閑話
この次が本編
※2012/12/24 修正
~魔王城・自室~
「……なぁ、そろそろいいだろ……?」
疲れ切った声が部屋に響く
「……んふ……はっ!」
私はいったい何を……
「……」
「固まってないで、ほら……」
「……? ……あっ」
なぜか知らないけど彼に覆いかぶさり、思い切り抱きしめていた
「……いつまでもそうされていると苦しいんだけど?」
「ご、ごめん……」
とりあえず離れ、ベッドに腰掛ける
まだ頭の中がぼーっとする
何をしていたのかよくわからない
どういった経緯でこうなったんだろう……
「落ち着いたか?」
「……え? 何が?」
「……まぁいい、忘れてくれ」
そう言われると気になる
「気になるんだけど?」
「覚えてないのか?」
「……うん」
私だけ忘れているなんておかしいから
「ここに来るまでのことは覚えているか?」
来る前?
「……あ、うん」
「この部屋に入るまでは?」
「覚えているよ、それが?」
「そこから先は?」
……駄目だ、思い出せない
「……わからない」
「そうか……」
彼が思案顔になる
「……『離れたくない』」
「え?」
「そう言ったんだよ……」
私が……そんなことを?
「なんかに憑りつかれているような目してさ、もうやめようって言っても聞く耳持たなかったんだ」
「そんなことを……?」
「証拠がここにいるからな」
親指を立てて胸を指す
「思い出したか?」
「……わけわからないよ」
憑りつかれていた?
それならすぐにわかるはず……
「無理して知ろうとすることでもないな」
「そう……」
結局わからないままで終わった
「そういえば正式に婚約が決まるのは二十になってからだったか?」
「え? ……うん」
確かそのくらいだった気がする
「あと二年したら、だな」
「うん」
「それまでの間ここを離れるんだけど……いいか?」
「いいよ、ここにいたらまた記憶を失っちゃうから」
「ははっ、思い出せたらいいのにな」
「もう……」
はぁ……
ここで何が行われていたのかわからずじまいか……残念だな……
「じゃあ、またな」
「うん……またね」
そう言って彼は部屋から出て行った
しばらくすると側近が入ってきた
「もうよろしいですか?」
扉のほうを気にしながら側近が話しかけてくる
「ああ、いいよ」
それに返事をする
「ところで……」
「なんでしょうか?」
ベッドに倒れこみながら側近に話しかける
「私がここに入ってからどのくらい時間が経った?」
窓の外に広がる景色は真っ暗で、今が夜だと告げているが
あいにく、今は時間が分かるようなものを持っていなかった
「今は深夜……白羊宮を過ぎた頃です」
「いつのまにそんなに経ったんだ……」
「ずいぶんとお楽しみだったみたいですし」
「……見てたのか?」
「いいえ?」
じゃあなんで言った?
……残念だ。なにかわかったかもしれないのに……
「とりあえず、もうお休みになられたらどうです?」
「ああ、そうする」
胸に手を当て、魔力を込める
すると服が光に包まれ、跡形もなく消えた
そのままクローゼットに向かう
「……相変わらず大胆に着替えますね」
「別にいいだろ? 同性なんだから。 それにこうしたほうが手っ取り早い」
「考えが……読まれてる……?」
何をぶつぶつ言っている
……確か寝間着は母様に盗られてなかったはず
寝間着にも何か仕掛けが付けられている気がするが、気にしていられない
「寝間着も瞬時に着れるようにしたらどうですか?」
側近が声をかける
まぁ、そのほうが動かなくてもいいけど……
「あの服がとても着づらいから瞬時に着れるようにしまっただけ。だから寝間着はいいの」
「へぇ~」
そう言いながら、袖に腕を通す
着るのが楽なのに、わざわざそんな力の消費なんてする必要なんてない
それに、体を動かすのが好きだからずっと座りっぱなしは嫌だ
「っと……」
帯の結び目がきつくなってしまった
結び直して、ソファーに座る
「……ふぅ」
「おっさんみたいですよ」
そう言いながら側近も隣に座る
「……やかましい」
グゥ~
「…………」
「……」
「……///」
「……」
沈黙が続く
側近がこちらをみやる
それを見ないふりをする
「……お腹すいた」
「ふふっ、何か持ってきますね」
側近が察し、立ち上がる
「……頼んだ」
別に我慢しているわけではないので、素直に頼む
側近が部屋から出ていく
一日目は水と軽めの食事を取ったんだけど……
決まったことの嬉しさで単純に取り忘れてた
「……『寂しそうだった』」
彼が言ったことを反芻してみる
椅子に座っていただけで、そんなこと一目で見破れるかな、普通……
側近と互角かそれ以上の優れた観察眼の持ち主だな
「持ってきましたよ」
「ありがとう」
寝る前ということで気を遣ってくれ、胃に優しいものを持ってきてくれたようだ
「海に囲まれた島国の料理で、お粥というものです」
テーブルの上にそっと置かれる
「どこで作り方知ったの?」
匙を持って掬いながら話しかける
作りたてみたいだが、ここから厨房までは遠いため、少し冷めてしまっている
「確か、魔王様の母君が人間界を旅している頃にとある……えっと……」
思い出せないのか頬に手をついて考え込む
その国は確か食べるときは大勢で食べるんだったか?
なら、その建物の名前は……
「お食事処?」
「そう! それです! よく御存じで」
「母様がその国のことを大好きみたいだからな。よく聞かされているよ、あむっ」
十分煮えていて絶妙な塩加減が質素な見た目なのにとてもおいしいのよ
って言っていたことが、ほおばった瞬間わかった
見た目からは想像できないくらいの美味しさだ
口元が緩む
「味のほうはどうですか?」
「十分煮えていて絶妙な塩加減が質素な見た目なのにとてもおいしい」
「子は親に似るというのはまさにこのことを言うんですね……」
ぼそっと側近が呟く
私は自分の子供に過激なオシオキなんてしないな
……駄目だ。どんどん想像が広がっていく……
……やめだ。カット
しかし……
「はぁ、夜食は太っちゃうよ……」
「食べ過ぎなければ問題ないですよ。むしろ、三食きちんと摂って適度に運動していれば逆に引き締まります。生活のリズムを崩さないことですね」
「へぇ~」
それは知らなかった
たくさん食べている割には太らないからおかしいと思っていたんだよ
リズムがあっていたからだったんだな
じゃあ、この大きくなり過ぎた胸はなんなんだ?
武器を振るうときとか、走るときとか、揺れてすごく邪魔なんだよね。何気に周りの奴らが見てくるし
こうなったのは……母様のせいだった
側近が隣に座ってくる
……ん? なんでにこにこしてるの?
「……あれ? なんだか急にねむくなってきた……」
「睡眠促進剤です。半端な眠りではおかしな夢をみるのでしょう?」
確かにそうだけど……
害はないんだから別にそんなことしなくても
気を遣ってくれているのは嬉しいけど
寝ないうちに容器をテーブルに置く
「っとと……」
「あ、ごめん……」
座りなおすと同時に体に力が入らなくなり、側近に寄り掛かる姿勢になった
「そのまま寝てしまっても構いませんよ?」
肩を抱かれ、そう言われる
「そうする……」
その言葉に甘え、ゆっくりと息を吐き、目を閉じた
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~???~
(……で、結局見てしまっているわけなんだけど?)
「ドウシテ……」
(ちょ……)
わけがわかりません
相変わらずの不可思議空間です
私はどうしてここにいるのでしょうか
(私が引きずり出したからですけど?)
「……」
その場に座り込み、指で円を描く
「イッカーイ、ニカーイ、サンカーイ……」
(お願い! 正気に戻って、もう一人の私!)
……現実逃避はいけないな
座ったまま背後から聞こえる声に振り向く
すると、前回は見えなかった声の主がそこにいた
「……ワタシ?」
そっくりさんがそこにいた
褐色の肌に漆黒の髪……
瞳は私とは対照的な朱に染まっていた
なぜかあの露出度の高い衣装を身に纏っていた
私もなぜか正装だった
寝間着じゃないのかよ……
せめて寝たときの服装にさせてくれよ
(その口調どうにかならない?)
「キヅイタラコウナッテタ」
声が変わってしまって自分でもびっくりです
原因なんて不明……たぶんショックです
(ふぅ~ん……ワレワレワウチュウジンダって言ってみて)
「やだ……あっ」
治った
唐突過ぎてびっくり
(……ちっ)
つまらなさそうに舌打ちをされる
「舌打ちすんな」
(治ってよかったねー)
抑揚がないんですが……それは置いといて
「私をここに呼び出した理由は何?」
(あの時、何があったか知りたくない?)
そういえば目の前にいるのはもう一人の私だった……すっかり忘れていたよ
知っているなら教えてほしいね
(知りたい?)
「もちろん」
(じゃあ、ワレワレワウチュウジンダって言って)
「……やっぱいい」
治ったのになぜ強要するんだ
もう一人の私なのに理解できない
(本心ではあなたはすごく言いたがっている)
「嘘だ!!」
(嘘です、すいませんでした)
本当だったらどうしようかと……
(どうしてくれるの?)
心を読まれた
「どうしよう……」
(こうしよう。えい……)
「!?」
もう一人の私が飛びかかってきた
たまらず、後ろに倒れる
「ぐふっ……何する……」
(私ならこうするけど?)
もう一人の私が、馬乗りになって手をわしゃわしゃと動かしてくる
顔が艶めかしいしなによりも
「手がいやらしいぞ」
(これからいやらしいことするからいやらしいの)
「ひゃっ!」
胸の部分を剥がされる
(ふふふ……えいっ)
露わになった胸を鷲掴みにされ、激しく揉みしだかれる
「だめっ、そんなにっ!」
押し付けたり、寄せたり…
快感に抵抗できず、やりたい放題にされている
意識の中だというのに、気が狂いそうだ
(相変わらずの全身敏感体質に裁きの鉄槌を~ってことで)
胸を揉む手が止まる
「ひどい……好きでこうなったわけじゃないのにゃあ!」
しゃべっているときに再び動いたせいで語尾がおかしくなった
(そんなの知っているけど知らないふり~♪)
なんだそれ……
成長期に入り始めてから、衣服が擦れるだけでその場にうずくまるほどだったし、そんなの関係なしに母様は胸を揉んでくるし、メイド長は温かい目で見守ってくるし、側近は母様の手伝いで拘束してくるし……
「目の前で、馬乗りにっ、なってるやつは執拗に攻めてくるしぃっ!」
私はいったい何にさせられてしまうんだ……
なぜか涙が出てきてしまった
(……背徳感が半端ない)
「うぅ……」
(魔力込めながらやったらどうなるかな~)
揉んでいる両手に光が集まる
「っ……」
なんだか胸がむずむずしてきた
これって……母様がやっていたのと同じ……
「や、やめ……」
(冗談冗談。そんなことしないって)
光が収まる
胸から手を離され、苦痛から解放される
「はぁ、はぁ……」
(ふぅ……まだ足りないけど教えてあげる)
「……」
涙目になりながらも半目で睨み付ける
もう一人の私がにやける
効き目なしか……
(えっとね……)
覆いかぶさって、そのまま顔を近づけてくる
「え……ちょっと……」
(んふふ)
その含み笑いはなんですか
っていうか近すぎです、額がくっつきそうです
(この次には何が起こるでしょうか?)
「うっ……」
大体予想できてるよ…もう
その妖しげな笑みが怖すぎます
「……キス」
(せいか~い♪ ご褒美に……)
「んっ……」
唇を重ねてくる
ああ、なぜこんなにも積極的なんだろう
性格が対照的すぎるよ……
舌を絡めてきているけど、だるくて抵抗する気になれず、息も上がっているのでされるがままになる
(……ぷはぁ~……今どんな気分?)
「自分自身となんて……変な気分」
なんとも言えないこの感情…
「はぁ、……これと何の関係があるの?」
(こんな感じで深夜までずっとしていたの)
「え?」
(いや、これよりももっと激しかったかな。腰をこう……)
そう言いながら腰を擦り付けてくる
「!?」
私が……そんなことを……いや、否定しても仕方ないか
問題は記憶がなくなるまでしていたってことだ
もう一人の私なら何か知っているかもしれない
「どうしてその時の記憶がなかったの?」
(何かされたんじゃない?)
「……知ってるね?」
(焦らすくらいが丁度いい)
ここでまたもう一人の私が妖しげな笑みを浮かべる
馬乗りにされてるから、ここからのアングルだとすごくいやらしいです
私ってそんな顔できたんだ……
(……曖昧なんだけど)
「いいから教えて」
(たぶん、何もかも見抜いていたんじゃない、彼?)
そういえばそうだ
あの目を見ていると見透かされているような気がしていた
「それが?」
(たぶん、気を遣って記憶を削除したんだと思う)
「余計なお世話だよ……」
私が恋したのは事実なんだから別に消さなくてもよかったのに
(ちなみに削除された記憶はここにあるんだけど……)
そう言って手のひらを出すと、光の球体が現れた
削除されたんじゃなかったのか
(なんで持っているのっていいたげな顔だね)
「なぜわかった……のはこの際どうでもいい」
(私が消される前に移しておいたの。感謝してね♪)
「はいはいありがとうございましゅっ!」
胸を掴まれた
もうしないって言ったのは嘘なの……?
(リアクションが薄くて……)
「知らないよ……あぅっ、そこは、つまんじゃだめぇ」
(ふふっ、その調子)
その調子じゃないよ……
(っとこれぐらいにしておいて……欲しい?)
「はぁ、何が?」
(これ)
顔に球体を近づけてくる
ああ、そっちね
「欲しい」
(それじゃあ、はい)
もう一人の私の手を離れ、球体が頭の中に入ってくる
「っ!」
入ると同時に映像が流れていく
明かりのついていない自室で彼を押し倒し、その上に覆いかぶさっている
彼の顔は私の影に隠れてしまい、よくわからない
「……///」
もう一人の私が言っていたように、腰を擦り付けていた
なんだかその部分が湿っているように見える
(……ね?)
「うん……あっ」
消される瞬間の映像が出てきた
私の額に手を置き、何かをしゃべっていた
その後、私が正気に戻っていた
(何かわかった?)
もう一人の私が聞いてくる
「わかったけど……これは……」
(これは?)
「無理やりやめさせようとして、記憶を消したようにしか見えない」
抱きしめられて苦しそうにしていたように見えたし……
(ほんとにそう思っているの?)
「え?」
神妙な顔で問いかけてくる
どこかおかしいところでもあったか?
……なんだか背中が痛くなってきた
それに尻尾の付け根も……
(記憶を消すってことが―――)
「とりあえず降りて」
(はい)
もう一人の私が隣に座りこむ
「ふぅ……」
体を起こして座りなおす
(いい?)
「いいよ、続けて」
促すと、もう一人の私は話し始めた
(えっと……記憶を消すってことがおかしいってこと)
「うん……」
(正気に戻すなら消さなくても戻せるでしょ?)
まぁ、確かに
「それしかなかったんじゃないの?」
(う~ん、そうかなぁ~)
難しく考えたらきりがない
なにか企んでいたならあの時になにかしら別の手を使っていたはず
恨みがあるなら、覆いかぶさってきたときに変身していればよかった
(多少のことに動じないようにしていたなら?)
「魔王を虜にしても意味ないと思う」
(個人的に意味があるとしたら?)
なぞなぞですか……
「どんな?」
(裏で操るとか?)
「操られる心配はないと思う」
母様のおしおきの際に刻印を刻み込まれたから、母様以外には服従しないようになっているはず
……おかしいな、安心しているなんて
(は、ははっ、……はぁ)
もう一人の私は乾ききった笑いをした
「ね?」
(うん)
考えていることと同じことを思っていたようだ
「母様がいるからきっと大丈夫だと思うよ?」
(そうだった……)
母様はみんなお人形にしちゃうからなぁ
お人形になるのが男となるとかなり危ない
逆に助けたくなる
ああされたりこうされたり……
あぁ、思い出しただけでぞっとしてきた
(私が心配する必要はなかったね)
「滅多に会うことがないのに?」
(私はあなた自身。だから心配するのは当たり前じゃない)
そりゃそうだ
(その気になればいつでも呼び出せるけど、そうしたらあなたが疲れるからしないだけ)
「気遣いどうも」
毎日これだったら流石に疲れそうだ
っていうか何もしなければ疲れないよ
(…そろそろ起きる時間だけど…覚悟できた?)
「な、何の?」
(起きたときの)
「あ…」
また悶えていたとか、喘いでいたとか
もしくは縛られているとか
……私、魔王なのに扱いがなんかひどい
(というわけで目覚めの朝が良いことを祈り、バイバーイ♪)
「…雑」
ここで設定:
魔界と人間界は時間が逆転しています
魔界が朝だと人間界は夜になります
この世界では黄道十二宮の名前が時間を表しています。十二支みたいなもん
昔(江戸時代くらい)の日本をモチーフにした国がそこにあるということで
魔王に所縁があるということで中世ヨーロッパをモチーフにした国から勇者がきています
そして、魔界は……魔王城がある街を中心に、北は冬、西は秋、南は夏、東は春と分れていってます。適当にやっているわけではなく、四神の季節を当てはめています。この世界では四神のようなものの力が大胆に発現されているということで
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作者は別にお粥が大好きというわけではありません
小さいころインフルエンザを発症した時に食べた味が忘れられないだけです
なんか百合成分豊富だ…
もう一人の魔王の声を脳内再生するならすこしばかり残響を含めるといいですよ?
これまでのことは序章でした
次回から本編に入ります
感想などどうぞ