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僕らの切腹ごっこ

「僕の切腹写真を撮ってほしいんだ」

 その日、唐突に彼はそう言いました。

「明日の夜、僕は切腹をするつもりなんだ。だから君にその様子を撮って欲しい。綺麗に写真でね」

「何故?」

「君なら言わなくてもわかってくれるでしょ?」

 彼の言葉の通り、私には理由は分かっています。分かっているからこそ何故切腹なんて事をするのか。

「死にたいって理由ならわかるけど、なんで切腹かは分かりません……」

「まあ、詳しくは明日話そう。明日、すぐに切腹するわけじゃないしね。だから、今日はサヨナラだ」

 彼と私はそこで別れました。私は家に帰ってからも彼の事を考え続けていました。


 彼と話すようになったのは、alice auaaで偶然出会った時からでした。その日、確か彼は黒地に蜘蛛の巣のようなプリントが施されたワンピースに黒の、ジッパーが大胆にあしらわれたパンク調のレザーパンツを履いていました。それから一緒に店を出て、近くの喫茶店で様々なことを話したのです。清水真里のドールが好きだとか佳嶋のイラストが好きだとか様々なことを。そして彼はこう言ったことを覚えています。美しい内に美しく死にたい、と。


「とりあえず、いつもの喫茶店行こうよ」

 次の日の夕方、大きな荷物を持った彼は何でもない日のように話しかけてきました。

「その中身はカメラと刃物です?」

「それとalice auaaの服だね。制服で死ぬなんて馬鹿馬鹿しい」

 喫茶店に入ると彼はすぐにトイレに入り、服を着替えて出てきました。白い、朽ちているようなブラウスは白装束をイメージしているのでしょうか。

「どうだい?いい服だろ。今日着るのに一番ふさわしい服だと思わないかい?」

「切腹するなら。でも何故切腹なんてするんです?」

 私のその発言に対して彼は大きくため息をついて紅茶に砂糖を入れる事で返しました。

「何故祁門を頼んだのですか?」

「祁門は一番甘く、高貴な紅茶だからね。僕の最期にふさわしい紅茶だと思わない?」

「貴方の最期にはふさわしい。でも、やっぱり貴方に切腹は似合いません。絶対的に原色的すぎるから」

 肉体的なもの、原色的なものは汚すぎる。彼はかつてそう語っていました。モノクロの切腹写真は確かに美しいかもしれない。けれども切腹なんてものは臭くて原色的で筋肉質なのです。

「確かに……切腹は原色的で肉体的だ。でもそうなったら僕はどうやって死ねばいい?美しく死ぬためにはどう死ねばいい?」

 美しい物は幾何学的で静的だ。彼はこうも語っていました。写真で取ることで切腹を静的なものにしようとしていたのかもしれないけど、そこに幾何学性は存在しないのです。

 静的な死。例えば凍死、縊死、ヘリウムガス自殺。リストカットは静かですが静的ではありません。練炭自殺は暑いので静的ではありません。溺死は冷たいですが気泡のせいで静的ではありません。

 また、幾何学的な死。例えばリストカット。刺殺も場合によっては幾何学性を持ちます。それからヘリウムガス……。

「例えば切腹をモノクロで撮ったら肉体性はどうにもならないけど静的じゃないか?もう、僕はそれで良いと思っていたんだけど」

「そんな汚い事はダメ。貴方にはもっと美しい死に方があります」

 私の提案に彼は目を輝かせました。結局その日は準備のため、私達は死なずにそれぞれ帰ることにしました。


 次の日、今度は私が大きな荷物を持って彼に会いに行きました。

「僕のワガママに付き合ってくれてありがとうね。最期に紅茶でも奢るよ」

 その言葉で私達はひとまず、喫茶店に行くことにしました。

「やっぱり祁門は美味しいよ。それに、支配者の為の紅茶だなんて私達にふさわしいと思わないかい?」

「でもそれは今日の私には似合わない」

 だから私はダージリンを飲むのでした。その後紅茶の話、食器の話、他愛もない話をしてから寂れた海沿いの公園に行きました。ここは元が遊園地だったこともあり、綺麗な薔薇の庭園があるのです。その真ん中で、白い私達は死ぬのです。

 撮影のためにカメラの準備をしてから私達は着替えました。私はEXCENTRIQUEの白いネクタイがついた紺色のワンピースに、彼はAngelic Prettyの白い、クロスのプリントがされているジャンスカに。美しいお姫様とその死を祈る修道女といった具合でしょうか。

「いよいよか……本当にありがとう」

 彼の言葉に私は後ろから紐で首を絞めることで返しました。そしてカメラのリモコンでシャッターを切ります。その音はきっと聞こえたでしょう。それでも彼の様子に変化は無かったのでそのまま十分ぐらい首を絞めました。それから今度は私の番です。近くにある白い、塗装の所々剥げているテーブルで首を吊るのです。彼はもう死んでいるのでしょう。私が美しい彼の美しい姿を作り上げたのです。それから次は私の美しい姿を……。それを見れないことだけが心残りです。意識が完全に飛ぶ前に私はリモコンでシャッターを切り、それからやってくる漆黒に身を委ねました。

部誌に掲載したもの作品ですが、あまりにも出来が良かったのでこちらにも上げさせて頂きます。

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