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旅立ち

姫君を救うため旅立つ一行。いよいよかれらの冒険が始まる!

 翌朝、一同は旅支度をととのえ、城の中庭に集合していた。大公はかれらに馬と、実用的な馬車を貸し与えた。馬車の中には食料がつまれ、あらたな武器が城の武器庫から運ばれていた。

 今朝の三村は全身白づくめの衣装に身を固め、乗馬もまっしろな毛並みのものだった。朝の陽射しに照らされたかれはまさしく白馬の騎士といってよかった。甲冑は銀色に白の紋章が浮き彫りにされ、陽射しをうけるときらきらときらめいた。

 馬に乗るのは市川と三村のふたりで、馬車の御者台には山田と洋子が座った。山田は手綱をにぎり、馬車を出発させた。大公は出発する一行を城の正門からいつまでも見送っていた。

 礫碌と車輪が道の小石をふみ、馬車の前には三村が先導して馬を御している。市川は馬を山田のちかくへ寄せ、話しかけた。

「なんであいつだけ特別あつかいなんだ」

 市川は三村の雄姿を見上げぼやいた。市川のとなりで馬車を御している山田は巨大な手斧を背負い、分厚い盾をかかえている。三村のまばゆいばかりの衣装にくらべ、ほかの三人はどちらかというとくすんだ色合いの装具をあたえられている。

「まあそういうな。あいつはお姫さまの許婚なんだから」

 山田がそう言うと市川は頭をふった。

「お姫さまをもし救うことができたら、の話だぜ」

「それは間違いない。おれたちはかならず魔王を倒すことができる」

 山田の確信にみちた口調に市川は二の句が告げない様子だった。山田は刻々とじぶんのなかでふくらむ確信にひとりうなずいていた。

 かならずじぶんたちは魔王を倒すことができる!

 そうでなくてはならない。

 それとも違うのか?

 山田は先頭で馬をすすめている三村に話しかけた。

「三村くん、きみずいぶん堂々としていたな。あそこで大公に見栄をきるなんて、思ってもいなかった」

 三村は山田をふりむいた。眉があがり、不審げな表情になっている。

「ぼくが? そんなこと言いました? 覚えてないですねえ」

「きみ……」

 山田は絶句した。そんな山田に市川は声をかけた。

「それよりお姫さまだよ。あれからどうなったんだろう」

「魔王にさらわれたことはまちがいないな」

「無事なんだろうな。おれたちお姫さまの救出にむかうんだろう? かんじんのお姫さまが無事じゃないなんてこと、ないだろうな」

「それはないと思うよ。おれたちが助けてエンディングとなるはずだ」

「それで三村がお姫さまと結婚してめでたしめでたしか。おい、そうなると三村はこの世界にのこるってことにならないか?」

「う……」

 それは考えていなかった。山田はいまお姫さまがどうしているんだろうと思った。

 

 ごおごおと風の音が聞こえている。

 コーラ姫はようやく目をさました。

 なにがおきているのか?

「!」

 眼下に見える景色にコーラ姫はぞっとなった。

 宙を飛んでいる! それもおそろしい速度で。風の音はそれだったのだ。

 悲鳴をあげようとしたが、声は喉のおくでふさがってしまった。

 彼女はふしぎなちからで宙に浮いていた。頭を進行方向にむけ、うつぶせの姿勢である。見開いた目に、つぎつぎと飛び去っていく地上の景色が見えていた。

 進行方向を見ると、地平線ちかくの右横に朝日が昇ってくるところだった。とすれば、いまは東にむけて飛んでいるのだろうか。いや、この季節では太陽はやや南よりにのぼる。ならば北東か。

 太陽が地平線から顔をだし、あたりは急速にあかるくなっていった。

 寒い。

 ぶるっ、と姫は腕をくんでじぶんの胸をだきしめた。

 空気が冷たくなっている。

 ここはどこだろう。まるきりあたりの景色におぼえはなかった。とりあえず落下することはないようで、彼女はやや落ち着いていた。

 進行方向に巨大な山脈がそびえていた。彼女はまっすぐその山脈に近づいていた。頂上ちかくには万年雪がしろくかがやいている。じっとその山脈を見つめていると、それはぐんぐんと近づいてきた。

 このままではぶつかってしまう。

 恐怖に姫は目をとじた。

 が、ぐうん、と全身が上昇する感覚があって彼女は目をひらいた。山脈が眼下をながれていく。どうやら危機は回避するようになっているようだ。

 姫はさらに上昇していった。すでに雲のうえにたっしていた。

 と、姫は呼吸がくるしくなっていることに気づいた。どういうわけか空気がうすくなっているようだ。高度が上がると酸素の濃度がさがるという知識をもっていないため、彼女は不安で押しつぶされそうになっていた。

 はあはあと呼吸がはやくなっている。どくんどくんとこめかみあたりに血管の血流の音が聞こえている。苦しい、このままでは死んでしまう!

 姫の意識はとぎれた。

 つぎに目覚めたときはあたりは闇につつまれていた。

 手に床らしきかたいものがふれる。

 となるといまは宙を飛んではいないのか。

 彼女はふらふらと立ち上がった。

 あれほどの寒さがいまは消えている。

 いや、どちらかというと生暖かい。空気には奇妙なにおいがあった。けっして不快ではないが、ねっとりとしたなまぐさいにおいである。どちらにしても鼻をつままれてもわからないほどの暗さだ。あたりになにがあるかわからず姫は手を前にのばしてそろそろと歩き始めた。

 なぜこんなに暗いのだろう。

 そのとき姫はある考えに思い当たりぞっとなった。

 あたりが暗いのではない。彼女の目が見えなくなっているのでは?

「そりゃ、ちがいまっせ」

 だしぬけに”声”が聞こえ、姫はとびあがった。

「だ、だれです?」

「わてのことなどどうでもよろし。それより、お姫はん。あんた、じぶんが目が見えなくなったと考えているようでおますが、そりゃちがいまっせ。たんにここにあかりがないちゅうこってすわ」

「あなたはわたしの考えていることがわかるのですか」

「まあ、それくらいできまっせ。まあ、ちょっと待っておくれやす。いまあかりつけまっさかい、目をいためたくなかったら、目をとじていたほうが利口やな」

 姫は”声”の忠告にしたがって目をとじた。

 目の奥に瞼ごしの赤い色がひろがった。あかりがともったらしい。姫はそのままじっとしていた。やがてうすく瞼をひらいた。

 ぱちぱちと目をひらき姫はあたりを見回した。

 そこはドームのようなところだった。だだっぴろい空間にまったいらの床が目のとどくかぎりひろがっている。半球型の壁がたちあがり、天井近くに光源があってあたりをてらしていた。

「ここはどこですか?」

 どこですか……

 どこですか……

 姫の声はドームに反響してこだました。

「どこ……ちゅうても、ひとことでは言いにくいな。まあ魔王の城、と言うといたほうがちかいかな。いや、いずれ魔王の城になる場所かな」

 ”声”はいやにあいまいな言い方をした。姫は眉をひそめた。

「ではあなたは魔王なのですね」

「ちゃうねん。わいはただの管理者やねん。この世界があいまいなままやから、わてがこんなことせなならんちゅうこっちゃ。ほんまはこんな、お姫さまを誘拐するなんちゅうことしたくないんやが、切羽詰っておるねん。あんたの安全は保障するから、安心しとくれなはれ。いずれ三村はんがあんたを救いにくるはずや」

 三村の名前を聞き、姫はわれしらず顔をあかくそめた。

「三村さまが……」

「ほ! 顔をあかくしよった。あんた、三村はんにほれとるな」

 コーラ姫はかっとなった。

「無礼な! わたしはドラン公国の姫ですよ!」

「ああ、すまんこっちゃ。かんにんしとくれやす。つい、わての悪いくせがでてしもうた。とにかく三村はんがくるまで、あんたはここで待っててほしいんや」

「待ちましょう。しかしこれでは……」

 姫はあたりをさししめした。

「家具もなにもないではないですか。これでは生活できません」

「すまんなあ。まだ山田はんが魔王の城を設定しておらんので、わいは魔王の城の予定地を提供するだけがせいいっぱいなんや」

「そんなことわたしの知ったことではありません! わたしにふさわしい生活環境を整えてくれないならすぐ出て行きます!」

 コーラ姫はとんとんと床をあしぶみした。”声”はあきらめたような調子になった。

「わかった、わかりました。そんならなんとかしまっさかい、どういう風にすればええのか教えてくれなはれ」

「まずベッドです。布団は絹で、鵞鳥の羽をつかってください。枕はそば殻でないと眠れませんよ」

 と、姫が言い終わらないうちにベッドが出現した。姫が城で使っていたようなベッドだった。姫はベッドのはしに腰かけた。布団はふわりと彼女の体重をうけとめた。彼女はしばらく布団をまさぐった。手触りは絹にまちがいなかった。まぼろしではない。

 コーラ姫は顔をあげた。

 その表情はいたずらっぽいものになっている。

「なるほど……それではつぎは食事をするための食堂が必要です」

 巨大なテーブルに背もたれつきの椅子があらわれた。テーブルにはまっしろなテーブルクロスがかけられていた。

「食器はわたしが城でつかっていた銀の食器を……」

 銀器が出現した。フォークとナイフもついている。

「つぎはわたしにつかえる女官が必要です」

 エプロンをつけたメイドがあらわれた。彼女は姫のまえにすすみでると深々とお辞儀をした。姫はおおようにうなずいた。

 さらに姫は要求をつづけた。


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