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5.魔王様が修行をなさるまえです

「魔王様、これは貸しということで、何か願い事でも叶えてくださいな♪」


「……出来る範囲なら」

~魔王城・自室~




「……っ」



意識の中で、もう一人の私から、もうすぐ覚めますよコールをかけられて目が覚めた


窓の外はまだ薄暗い


ずいぶん早く目が覚めたな……



「…………」



結局、側近が睡眠薬を使っても無駄だったということか……


無理もないか。意識の問題だしな……



横になった姿勢から体を起こそうとする



「……あれ?」



起き上がれなかった


なんだか背中のほうから、体に何かが絡み付いている


嫌な予想をしながら、その何かをみる


白みかかった肌色の何か……腕?


それに尻尾が何かに挟まれている感触がする



「……はぁ」



溜息が出た


誰だ、私を抱き枕にしたのは……



「ぐっ……」



締め付けが強くなった



「……おねえさまぁ、そんなに激しくしちゃだめぇ……」



……確信した。妹か


まぁ、他の奴らじゃなくてよかったよ


大勢で押し寄せてきそうだからな


それより、こいつは一体何の夢を見ているんだ……


私が何かしているのか?



「もっとしてぇ」


「どっちなんだ……」



思わずツッコミが入った


きっと私がこいつに何かしてあげているんだろうな



「あっ……あっ…」



耳元で妹が喘ぐ


びっくりして首を動かす



「はぁ、はぁ」



見ると、全裸状態の妹が尻尾を股の間に挟んで擦っていたところだった



「………………」



私の、私の尻尾がぁ……


妹の……玩具に……



「ぐすっ……」



枕に顔を埋める


ううっ……尻尾がぬるぬるしてきてる


意識したらムズムズしてきた


……よく、獣人が言ってたな


確か……ワーキャットだったかな


尻尾を責められると、腰が砕けてしばらく動けなくなるって


……うん、よくわかった気がするよ


手とか足に力が入らない


うーん、尻尾って他のところよりも、あまり反応しないからいいと思っていたけど……



「おねえさまぁ……」



意外過ぎる弱点だ……


竜人って、みんな絶対こうじゃないよね?


尻尾を巻き付けて自由を奪ったときに、撫でられたら動けなくなるなんてことはないよね?



「妹様~」



メイド長の声が扉越しに聞こえてくる



「妹様? ……ここにもいない」



どうやらメイド長は妹を探しているみたいだ


探しているということは……


後ろにいる奴は夜中に抜け出してきたのか?


困ったやつだ……


そんな困ったやつに微量の電気を流し込む



「……おねえさまぁ……そのてにもっているあやしげなものはなん……」


「…………」



妹の寝言がおかしい


なんだかさらにエスカレートしてしまったみたいだ



「妹、起きろ」


「…………」



出力を倍近く上げて、再び電気を流し込む



「はう!!」


「妹、起きろ」


「……っん、あれ?」



ようやく目を覚ましたらしい



「……もう一回寝よ」


「それは私が許さん」


「すみませんでした」



抑揚のない声で妹が謝る


抱きつかれたままだからな……


寝られてしまうと、このままでは何もできない



「はぁ、夢の中のお姉様はあんなにも積極的、あんなにもサディスティックだったのに……」


「……は?」


「それに比べて……」



背中が熱くなった


そんな……夢の中と比べられても困る



「実の姉妹に手を出すのはどうかと思うが……」


「お姉様は駄目でも、わたしはいいの♪」



いいの♪ じゃないだろ……


お前も駄目だ


母様に影響され過ぎだ



「いいなぁ~これ」


「ちょ……」



いきなり翼をつかまれた


何をするつもりだ?



「七色に輝いていて綺麗……」


「…………」



唐突に褒められ、なんだか照れる……いつものことだけど


褒められるのは慣れないな、やっぱり……



「見ている分にはいいけど、自分のものだと愛着は沸かないぞ?」


「欲しいだなんて言ってないよ?」


「そうでございますか」



それはそれで残念だ



「翼布団~♪」


「何やってるんだか……」



……っと、そうだ



「メイド長が探していたぞ?」


「知らにゃい」



知らないふりをしてくる


……ん? にゃい?



「探していたぞ?」


「……知らにゅ」



またもや知らないふり……


とりあえず呼んでしまおう



「メイドt――」


「ていっ」


「ふあっ!!」



尻尾を引っ張られた


ただでさえ弱い尻尾を……


こいつ……私の身体を完全に把握している


何か隠し事でもしているのか?



「特に何もないけど、呼ばないで欲しかったから」


「ふぅ~ん……」



何もないのかよ……


ということは、今の状況をメイド長に見せつけたいだけなのか


そして後日、メイド長もそれに対抗してくると……


そのどちらにも私が生贄になっていることは、重大な要点だ


魔王を弄るのはやめてほしいよ。他の子でやってくれ


……無理か



「残すはここだけ……」



扉のすぐ傍からメイド長の声が聞こえてきた


残すは、っていうことは……まさか全部見てきたのか!?


きっと広大な城内を完璧に把握して、最短で調べてきたんだな


……そんなわけないか


光速で動いているって、前言っていたっけな



「ひゃっ!」



思考に耽っていたら、妹が服の端から手をつっこんできた



「毎回毎回……よく飽きないな」


「毎回、お姉様の反応が可愛らしいのと、メイド長がそれを見たときの反応が面白いから、全く飽きない」


「か、可愛らしいっていうな///」



瞬間的に反論する


好きでやってるわけじゃない……体が勝手に反応しちゃうんだよ


下腹部に刻まれた母様の烙印……


多分これのせいで、体質が元からおかしいのがさらにおかしくなったと思う


感電しなかったのもこれのせい



「だってそうなんだもん♪」


「うぅ……あっ、だめ」



お腹を撫でられる


指先でそっと伝わせてくるから、背筋がぞわぞわしてしまう


やってくるたびに毎回レベルアップしていくものだから、身を委ねそうになる


……メイド長は扉の前で何をやっているんだ



バタン!




唐突に勢いよく扉が開かれる



「妹さ……ま……」



メイド長がこちらを見て固まる



「……いつも……通りです」



耐えながら現状報告をする



「はぁ……」



メイド長が溜息をこぼした。珍しい……



「溜息なんて珍しいね?」



思ったことを妹が代弁した



「っは……」



吐息がこぼれる


質問しながら撫でるのはやめていただきたい



「私にだって悩むことぐらいありますよ」


「「…………」」


「……え?」



沈黙の中、メイド長が困惑する


ないと思っていたよ



「メイド長は陽気だから、ないと思ってた」



妹よ、それは思っても口にしてはならぬ



「お前も陽気だから――」



ピチャッ



「ひいっ!」



首筋を舐められた。遮る方法が斬新すぎる……


そんなに言われたくないなら言わなきゃいいのに



「私にだって悩みの一つや二つありますよ」


「たとえば?」



妹が尋ねる


声音が少し艶っぽい……凹凸があまりないくせに



「ひゃう!」



尻尾がまたしても引っ張られる



「むぅ~」



どうやら感づかれたみたいだ



「勇者がこの城に住むとかいう大問題です。それに比べれば今、目の前で起こっていることなんてどうでもよくなりますよ」



今の状況も大変だが、それも大問題だ



「あっ……」



撫でられていた手が、突然止まる


もう少しして欲しい……って何考えてるんだ私は!?


精神が屈しそうになってきてる……これはまずい



「まだしてほしい?」


「して……ほしくない」



耳元でささやかれる誘惑、になんとか打ち勝った


危うく、してくださいって言いそうになった


なんだか妹に心を読まれている気がするな……



「尻尾動いてるけど……ほんとにしたくない?」


「!?」



迂闊だった……とそれはさておき



「メイド長」


「はい」



良かった、正常だ



「後ろにいるのを引きはがしてくれ」


「わかりました」



メイド長が近づいてくる



「メイド長」


「はい?」



今度は妹が呼びかける



「私を引きはがしたら負けね?」


「優先順位は母君、魔王様、妹様の順ですので♪」



ベッドの上に乗り、身を乗り出しながら言う



「その命令は優先されません♪」



にこやかに言った


とても眩しくて見てられないよ



「お姉様がどうなっても構わないのか!」


「抵抗しても無駄です♪ 大人しく投降してくださいな」



なんのやりとりをしているんだ、こいつら……



「こうなったら……」


「魔王様、雷の魔法を妹様に」


「雷? わかった」



妹が何かをする前に術式を完成させ、ぶつける



「きゃあ!!」



手加減して放ったつもりだったのに、予想以上に効いているみたいだ



「さて、今のうちにと」



メイド長が妹を抱きかかえ、ベッドから降りた



「あうぅ……」



妹は心底悔しそうにしていた


まぁ、自業自得だな



「負けだからね!」


「それでいいですって」



今まで勝負ついてなかったのか……



「これで21連勝目……」



抱きかかえられながらもガッツポーズをかます妹


連勝していたのかよ……


メイド長負けすぎだろ……


勝負を終わろうとは思わなかったのか



「はぁ……気が休まる場面が見当たらない……」



朝起きたら縛られたり、体をまさぐられたり……


昼は昼で、母様から狙われ


夜は誰かしら押しかけてきて、寝ると意識の中でもう一人の私に弄られる……


これじゃあ魔王の大変な仕事をしていたほうが、気が楽と思ってしまう


……ちょっと危険かな



「傷み入ります」


「一応メイド長もなんだが?」


「あら、そうでした?」


「とぼけるなよ……」


「縛っただけじゃないですか~」



どうやら自覚がないようだ



「本当に縛っただけか?」


「あ~……ろうそく垂らしましたね」



垂らされたときはすごく熱かった


ろうそくを持ってきたときは、火をつけられるんじゃないかとひやひやしたよ



「他には?」


「媚薬を塗りたくって半日ほど放置しましたね」



あれは……きついなんてものじゃ済まされない


メイド長が部屋を出て行ったからすぐに洗い流そうとしたけど、縛られていたからできなくて……


その間もどんどん薬が効いてきて、体が疼いて仕方なかったんだ


そのせいで、動くだけでも体が反応して、慣らすのがすごく辛かった



「媚薬使ったの?」



妹が話に入る



「そうですが?」


「……勝負以外でお姉様を、しかも媚薬だなんて……」


「よかったらしてあげますよ?」


「やめとく」



妹にしては珍しい……



「遠慮しないで塗られてはいかがです?」


「敏感肌はお姉様だけで十分」



そうですか……


するのは良くて、されるのは嫌なのか


……Sだな



「あの時の感想を一言どうぞ♪」



メイド長が、妹を抱えなおして片手を突き出してくる


どうせ薬が効いたころに戻ってきて、全部見ていたくせに



「……言いたくない」


「まぁ、母君と一緒に全部見てましたからね♪ 近くで」



見られていた……それも一番見られたくない人……じゃなくて悪魔に


なんてことをしてくれたんだ……


きっと、尻尾を使って慰めていたところも見られていたに違いない



「あぁ……」



あまりに衝撃的なことだったので、脱力してしまった


母様が押しかけてきて私を弄ってくるようになったのは……それが原因だったのか



「どうして……」


「秘密裏にやろうと思っていましたが、母君に見つかってしまったので一緒に見守ってあげましょうと」



笑顔のまま言われると、どう返せばいいのかわからなくなる



「まぁ、わが子愛しく愛おしいほど愛されるということで……よかでありませんか♪」


「意味分からないしよくないよぉ……」



地がでたけど、どうでもよくなった


枕元に顔を埋め、ひそかに涙を流す


尻尾が自分の意思とは関係なく動くけど、無視する


母様の私に対する愛し方が、そもそもおかしい


激しい愛情は、かえってマイナスになることを知らないな……きっと


涙をひとしきり流した後、枕元から顔を上げる



「妹は受けたことがないんだっけ?」


「何を?」


「母様」


「あ~……ないよ?」


「ふ~ん」



……わたしだけ?


再び顔を枕に埋める


……あっ



「メイド長?」


「はい」



かなり重要な問題を忘れていた



「勇者の件はどうするの?」


「許婚にしてしまったらどうです?」


「……へ?」



話が飛び過ぎてわからない


なんで住み着くから結婚するになってるんだ……



「冗談ですよ。本気にしないでくださいな」


「冗談には聞こえなかったんだけど……?」



内心ホッとする



「お姉様の扱い方……上手だね」


「私を誰だと思っているんですか。世界に一人しかいないメイド長ですよ?」


「性格、身体、社会的に見て当たり前だ。馬鹿者」



こう見ていると、陽気にしか見えないんだけどなぁ



「さて、……どうするの?」



勇者の件について切り出す



「そうですね~……っと」


「あう……」



メイド長が妹を抱えなおす



「とりあえず、制限付けて住まわせることにすればいいと思いますよ?」


「送り返すのはないのか?」


「無理みたいですね。なんだか効きが甘いみたいです」



メイド長もか



「住まわせるしかない、か……」


「私、勇者様のお嫁さんになる♪」


「は!?」



いきなり何か言い出すかと思えば……


妹よ……勇者と結婚してどうするつもりだ?


姉として私は絶対認めんぞ!!



「人と魔族のハーフなんて素敵じゃない?」


「第三勢力が誕生して勢力図がややこしくなるだけですが?」



メイド長、ナイスだ



「元々二つの勢力同士が愛を育んだわけだから、よほど真っ黒じゃない限りそれはないと思うよ?」



うまく切り返された


確かにそうだな



「どちらかといえば、人間界寄りになる気がするけどね」


「どうして?」


「悪魔っ子とか獣耳とか、尻尾サイコーってなりそう」


「理解できない……」



服着るときとか面倒だし、振り向くときに尻尾がものに当たるから大変だし


それを最高だなんて……変わった趣向の持ち主だな、人間って



「それ、わかりますね~」



そういえばここにも変わった趣向の持ち主がいたな



「でしょでしょ?」



魔王を調教したり、おもちゃにしたり、抱き枕にする奴らが……



「でも、されるよりするほうが好みですね」



メイド長……私に対して言っているのかそれは?


だとしたら、これから私の視界に入ってくるたびに魔球を飛ばすぞ?



「脆弱なからだでどこまで耐えられるのか……楽しみですね」


「ひえぇぇぇ……」


「メイド長、それはいけませんぜ」



妹よ……怖くはないのか?


っていうか、母様に影響され過ぎて口調が安定してないな



「ということで、朝食ができる時間なので一緒に行きましょうか」


「え? ああ」



もうそんな時間か


窓の外を見てみれば、日が昇ってきていた


見慣れた橙色に空模様が変わる


ちょうど体に力が入るようになったので、ベッドから出る



「おろして~」


「駄目です」


「ぎゃーぎゃー」



メイド長に抱きかかえられたまま、妹が喚く


当たり前だ


おろした途端に、私のほうに飛びついてくるんだろう



「自分で歩けるよぉ……」


「また引っ付かれると朝食を片付けられませんからね」


「うぅ……わかったからおろして」



観念したのか、妹が大人しくなる


……よく見れば、メイド長の手に雷の術式が作られていた



「しょうがないですね……」



作ったまま、メイド長が妹をおろした



「ふぅ……」



妹が胸をなでおろした


そのままこっちに向かってくる気配はない


ホッと私も胸をなでおろした



「寝るとき以外は抱きつかないのに……この扱いはひどい」



およよと妹がさめざめつく


いつもよりメイド長が積極的になっているな


メイド長が先に部屋から出ようして振り向く


その顔には、なにかを企んでいるような表情が浮かんでいた



「魔王様、これは貸しということで。何か願い事でも叶えてくださいな♪」


「……で、出来る範囲なら」



……怖い、怖すぎる


何を考えているかわからないメイド長が怖い


何をお願いするんだ……



「もう一度媚薬を塗らせてください」


「嫌だ」


「塗った後も一緒に慰めてあげますから」


「うっ……」



一緒に?



「母君も一緒ですよ?」


「嫌だ」



危ない。叶えるところだった


母様は駄目だ、絶対に……!



「じゃあ、媚薬はいいので抱かせてください」


「どういう意味で?」


「いろいろな意味で」



そのままの意味ですか……



「それ、したことあるよね?」


「縛ったり放置したり、眺めたりするだけでしたことはないです」



へぇ~


それはやられている側の私でも知らなかった



「う~ん……」


「母g――」


「母様は駄目」


「じゃあ、父君は?」


「それはさらに駄目!」



方向性がおかしいし、それじゃあ浮気だよ




「じゃあ、側近は?」


「それなら構わない……あ」



しまった! 口が滑った



「お姉ちゃん頑張って♪」


「……頑張ります」



側近となら、メイド長がいてもどうなっても構わないや



「願い事も叶えてくれましたし、私は厨房に戻りますね」



そう言うと、瞬く間に部屋から消えていった



「じゃあ、お先に~」



妹も部屋から出て行った



「…………」



なんだか、気持ちが沈んでいるはずなのに胸がどきどきする


顔も火照ってきている


もしかしてこれは恋なのかな……


だとしたら側近は、私の愛人ってことになるのかな


……って何考えてるんだ///


頬を叩いて気を取り直す


すぐっていうわけでもなさそうだし、気長に待っていればいいか


ああ、お腹がすいた……



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~魔王城・食堂~



「あ、こっちこっち」



寝間着姿の妹が手招きをしてくる


仕方なしに向かう


着なおす必要があるのか?



「あら? 魔王様、今日は来るのが遅いですね?」


「え? あ、ああ……///」



私たち以外には、誰も食堂にきていない


一応私は魔王だから、ほかの奴らより一刻ほど早く起きるのだが……


例によって遅れてしまった



「ん? 妹様はいつもより早いですね」


「ふふ~ん♪ お姉様のお嫁になるために、生活リズムを変えている最中なの♪」


「うそつけ」



側近の隣に座りながらツッコミを入れる


まぁ、妹の乱れに乱れきった? 生活リズムが私によって改善されるならそれでいいけどな



「魔王様、気持ちはわかりますが……座る場所はそこではありませんよ?」


「…………」



別にいいじゃないか、隣に座ったって……


仕方なく、テーブルの端に置かれている、形が他とは違う椅子に座る


前から思っていたけど……この椅子よりも、さっき座った椅子のほうが座り心地が少しいいんだよな



「お姉様は、きっと側近の傍に居たいんだよ♪」


「な!?」



なぜわかったし


ばれないと思っていたのに……



「それは嬉しいですね~」



側近が頬に手を当てる


妹が指で四角形を作り、その中で私を見てくる


……覗かれた?



「カシャッ、カシャッ」



指を閉じたり開いたりしてくる


覗かれてはいないか


何がしたいんだこいつは……



「お待ちどうさまで~す」



メイド長がバスケットとスープが満たされた皿を器用に持ってきた


そしてまた厨房に戻り、ステーキの乗った皿を持ってきた


全員に皿を配り終えると、さっき私が座った場所に座った


……ああ、メイド長の席だったのか



「ふぅ……一人分多く作るだけで疲労度が違いますね~」



メイド長がエプロンを外しながら椅子にもたれかかる



「いつもご苦労様です」



側近がお礼を言う



「へぇ~……お姉さまってメイド長直々に作ってもらってるんだ」



妹が感心したようにしゃべる



「まあ、な。この時間はあまりほかの奴らもこないし、し・ず・かでいいからな」



妹のほうを見ながら言う


強調して言ったが気づくか?



「お姉様って、あまり騒がしいところ好きじゃないよね」


「特に朝は、な」



見事にスルーされた


騒がしいのもにぎやかなのも、別にいいんだがな……


誰かしら、必ずちょっかいを出してくるんだ


だから武器の稽古をする際とかは、そういう奴らがいないときの時間を把握して行っている


……メイド長がこっちを向いている


ああ、待っているのか



「メイド長」


「……それじゃあ食べましょうか、いただきます」


「「いただきます」」「いただきま~す」



バスケットに入っているパンを取り出す



「ねえ、お姉さま」


「あむっ……なんだ?」



口に含むと、唐突に妹から話しかけられる



「確か……これから稽古に行くんだっけ? ……スッー」


「ああ……それが?」


「一緒に行ってもいい?」



スプーンでスープを回しながら、妹が聞いてくる



「構わないが……いきなりどうしたんだ?」



朝から様子がおかしい……



「術式の形成が苦手だって、前言ってたから」


「いつ言ったっけ?」


「ついこの間ですね」



側近が話に入ると同時にパンを食べ終えた


少し味が甘かったな


……ついこの間っていつだ?


スープに手を付けようとしたところで動きが止まる


……まずい、思い出せなくなってきている


ああ、とうとう私はボケてしまったのか……


まだ18しか生きていないのに……


きっと身体を毎日責め立てられたせいで、頭がバカになってるんだな……



「なにをそんな、深刻そうな顔しているの?」



妹よ、率直にするとお前たちのせいだぞ?



「……思い出そうとして必死になってた」


「ついこの間なのに?」



仕方ないだろう……


思い出せたものは……


妹に覆いかぶされたり、母様に迫られたり、メイド長に縛られたり、媚薬を塗られて放置されたりした記憶しかない……



「十日ほど前です」


「ありがとう……すぅー」



このスープ、なんだかちょっと辛い



「式典で嬉しいことがあったから忘れていたのでは」



ああ、式典で忘れていたなら仕方ないか


術式の形成なんて、そこまで重要な問題ではないからな



「……忘れてたのね」


「今思い出した」



悪魔の血をあまり引いていないから高度な魔法は別に使えなくてもいい。武術でなんとかするって言って


魔力の総量はものすごくあるけど、素質がハーフでしかも竜人よりということで全然引き出せないのが残念って言われたんだよね



「で、私に考えがあるんだけど……聞きたい?」


「う~ん……すぅー」



もったいぶってるなぁ


逆に悪魔の血を多く引いている妹のことだからなぁ


いい案を持っているに違いない



「聞きたい」


「いいよ♪」



カラッ



思わずスプーンをとりこぼした


いつもなら、何かしらあるはずなのに


う~ん、やっぱりおかしい……


ほんとに目の前にいるのは妹か?



「えっとね……思いついたきっかけは、夢の中のお姉様が私にしてきたことなの。何をされたかは秘密ね♪」


「何をされたんです?」



メイド長が尋ねる



「……秘密って言ったばかりなんだけど」


「後で教えてください」


「教えてあげなーい……あーんっ」


「……話、進めてくれません?」


「「すみませんでした」」



話が逸れ過ぎだよ、まったく



「まぁ、されたことは置いといて。そこからいいアイデアを思い付いたわけ」


「ふんふん、それで?」


「直接、体に術式を刻み込めばいいじゃん♪ っていうもの……あむっ、ごちそうさま」



妹が完食した。早いな


体に刻み込む?



「そんなことできるのか?」


「試してみる価値はあると思うよ?」


「やったの?……はむっ」


「簡単な補助をかけてみたけど、特に変化が見られなかった」



頭を垂れて言う


失敗してるんだ……


これだけ見てると、まるで研究者みたいだな



「簡単な補助だから駄目なんだろ……ごほっ」



水を飲んだらむせた



「大丈夫ですか?」


「むせただけだ……」


「……何かが決定的に違う気がするんだけど、その何かがわからないんだよね」



妹が額を押さえる


わからないのか……


なんだか本当に研究者みたいだ



「私でも考えてみるよ、あむっ……ごちそうさま」


「お味のほうはいかがでしたか?」



メイド長が聞いてくる


いつの間にか食べ終わっていたみたいだ。早い



「スープがちょっと辛かったのとパンが少し甘かったかな。なにか入れた?」



そう答えるとメイド長が首を傾げた


何かおかしなことでも言ったのか?



「スープには香辛料を入れましたが、パンには分量以上には入れてませんよ?」


「よく噛んだからじゃ?」



側近が意見を出す



「そうですかねぇ……」



どうやら納得したようだ


ゆっくり食べていたし、そうなんだろうな



「私たちはもう行くね」



妹が席を立ちながらメイド長に言う



「どうぞ。片付けておきますよ」


「じゃあ、修練場へ行ってみよー」


「はいはい」



こういうときだけテンションが別なんだから


席を立って食堂の入り口へと向かった



「…………」



出る際に振り返ると、側近がなにやら思案顔になっていた








妄想大爆発

健全な妄想って健全なんですか?



それよりも炬燵から出ようとしたら手足に力が入らなくてやばかったです

きっとこれは魔王様が尻尾を引っ張られたときの感覚と同じに違いない……



寝起きを描写すると必ずと言っていいほど魔王様が悪戯されているという

かといって飛ばすと受難な理由が大幅に減るし……

絡みも少ないからどんどん増やしていかなくては

大変だ



願い事を叶えているシーンと媚薬のシーンはノクターン行ですね。描写が大変で表現の仕方が難しくて書けないので書きませんけど



いまさらですが世界観は東方の国とかお食事処とかあるので、大体私たちの暮らす世界と一緒ですね



食堂はかなり広めです。指定は魔王様だけであとは基本的に自由です

なので、誰でも魔王様にお近づきできるということですね

元々魔王様と部下・城の住民との上下関係なんて、ほとんど皆無に等しいですが



魔界には時の流れがどうとかいうのは通用しません。なので後々出てくるとある武器がいろいろとぶっ飛んだ設定になっていますがあしからず

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