三角錐
それはホワイトキューブのように気の滅入る青の立方体だった。中にはやじろべえ、振り子、分度器などが雑然と転がっていた。
二人の女性が立方体の中に入る。
アロア――珈琲の熱さは丁度彼の右目の青さと同じ具合。
エレーヌ――彼は水ガラスを舐めているので目は青いです。
アロア――そう。青いの。君の背中も明日の川の水も昨日の夜も全て青い。
エレーヌ――(分度器を耳に当てて)詩人の声が聴こえます。これも青いです。
アロア――彼の声は青くないの。(やじろべえを覗きこむ)うん。やはり青くない。
エレーヌ――彼が青くないのは丁度珈琲の熱さと同じ具合です。
アロア――私は紅茶しか飲まないんだけど珈琲というのは熱いみたいね。
エレーヌ――丁度彼の右目の青さのように。
アロア――(やじろべえを地面に叩きつける)それでは全く熱くないじゃない!
エレーヌ――ええ。アイス珈琲はいかがですか?
暗転。立方体は右に90度回転して赤くなってから再び灯りがつく。
エレーヌ――(アロアに向いて)貴方のせいです。
アロア――(俯いて震えながら)うぅ……。
エレーヌ――平面上を滑るのも彼方でピンクの鳥が人を襲うのも貴方のせいです。
アロア――うぅ……。
エレーヌ――(アロアに背を向けて)水面が揺れるのも水晶に針が突き刺さるのも。
アロア――(振り子でやじろべえを思いっきり叩きながら)それはやじろべえが回転する球面。
エレーヌ――全て貴方!貴方!
アロア――(やじろべえを素手で殴りながら)球面!球面!球面!
エレーヌ――貴方!貴方!球面!貴方!貴方!
アロア――球面!貴方!球面!貴方!球面!貴方!
舞台は次第にフェードアウトして次に電気が付いた時、黒い大きな球がそこにあった。




