3.魔王様のお相手は決まったようです
ああ、なんて幸せなんだろう。彼の傍にいることがこんなに嬉しいなんて…
~大広間 扉前~
「お嬢様、準備はよろしいですか?」
側近が促す
「ああ、大丈夫」
「これで駄目だったら後がないですよ?」
「わかっているよ。ちゃんと考えてあるから」
尻尾を揺らしながらそう答える
「ほんとですか? …本当のようですね」
へぇ~
「よくわかったな」
「なぜだと思います?」
「…わからん」
「まぁ、そうでしょうね。 私はお嬢様が産まれたときから傍にいます。そしてお嬢様の姉君、母君
が魔王になる前からずっとお嬢様の家に仕えていました。だからなんでも知っていますよ?」
それは初耳だ
「例えば?」
「母君はスイッチが入るときに右手首を触ります」
いい情報を聞いた
「他には?」
「姉君は頭を撫でられることに弱いです。今は魔神になる修行のためにここにいないのでできないですが」
初耳です
「姉様のことは全然知らなかったけど、そんなことしていたんだ…」
遊び呆けてると思っていたよ
「まぁ、お嬢様が物心つく前に出て行ってしまいましたからね」
「ひょっとして…家出?」
「違いますよ。なんでも、お告げでならないといけなかったらしいです」
「それで今どこに?」
「魔界の最果てで修行を積んでいるみたいです。何の修行かは知りませんが」
今度行ってみようかな
…やっぱりやめよう
あの辺りはあまり手が入っていないし、環境が厳しすぎる
「…それで、私は?」
「お嬢様は本当のことを言うとき、尻尾をゆったり揺らしながら言います」
へぇ~
「ちなみ嘘を言うときは尻尾の先を小刻みに揺らします」
「よく見てるね」
観察眼半端ないです
「まぁ、よく見ていましたからね。常にお嬢様のそばにいたので」
「うん」
そうだ、私が物心ついた頃にはいつもそばにいてくれた
側近の優しさに惹かれ、母様よりも一緒にいた気がする
しつけとか教え込まれていたから、母様よりも懐いていたのかな…あれは
「…なぁ、側近」
尻尾を揺らしながら話しかける
「なんでしょうか?」
「…側近、あのな…私は、お前のこと―――」
「それ以上は言ってはいけませんよ」
「え?」
私の口に指を添えて制止させられる
「お嬢様の考えていることはわかります」
「なら…」
「だからこそ、駄目なんですよ」
側近がいつになく真剣な顔つきで話す
「お嬢様が私の招待を知ったとき、お嬢様は最終手段にしようと言いましたよね?」
「うん…」
「それを初めから使っては最終手段の意味がありません」
「確かに…」
「お嬢様にはちゃんと男の方と婚約を結んでほしいのです」
「うん…わかっているよ…」
「なら…あなたの考えていることで進めていけばいいじゃないですか」
「うん」
側近…ありがとう
「…側近はずっと側近のままでいなくては。私以上のレアなものなんて、そうそうお目にかかれないでしょう?」
そうだよね…
「正直言って私も最終手段を初めから使っていきたいです」
「…ごめん」
感動した私が少し憎い
「…ところでメイド長は?」
「なんでも厨房のほうでミスがあったらしく、指揮をとらざるを得なくなったようです」
ご愁傷様です、メイド長
「さて、行きましょうか」
「…ああ」
側近が扉に手をかける
……っ
ギギィィッ
重たい音とともに開かれる
~大広間 式典会場~
「…来たか」
「とうとう、我ら一族の悲願を達成するとき!」
「絶対に勝ち取ってみせる!」
周りがざわめきだっている
玉座に向かって歩き、座ると同時に側近が話し始めた
「二日目となりました。私からは特に言うことはありません。魔王様は?」
「言い忘れていたみたいだが、並ぶときは種族別に並んでくれ。言わなくてもやっていたみたいだが」
悪魔は悪魔、亜人は亜人でちゃんと並んでいたんだよな
ザッ
ザザザッ
私の前でずらっと並んだ
「…ん?」
両端にいた私の部下たちがいない
「………」
もしやと思い、列の中をみる
「………」
案の定、居た
列に紛れ込んでこちらに手を振っている者もいた
…まったく
「それでは一番前の方からどうぞ」
促されて前に出てくる
「ずっとあなたのことを見ていました」
「どれくらい?」
「ここに来てから」
「少ない、次」
「あなたのことを心の底から愛しています」
「うん。実際には?」
「初めて見るからよくわからない」
「駄目、次」
「魔王様~♪私と一つになりましょ♪」
「うげっ…サキュバス…次」
「魔王様、私はあなたに一目ぼれしてしまった…」
「体?」
「体」
「次」
「魔王様! 私と結婚を!」
「お前には妻と子がいるだろう」
「魔王様の子も産んでほしい」
「二股はいかんな、次」
よかったなここに妻がいなくて
「みんなはあなたのことが好きみたいだけど、僕はそれの何千倍も好き」
「うん」
「好き、愛してる」
「うん、それだけ?」
「それだけ、ほかにいらない」
「みんな同じだと思う、次」
「あなたのよがり狂うところを見たい」
…ん?
「…うん」
「あなたが快楽に溺れる姿を見ていたい」
「…う、うん」
最後まで聞こう…
「私なしでは生きられないようにしたい。ずっと私を求めていてくれ」
「…ごめん、無理。…次」
やっぱり一日目のサディストか
魔王相手に調教ですか…
私のトラウマをえぐりだすような奴だ
あんなのは二度とごめんだ
『うふふ、いけないお人形さんね。一から体に教え込まなくちゃ♪』
『いやっ…許して…』
ああっ…思い出しただけでぞっとする…
「婚約を結んでくれるなら、俺特製のキャンディをあげよう」
「…何味?」
「愛の味。食べると気持ちよくなって求めずにはいられなくなる」
「無理。次」
レモン味なら頂きました
う~ん、内容が薄い
それに私の命に関わることを言ってくるから、うかつに手を出せない…
はぁ…どんどん減っていく…
「変身はしない。必ずだ」
ああ、もう悪魔たちはいなくなったか
…次は亜人たちか
「お前は…獣人か」
ここで邪魔されながらも昨日練ってきた案を口にする
「本当にお前達が変身しないか…試させてもらう」
そう言い、近づいていく
「っ!」
獣人の体がぐにゃりと歪み、形が変わっていく
「やっぱり…」
「すみません…」
列に向き、そのまま歩く
近づかれるたびにどんどん変身していく…
みんな…そうなんだ
「………」
とうとう、最後尾まで来た
「! 確か…」
「覚えてくれていたか…」
あの時、自信を持って言ってきた竜人だった
そのまま近づくが…
変身しない…
「なぜ…」
「言ったはずだが?」
すぐそばまで寄り、頬をなぞる
「権力は?」
「欲しいな」
「地位は?」
「それも欲しい」
「体目当てじゃないのか?」
「簡単に言うとそうなるな」
「ならなぜ変身しない!」
思わず声を荒げる
どうしてなんだ…
「…好きなんだよ、お前のことが」
「それは…ここにいる奴らは皆そうだろう…」
「違う、そうじゃなくて。魔王としてじゃなく、名家の娘としてでもなく、『お前自身』をだ」
「えっ?」
私…自身…
「権力なんていらないし、地位もいらない。欲しいけどな…」
「…どっちだよ…」
「いらないほうだ。体目当てじゃないよ。一目見て『お前自身』が好きになったんだ」
「一目見ただけで?」
「ああ」
「嘘だ…」
「嘘じゃないさ」
そう言って体を抱き寄せてきた
「あっ…」
「現にこうしてる」
「…卑怯だ」
「それでも構わないさ」
竜人が微笑みかけてくる
緑の瞳…
その眼差しは優しく語りかけているように思えた
「…どうして、私自身が好きになったんだ?」
一番聞きたかったことを聞く
「なんでだろうな…寂しそうだったから?」
「寂しくない…仲間たちがいる」
「それは魔王として、だろ?」
「!」
顔を伏せる
「お前自身としては?」
「…母様たちが…」
「それも名家の娘としてだろ?」
「側近がいる…」
「手を差し伸べてくれたことなんて少ないだろ?」
「…うん」
物心がついたときは、遠目で見守られていることがしばしばだった…
「仕えている以上、支えてあげることなんて無理じゃないか?」
「うん…」
一緒に居られたのは側近だから…
「…だから、ずっとそばにいてあげたい…」
「!!」
その一言に胸が締め付けられるような感覚が襲う
そして体が熱くなっていくのがわかった
「…ありがと」
顔を上げてそう告げた
「…え?」
竜人が驚く
「ありがとう、私のことを想ってくれて」
「…当然だよ」
嬉しい。すごく嬉しい
ああ、なんて幸せなんだろう。彼の傍にいることがこんなに嬉しいなんて
「………」
「………」
無言で見つめる。そして…
互いに口づけを交わした
「ヒューヒュー♪」
「いいぞ、いいぞ!」
「おのれぇぇぇぇ!」
「…あんな不細工な奴にぃ!」
顔が離れ、改めて彼を見つめた
…不細工なんかじゃない
端正な顔つきにきめ細かな肌
ずっと触れていたくなる
「その翼…」
「ああ、これか?」
見ると、七色に淡く輝いていた
「虹竜人…」
「そうだけど…厳密にいうと違うな。虹ではなくて霓だよ。だからお前の父とは関係がないよ」
「そうなの?」
知らなかった…
世界もまだまだ広いな
「ええ、こほん。よろしいでしょうか、魔王様?」
いつのまにか側近が近くに来ていた
「もちろん」
「…というわけですので、これにて終わりとします。わざわざ遠くから来て下さった皆様、ありがとうございました」
ざわざわざわ
「いいなぁ」
「我らの悲願が…」
「仕方ない、次にしよう」
「…では、行きましょうか、魔王様、殿方もついてきてください」
「…じゃあ、行こうか」
「うん…///」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「おねえちゃん…」
「おねえさま、でしょ?」
「はい…」
むぅ~…
でもよかった、相手が見つかって
まさか私が狙っていたのと同じだったなんて…予想外
全滅したらアタックするつもりだったのになぁ~
はぁ…
見てこようかな?
「…どこ行くの?」
「ちょっとおねえさまのところへ」
「きっとアツアツよ?」
「アツアツですね…」
あの様子からして恋に落ちたのは一目瞭然…
だとしても妹としては見に行きたい
「とりあえず見てくるよ」
「報告お願いね~♪」
「は~い」
バタンッ!!
「ん?」
「もう…終わってしまったのか?」
いつぞやの勇者がやってきた
残念だけど…
「もう終わったけど?」
「そんな…ばかな!」
勇者が膝をついた
「それで、相手は決まっちゃったよ?」
「なん…だと…?」
勇者が手をついた
わざわざご苦労様でした♪
「許さん…許さんぞぉ!」
「なにこれ…」
なんかスイッチ入ったみたい…
「必ず…奪い返してやる…待ってろよ、魔王!」
「…はぁ」
とりあえずおねえさまのところに行こっと
~魔王の自室前~
誰かが扉の前に居た
あれは…
「…側近?」
「あ、妹様? もしかして気になったのですか?」
側近がいた
「うん。側近は?」
「追い出されてしまいまして…」
「あはは、残念だったね」
「魔王様は恥ずかしがり屋ですから…」
そう言っていかにも残念そうな表情をした
「おや? お二方はそこで何を?」
向こう側からメイド長がやってきた
「ん…ここは魔王様の…もしかして~?」
「その通りよ! …聞こえてないよね?」
つい大声出しちゃったけど…
「大丈夫、聞こえてません」
「それはよかった」
「さて…どうします?」
メイド長が話題を切り出す
「壁に穴をあける」
「修復するのが面倒です」
「速攻で直してるのに!?」
「ばれやすいです」
「透視はどうです?」
「誰も使えないじゃないですか…」
「そうだった…私だけだった…あっ」
「どうかした?」
側近がなにか思いついたみたいだ
「これを使いましょう」
そう言って足に取りつけたポーチから球状のものを取り出し、浮かせて少し開けた扉から潜り込ませた
「何をしたの?」
「これですよ」
両手で枠の形を作り、そのまま広げていった
「映像…?」
「その通りです、見てみましょうか」
[なんだか、改めてこうしていると…恥ずかしいよ///]
[ははっ、会場に居たときはあんなに大胆にしていたのに。まぁ、効かなかったけどな]
[あ、あれは…その…]
[言わなくてもわかるよ。なにか考えていたんだろ?]
[…うん]
「魔王様…」
プシャァ
「め、メイド長!?」
「…ほんと、メイド長も弱いよね」
[あっ…]
あ、押し倒された
[そういえば、変身しないって言ったけど…どうやっても無理だよ、普通]
[え? …それじゃあ]
ここからだと見えない…
…なぜか視点が切り替わった
「ちゃんと移動できますよ?」
「それはありがたい」
[ああ、変身してしまうかもしれない]
[…いいよ]
ちょっとびっくりした後、おねえさまはすぐにそう答えた
「…意外ですね、どういう心境の変化でしょうか?」
「うん」
[…いいのか?]
[うん、いいよ。全部受け止めるから]
「大胆ですね」
「うん」
ごめん、今すっごく大事なところ
ひとつ残らず脳内に保存しておきたいところなの!
[…じゃあ会場での続き]
[んっ…]
ちらりとこちらを見られる
「ば、ばれてる!?」
「ばれてますね」
「ばれてましたね」
[…んぅ…っ…んふっ…はぁ]
[まだ、正式に婚約を結んでないわけだし、この先をやるのは式の後、ということで]
[あっ…もっと///]
[あははは…わがままなお姫様だこと]
「………」
「…メイド長?」
「……うらやま…けしからん!」
プシャァ
「メイド長…血液大丈夫?」
「大丈夫です、無尽蔵ですから」
「そう…ならいいよ」
それにしても、あんなにお見合いに消極的だったおねえさまが…
[はふっ…もっとぉ…]
[はいはい、しょうがないなぁ…]
あんなに乱れているなんて
あぁ、抱きしめちゃって
…メイド長、そんなに勢いよく出してると廊下が血の海になっちゃうよ…
[はぁ…これでおしまいだぞ?]
[いやっ…]
[っとと…]
すっかりはまっちゃってるなぁ…
余程寂しかったのかな…
[ふぅ…わかった、明日まで居てあげるから]
[…ありがと///]
…なんだかおねえさまじゃない誰かを見てるみたい…
性格全然違うよ…
「…どこに行かれるんですか?」
「なんか…見てて疲れちゃった…お先に失礼するね」
「ええ…一人だし、仕舞ってもいっか…」
よく見ていられるね…
あんなの…おねえさまなんかじゃ…ない
あれは…あれは…
私たちに一度も見せたことのない本性だった…
やっと結婚編終了
長かったようで短かった
っていうか恋愛ものに代わっている気がする
ラブものは砂糖を大量に吐くので読まないんですが…
本編はこの次からってことで
ぎごちない書き方してますけど、ちゃんとプロット考えてしっかり練ってやったら砂糖吐くだけじゃ済まされなくなりそう
…もっとうまくなりたいですね~
ん? ギャグがあまりない気がする
いつからこれがギャグだけだと錯覚していた?
…物語だった
それで霓竜人の名前が決まりました(勝手に
ゲイル。
霓と竜、ゲイとリュウ、ゲイ、ル
半ば当て字っぽい気がする
辞書の解釈は合っていますよ?
なぜ霓なのかはいずれわかります
名前には、私がついているから自由に生きなさいという甘すぎる意味が込められています
ゲイトと迷った
霓竜、霓人…
そんな名前を子供につけたらキラキラ夜空にお星さま
感想お待ちしています