幕間〜木戸〜
「困ったなあ……。どうしよう」
動画机を前にして木戸は頭をかかえていた。コンテはすでに二十六話ぶんにのぼり、ついに四人が最後の決戦にのぞむクライマックスの場面にさしかかっていた。あと半パート、描けばついにおわるはずだった。
が、どうにも終わらせることができなくなっていた。
肝心のことをわすれていたのである。
木戸はメガネをはずし、ごしごしと鼻のつけねをこすった。
「弱ったなあ。ここまで描いていて、こんなことに気づくなんて……」
「どないしはってん?」
え? と、木戸は顔をあげた。
あの”声”だった。
ひさしぶりに”声”は木戸に話しかけてきたのだった。
「もうちょいとで終わりはるんやろ? ちゃっちゃとやりなはれ!」
「それがそうもいかないんだよ」
「なんでや?」
「肝心のことを忘れていたんだ」
「なんですのん。肝心のことって?」
「名前だよ」
「名前?」
「そうだ。魔王の名前だ」
沈黙がその場を支配した。
やがて”声”はふたたび木戸におずおず、といった調子で話しかけた。
「それがどうしてそんな問題になりはるんですか? 魔王は魔王でええのと違いますのんか?」
「そうはいかないよ。かんじんの戦いの場面で主人公が叫ぶ。「お前を倒す!」ってね……そんなとき魔王の名前を叫ばないわけはないだろ? ただ魔王じゃ格好つかないからな」
「魔王の名前はあるんでっか?」
「ああ、あるよ。ここにね」
そう言って木戸はじぶんのこめかみを指さした。
「ちゃんと考えてあったんだ。しかしうっかりしたことに、いままで登場したキャラに魔王の名前を主人公たちに教える場面を作ってなかったんだ。だから主人公はいまだに魔王の名前を知らないままだ」
「なんちゅう……」
”声”はため息をついた。
木戸も腕組みをして考え込んだ。
「どうすりゃいいんだ……」
ふといままでのキャラ表を手にする。
いままでのキャラクターのひとりひとりにじっと視線を落とした。まるでそれらのキャラがかれに知恵をつけてくれる、というように。
やがてかれはひとりうなずいた。
「よし、この方法で行こう!」
つぶやくと木戸はふたたび鉛筆を手にとり、あらたなコンテ用紙をひろげた。
背をまるめるとかりかりと音をたてて鉛筆を走らせはじめた。