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戦場大助の日常 十一話

 ある日、いつものように俺は学校から帰っていた。いつもと違うことといえば、今日は柳さんからこなくてもいいと言われたこと(なんでも、新作ゲームを誰にも邪魔されずに遊びたいようだ)と、珍しく智香が一緒にいることだ。

 智香は四月の小守の件以降、あのバイオレンスメイドの送り迎えで帰っていた、だけどこの間の狸の件以降は徒歩で帰ることが度々あるのだ。

「へぇ、あのタヌキがそんなことを」

「うん、今もほら、カバンのストラップに化けて私を見守ってくれてるの」

 智香はほらと、カバンのストラップを見せてくる。カバンには小さく尻尾をあしらったストラップが付いていた。これがタヌキが化けているなんて想像できなかった。なんでも、このタヌキは屋敷にたまに現れる弱い妖怪等を追い払ってくれているらしい。

 俺も小守も同盟時に結んだ約束を、タヌキが代わりにやってくれて楽でいいのでそのまま放置している。まあ、あのタヌキ自体があまり強い妖怪ではないと小守が言っていたので、タヌキより強い妖怪が出た時にはやっぱり俺らが対処しないといけないのだが。

「コイツまた尻尾に化けてるのか」

「そ、そのことは言わない方向でっ!」

 少しばかり智香は顔を赤くする。もちろん、わかっててやった。やはり智香はからかいがいがある。

 さて、そんな取り留めもないような話をしていると、突然前に進めなくなった。

「いてぇ」

 といっても、小守の金縛りのような拘束される感じではない。そうではなくて、見えない壁に突き当たった感じだ。

「タヌキの話なんかしたからか」

 これも何らかの怪異だろう。チラリと横を見ると、智香も同じように見えない壁にぺたぺたと手を当てていた。反対側から見ればパントマイムに見えるだろうか?

 まあ、その反対側に行けないから困っているのだがな。とにかく、これは俺一人だけを対象とした怪異ではなさそうだ。

「ねえ、大介くん、これってもしかして」

「もしかしなくても怪異だろうな、そこのタヌキは今話しかけられるか?」

「さっきから黙っていればタヌキタヌキと、ワイには平八郎という名前があるんや!」

 うわ、ストラップが喋ってる。こうして見てみると不気味ではあるな。

「平八郎、この怪異が何なのかわからないか?」

「こんな有名な怪異もないんやないか?」

 ちょっと馬鹿にされた。ムカつく。

「これは塗壁やな、うん、間違いない」

「あれ、塗壁ってコンニャクみたいなやつに目と手足がついてるやつじゃないの?」

 智香が平八郎に聞き返す。

「それはキャラクターとしての塗壁ですな、お嬢。あくまで塗壁は現象として怪異なんです。何故か最近はよくお嬢のような間違いをしている人間が多いんですよね〜」

 マンガ家は偉大だな、と思った。

「で、どうすればいいんだ?」

「どうする、っちゃー、何のことや?」

「とぼけんなよ、どうすれば塗壁を追い払うか打ち消すか、とにかくどうにか出来るんだ?」

「あ、そういえばあっしはお嬢にストラップの時は人前で話すなと言われてるんでした」

「は、なんだよそれ、おい、平八郎、返事しろ、クソタヌキおい!」

「…………」

 それ以降平八郎は口を閉ざした。というか、ストラップの口ってどこなんだろうか、いや、まあいい。名前を知ってるからには対策方法も知ってるだろうと思ったが、そんなことは無かった。使えん。

 この道、人気はあまりないが車も通る道だ、放置しておくわけにもいかない。結局はいつものパターンになってしまったか。

 ポケットから携帯電話を取り出して自宅に掛ける。七コールくらいで奴が出た。

『私だ』

「誰だよ、電話に出る時は相手が名乗るまで待つか、戦場と名乗れと言ってるだろう」

『なんだ、お前か。私はいま厳選で忙しいんだ、手早く済ませてくれ』

 砂糖の野郎を統一パで倒すんだとかなんとか聞こえてくる、アイツまたゲームしてやがるな、少しは控えさせないと馬鹿になる。いや、アイツは元からバカではあるが……。

「小守、いつものように怪異だ」

『状況を教えろ』

「目の前に見えない壁がある、タヌキ曰く塗壁だと言ってる」

『目には見えないんだな、なら、塗壁で間違いないだろう、なら、狸に解決策を聞けばいいではないか』

「あのタヌキポンコツでな、対処方法知らないから黙り決め込みやがった」

『使えんな』

「だからいつものようにお前の知識が必要だ」

『はぁ、塗壁は足元を棒かなにかで払えば消える。その辺に木枝か何かないか?』

「コンクリートの街に木枝はそうそう落ちてないな」

「ねえ、大介くん」

 今まで蚊帳の外だった智香が話し掛けてくる。

「なんだ?」

「あのね、平八郎さんに化けてもらえば良いんじゃないかな?」

 話を聞いていたらしい智香がナイスアイディアを言う。

「それいいな、おい平八郎、聞こえてるか?」

「平八郎さん?」

「何でしょ、お嬢」

 多分こいつ俺の言葉だけを無視するつもりだな。もう智香に任せよう。

「木の棒とかに化けられるかな?」

「お嬢の頼みなら断れるはずがない、あっしに任せてくださいな!」

 ストラップが真っ直ぐな棒に変わる。ちょっとシュールだ。

「えっと、下側を払えばいいんだよね?」

 棒を手に持ち、俺に確認してくる。そうだと俺は頷く。

「うん、わかった!」

 智香は見えない壁の前にしゃがみこんで、すっと棒で払った。

「…………えっと、これでいいのかな?」

 特に何かしら変わった様子もないが、どうなのだろうか。壁があったところに手を伸ばしてみる。

「お、どうやら塗壁は消えたようだな」

『どうだ、効果はあったか?』

 電話の音声でこちらの声が聞こえていたのだろう、的確なタイミングで聞いてくる。

「ああ、塗壁は消えたみたいだ」

『よし、ならわたしはゲームに戻るぞ』

「お前少しはゲームを控え――あ、切りやがった」

 帰ったらまた説教(物理)しなきゃな。

「とりあえず、智香も助かった」

「私よりも、平八郎さんにお礼を言ってあげて」

 タヌキは俺の言葉を無視するからなー。

「とにかく助かったよ」

 その後は、智香を家まで送った。キチガメイドにまた絡まれたりしたので、アイツとはいつか決着をつけなければいけないと思った。

平八郎について、

コイツは基本なんにでも化けられる柔軟性の高い化け狸という設定です。

というか、いま考えました。だってコイツメインキャラ入りする予定じゃなかったんですもん、パッと出てすぐいなくなるみたいな感じで、そう思うと私自身狸にいいように化かされているのかもしれない。

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