた気がした。
(誰もいない、気のせいか?)
気のせいだと思い、俺は窓のカーテンを閉めるのだった。
アパートの近く、電信柱に身を隠してアパートを監視する人物がいた。
「アイツが、戦場大助。ただの不良にしか見えないが、世界に対して喧嘩売った大バカ者、そして、人ならざる者を守った男。私の、敵」
ソイツはカーテンが閉められた部屋を憎しげに見つめ、そして『雨降小僧を一撃で消し去った剣』を携えてこの場を後に去っていった。
そろそろ大助の日常がどういったものかだいたいわかってきたところで、話に一石投じたいと思い、初妖怪以外の敵キャラというものを出してみました。
コイツがどう動いてくれるのか、まあ、いつも通り予定は未定なんですがね。