01
学校に行くために見慣れた道を歩いていた、はずだった。
今、私を取り巻く環境は一変している。踏みしめていた固いアスファルトは少し湿り気のある土に変わってしまい。どっしりとした電柱は、一回り小さい木々に変わった。視界に占める緑の割合が、一変した。
もう一度確認する。
私はいつも通りに家を出た。歩いていた。瞬きをした。森っぽいところに居た。通学路に森はない。
うん、おかしい。
昨日寝る前に読んでいた漫画を思い出す。ごく普通の女の子が車とぶつかってしまうと思って目を閉じ、開いた瞬間異世界へ。そこで出会った麗しき王子様と愛を育みながら、世界を巣食う悪の権化である魔王討伐の旅路を進む。有り勝ちな設定ながらも魅力的なキャラクターとテンポの良いストーリー展開で中々に面白い作品だった。
……いや、まさか。それはあくまでフィクションの世界であって。しかし頬を捻ると感じるのは痛みで。嗅覚を刺激するのは嗅ぎ慣れない猛烈な青々しい匂い。コンクリートが全く見えず、緑と茶色でいっぱい。
何かが起こっていることは確かだ。しかしその何かがわからない。記憶喪失?瞬間移動?例の漫画と同じ異世界トリップだとしたらこれから麗しの王子様と出会って二人手を取り合って困難に立ち向かいながら愛を育むの?生まれてからこれまで18年彼氏の居ない生活からおさらばできるの?
おっといけない。友人からは冷静と評される私があまりにも非現実的な状況で、かつてないほど混乱しているらしい。深呼吸をして、よし。王子様探しに行こうか。
「姉ちゃん!」
私のことを姉ちゃんと呼ぶのはバカ全盛期である中学2年生の弟である芒しかいない。声の聞こえた右斜め後ろの方向へと頭を向けると、案の定実の弟がいつもと変わらない締まりのない顔をしていた。
「良かった姉ちゃんと会えて!あのさ、俺学校行こうとしたら迷っちゃったみたいでさぁ。姉ちゃんの高校と途中まで道のり一緒だし、付いて行って良い?」
ちなみに我が弟芒はバカ全盛期中学二年生であるが、
それ以前にお馬鹿さんである。逆に私は県でも有数の進学校に通っており、私が弟の学力を吸い取った説がまことしやかに流れていたりする。
それにしても王子様かあ……。
「近親相姦はちょっとなあ……。」
「え?きん……ようかん?羊羹食いたいのか姉ちゃん。」
バカワイイ弟の出現によって、大分落ち着いてきた。
この状況を鑑みるに、姉弟でトリップして男である弟は勇者として、女である姉は巫女として国のために魔王を倒すのですねわかります。
が、しかし。
「撫子!芒も!何ともないか?」
「二人とも怪我はない?具合悪いところない?」
茂みの中から現れたのは見慣れた顔が二つ。会社員でそこそこ偉い地位にいるという父・榛とパート社員としてスーパーで働いている母・菊だ。
まさかの家族全員集合。家族で異世界トリップとか聞いたことないんですけれども。