表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

1.新人魔王様は婚約をなさるようです

とりあえず名前募集している間は名前表記を役職だとか種族とかにします


※修正 容姿のことを追加

※2012/12/24 修正

~魔王城・自室~



「ごほっ、ごほっ、……ところで魔王様」




吹き飛ばしたメイド長が起き上がる


服についたほこりを落としながら後ろ手で壁を修復した


なんていう手際の良さだ


つい手加減せずに魔球を放ったが、メイド長には傷一つ付かず、しかもけろっとしている


……まぁ、いい



「何だ? メイド長?」


「今日はとても大事な日なのですが……」


「大事な日?」



そんなものあったか?



「はぁ……」



思い出そうとしているところで溜息をつかれた


待ってくれたっていいじゃないか……



「今日は魔王様が産まれてからちょうど18年……そろそろお見合いくらいしてもいいのでは? ということでとても大切な日なのです」


「あ~……それか」


「もう……ご自分のことなのですから覚えておいてくださいよぉ……」



メイド長が再度溜息をついた



「あまり興味がないんだ……そういうの」


「それでは困りますよ……」


「私は困らないからな」


「もう、魔王様ったら……」



メイド長が頬を膨らませた



「まぁまぁ、怒るなって」



そういえば前もこんなやりとりをした記憶が……


……あ~思い出してきた



「確かさ……」


「はい?」


「1年くらい前かな? ちょうどその時にも渋々見合いをしたでしょ?」


「ええ……それが何か?」



メイド長が訝しむ



「その時の婚約を申し込んできたの、どれくらい居たと思う?」


「私はその時、厨房で指揮していたのでわかりませんが……5人程度ですか?」


「はぁ……」



今度はこっちが溜息をつく



「チッチッ……甘い、甘いぞメイド長!」


「……はい?」


「なんと……大広間に居た奴らほぼ半分以上だ」


「それはよかったですね♪」



メイド長がにこにこする


おい、よくないぞ……



「知っているか、その時の衣装?」


「ええ。ぴっちりしていたあれですよね?」


「そう」



でもな……



「その時に着て行った衣装……それなりにかっこいいな~って思っていたのに、大広間に着いた途端に白いところの生地がなくなって……サキュバスにも負けず劣らずの露出度だったぞ?」


「よかでありませんか♪」



よくないって……



「だからあの時に顔が真っ赤だったのですか」


「そうだよ」


「ふふっ」



……おい、そのにっこり顔をなんとかしてくれ……



「そのせいで時折、舐め回すような視線がそこら中から飛び交ってきて大変だったんだ」


「恥ずかしがっている姿が可愛いい~っていう視線ですよ」


「んなわけねえだろ!」



つい声を荒げてしまった


もしそうだとしたら……そういうやつらをはねておいてよかった


獣人からはそういうのはなかったんだよね


誠実すぎて感無量です



「あの衣装は妹様と側近、母君が考えたそうですよ?」


「……え? ごめん、私の耳が遠くなったみたい……ワンモア」


「だから、あの衣装は妹様と側近と母君が考えたそうです」


「ワンモア」


「ですので、あの衣装は――」


「ごめん……もういい……」



何か、ものすごく聞いちゃいけないような事実を聞いた気がする


母様……娘に何着せてるんですか……恥ずかしくないんですか?



(そうでもないわよ?)



……幻覚がきた


もう駄目かもしれない……


思えばいろいろとあったけど、そのたびに叫んでばっかりだったなぁ……


母様の魔の手を浴びてからは辛いことばっかりだ



(勝手に幕を閉じようとしないの♪)



…………


……


……はい


種族間回線ですか……



(母様……何用ですか?)


(呼ばれた気がして)


(左様ですか。それで母様……ひとつよろしいでしょうか?)


(いいわよ?)


(1年前に私が着た衣装……あれ考えたの母様ですか?)


(ああ、あれね。そうよ?)



……嘘だと信じたかった


どうして……どうしてそのようなことを……



「母様ぁぁぁっ!!」


「……魔王様? ……ああ、お話をなさっているのですね」



そこ……なぜわかったし……



(ちなみに妹と側近と考えて私が直々に作ったのよ?)



作ったのも母様だったのか……


側近……手伝わないでくれ、そういうことは……



(指をならすとあら不思議。白い生地がなくなりますのよ?)


あの時、パチン!って聞こえたの……


あれ、母様だったのですか……



(あなたの恥ずかしがる姿、すごくきゅんとしたわ。それはもう……今すぐ抱きしめたいってほどに)


(はっ!?)



背筋に悪寒が走った


なるほど……あのとき両手で顔を覆って俯いていた理由はそれだったのか



(それで結局、終わった後に脱ごうと思ってもなぜか脱げなくて……寝間着以外クローゼットからなくなっているし……あったと思ったらそれ以上に露出しているし……)


(それ、私がやったの♪)


(母様のせいですか!?)



何するんですか……まったく……



(だって~)


(だって~じゃないです)


(でも~)


(でも~じゃないですよ…)


(あなたが喜ぶと思って作ったのよ……?)



通信ごしに母様がおよよとさめざめづくのがわかる


母様……私を思って……


……じゃない!


危うく情に流されるところだった


メイド長が隣に座ってくる



(まぁ……作ってくれたことは確かに嬉しかったですよ? あんなことになるまでは……)


(あなたはもっと色気を出すべきなのよ?)



……衝撃的な告白を聞いた


娘にいったい何をさせたいんですか……


私のことを知らない奴が、あの格好のままでいたら露出狂だと思われるじゃないか



(知っているかしら?)


(何をですか?)


(悪魔の数ってかなり減ってきているのよ?)


(はぁ……それで?)


(同族以外でも数を増やしていくことはできるけど……へんなプライド張っちゃって同族としか子を作らないって決まりを作っちゃったわけなの)



……真剣そうな口ぶりで言ってきている


そんなの知らないです



(まぁ、私は関係なしに虹竜人のダーリンと愛を育んだわけだけど。あなたの翼はダーリンのと一緒ね♪)



はいはいそうですか……


結局悪魔と結ばれなかったのですか……


説得力が皆無です


この翼は気に入っているけど……


うげ~……口の中が甘すぎる



(あなたも私みたいにもっと積極的にならないと駄目よ? 周囲を惹きつけないと。せっかく去年の式典のときだってたくさん見合いを申し込んでくれたのに)


(やだよ……地位と権力と私の体が目当てでしょ?)


(そんなことはないと思うわ。それに魔王を決めるのは神様だから、魔王と結ばれたからって莫大な地位と権力を手に入れるってことはまずないわ)



初耳なんですが……それ


(あるとしたら家のほうかしらね。ほら? 私ってみんなから慕われていたし?)



それも初耳です……


(それに、アタックしてきているんだったら変身されようが何されようが、全部受け止めてあげればいいじゃない♪)


(他人事ですね……母様)


(なんだったら申し込んできた殿方たちとの子を産んであげればいいと思うわ♪)


(過労死します)



私がどうなっても構わないんですね…



(魔王である以前に私の可愛い娘よ? あぁ、孫の顔が早く見てみたいわ~)



母様……そんなことを言われてもですね……



(あなたが殿方と結ばれないと……妹がその分頑張らないといけなくなるわ)


(頑張ってもらってもいいですか?)


(だめ~♪)



聞くだけ無駄だった



(あなたも経験しないと駄目よ? 妹は私の性質をほぼすべて受け継いだといってもいいぐらいだから……逆ハーレムでもなるんじゃないかしら?)


(確かに……)



否定できない自分が悔しい


私には引き継がれなかったのですね……


少しでもあったなら私は変わっていたかもしれないのに……


……嘆いていても仕方がないか



(……そういえば母様は元魔王でしたよね?)



話題を変える



(そうよ。偶然、私たちの家系で連続して出ていてね。私の前も同じ家系であなたの前が丁度違う家系ね。私たちより上の権力者よ。あなたがここ数百年で私に続く年少者ね)


(へぇ~)



母様も早い時期に魔王に……



(……それで私の前の魔王が早くいなくなった理由とはなんですか?)



なぜか、私の前の魔王は任命されてからやめるまでの時期が早かった


あの時の顔、相当疲れていたな~


今となっては痛いほどわかりますけど



(あ~それね。なんか『もう疲れた』らしいわよ)



なん……だと……?


っていうかやっぱりそれか



(私もその理由でやめてもいい?)


(やめても構わないけど…やめるならこっちで婚約相手…選ばせてもらうわよ?)


(!?)


(何人くらいがいいかしら~?)


(軽はずみなことを言ってすみませんでしたっ!)



冷や汗が出た


それだけは困る



(わかればよろしい♪ あなたはかなり名のある家の娘その二なわけだけど、やっぱり親に選ばされるより、自分で選びたいわよね♪)


「はぁ……」


「……?」



つい、ため息がでた


メイド長がこちらを見てくる



「なんでもないよ」


「そうですか?」



話を再開した



(もちろんです)


(じゃあ今年で決めちゃいなさい♪)



母様……


期待には応えるようにします……


……できたら


っと肝心なこと聞き忘れていた



(……なぜあのようなデザインばかり作るのですか、母様?)


(だから言ったでしょう? 色気を引き出すためだって)



同じことを聞かれたと思ったのですか……



(露出があまりないデザインにしてほしいんですけど……)


(いいじゃない♪)


(ピチピチで肌に吸い付いてもいいから白い生地をなくさないでください)


(ほんとに?)


(白い生地だけは駄目です)


(じゃあ黒い生地のほうを消すわね♪)


(それはもっと駄目です!)



それだけは駄目だ



(実はもう実装済みよ? 黒い生地が消えて、代わりに白い生地が現れるの)



なんという変態衣装……


私は今度それを着なくてはいけないのか



(着たまましたいって時におすすめね♪)


(すすめるな!)


(肌にほとんど張り付いているから引きはがすのは難しいの)



張り付いていたのか、あれ


白い生地の部分とくっついているだけだと思ったよ



(だから魔力を使って全部一気に脱ぐようにイメージしないと駄目ね)


(それ教えてくれなかったら一生あの衣装のままでしたよ? 白い生地も残してほしいです)


(もう……妹はちゃんとあの衣装と似ているの着ているわよ?)



……はい?


今なんと?



(凹凸が少ない体だけど、それなりに目を惹いているわ)


(そういえば妹とあの衣装考えたんでしたね……)


(そう! それでね! また新しく作ったのよ!)



またですか……今度はあまり……


期待しないほうがいいか……



(今そっちに送っているから、楽しみにしていて頂戴♪)


(はいはい。切りますね)



……はぁ。


もう寝間着のままいたい……


母様はどうして過激なものばかりつくるのだろう……


実は母様は淫魔じゃないのか?


だとしたら合点がいくところが満載なんだけど



ダダダッ!!



「ん……?」



まさか……



「来たようですね」



バタッ!



扉が勢いよく開かれる



「お待たせ」「しました~♪」



とうとう来てしまった……


………


小柄な体に翼と尻尾を生やした少女と妖艶な体つきをした女性がそこに立っていた


少女のほうは、赤い瞳に金色のショートヘアで側頭部と尻尾の先にそれぞれ赤いリボンをつけていた


そして女性のほうは、艶がある黒髪を背中まで伸ばしており、ところどころ束単位で毛がはねていた



「側近、妹……何、その恰好。……そしてその手に持っているものは何?」


「魔王様の母君が、魔王様のために特別に作って下さり……」


「私たちの分まで作ってくれたんだよ、お・ね・え・さ・ま♪」



妹たちの服装に思わず突っ込む


……二人とも露出度が高い


なんといっても妹のほうが表面積が圧倒的に少ない


……こいつには羞恥心というものが存在しないのか?


絶対こいつは淫魔だろう。確定だな


側近のほうは豊満な体をしている割にはそれほど肌が出ていない……


時折、私のほうを見て恥ずかしそうなのか嬉しそうなのかわからない表情をしている



「見てみて、お姉さま♪」



妹が凹凸の少ない体をアピールしてくる


……絶対見せつける相手を間違えていると思うんだが……


私にやっても無駄だ。同性なんだから……


……側近は見せつけないのか?


ちらりと側近を見やる


いや……見せつけなくていい


私だけの側近だからな



「……魔王様?」



はっ! 私は何を考えているんだ……



「……なんでもない」


「もうサイズとか生地とかすごくフィットしているの♪ 着ていて全く違和感なんて感じないよ♪」



妹がはしゃいでいる


……宣伝はもういいから


布面積が少なすぎて感触がないだけなんでしょ、どうせ



「はいはい……」


「それで、これがあなたの着るものです」



そう言って、側近がバケツを持った手を前に突き出してきた


この黒くて白くて艶のあるゼリー状の物体はなんですか……




……


………


…………まさかこれを塗りたくれと?


冗談じゃない! そんなことしたら体質的に精神が崩壊する


なんでこの一年間の間にそこまで衣装の着方がグレードアップしているんですか!?


去年は球体が一瞬で体を覆って衣装を形成したからあまりこなくていいけど……


……こんなの……無理だ



「それでは寝間着を脱いでください」


「嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だー!!」



まだ死にたくない!


こんな……こんな終わり方なんてしたくない……



「もう時間が迫っているの。そ~れっ」


「ちょ……まだ心の準備が……」


「い・い・か・ら! はい!」





バッ!


妹に魔力を使われ、無理やり剥された



「ひゃぁっ!」



はずみで尻餅をつく


………


一瞬、時が止まる


………


プシャッ



「!?」



メ、メイド長が鼻血を出して倒れた……


大量出血だ!



「……っ」

「……んふ」



二人とも鼻を押さえていた


手の間からは赤い液体が……ってお前らもか!


……はっ!


二人がこちらを凝視している



「眺めるな!」


「っと、すみません」


「もう……」



なんで母様はこんなものばかり……



「娘の様子を見にここにけんざーん♪」



…………


……私はもう、お嫁には行けないのですね


このゼリー状の物体は恐らく、いや、確実にスライムでしょう


そして着ると見せかけて犯されてしまうのですね……


……はぁ、そんなことをされるくらいならいっそ……



「ちょっと!? 刃物出して何する気なの!?」


「決まっているじゃないですか……自害です」


「え? 私が来るまでの間にいったい何があったの?」



全部あなたのせいですよ、母様



「後のことは全部、妹に任せます」


「……残念だけど、あなたは魔王だから死ぬに死ねないわよ?」


「……うわぁぁぁぁぁ!!」



……世の中って残酷だ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「このシートの上に寝かせてください」


「…………」


「まったく世話のかかる娘ね」



お姉様が虚ろな表情のままシートが敷かれた床に仰向けになる


あの後、お姉様は暴れだしたんだけど、お母様がつけた刻印のおかげですぐに収まった


きっといろいろと溜まってたんだね


そんなお姉様は今、お母様によって操られているので意識は多分ないと思う


お母様自身が操られている側は意識がなくなるって言っていたし



「では、容器から出しますね」



そう言って、側近がスライムをお姉様の足元に落とす



「はぁ、残念だわ」



お母様がつまらなさそうに呟く



「よがり狂っているところをこの目で収めておきたかったのに……」


「それは前の日にしておくべきだったね」


「昨日は忙しかったのよ」



確か、紹介状とか作成していたんだっけ?


反応を楽しむならあの体質にしてしまった以上、刺激が強すぎるもので責めちゃだめだね


スライムが足元からお姉様を覆い始めた



「…………」



意識がないため、触られただけで反応するはずなのに無反応になってる


腰、お腹ときても無反応


今日は大事な式典だから台無しにしないためにも……流石にやめておいて正解だったんじゃないかな~って思う


私だって我慢したんだから


思案していると、お姉様の頭と翼を除いて体が全部覆われた



「…………」



徐々に形が形成されていき、衣装が出来上がってくる


我ながらいい案を出したと思った


まさか採用されるとは思ってもなかったけど、これなら去年よりも着づらいものを着ることができるんだよね


でも完成して、着終わってから後悔した……


スライムが体を覆っている間、意識を保っているのでやっとだったということ


スライムが体を這いずりまわっているから、幾度も電気が体を流れるような感覚が襲ってきて、気持ちよくてたまらなかったんだよね


側近もかなり辛かったみたいで息も絶え絶えの様子だったし


だから、お姉様にはとてもじゃないけど耐えられない



「あぁ、魔王様がスライムに……」



プシャァ!


……そんなお姉様が、無事に着られるように何か案を考えた結果が意識を失わせておくってことなんだけど


お母様が渋々承諾してくれたのはまさに奇跡だった


おかげさまでこうして式典が延期することもなく、着ることができたんだよね


よかったよかった


お姉様を覆っていたスライムが形成し終えたようで、動きが止まった



「もういいみたいですね」


「そうね……」



パチン!


お母様が指を鳴らすと目が覚め――



「……間違えたわ」



なかった。白い生地がなくなるだけだった



「なんか調子が上がらないわね……」



パチン!



「……んっ」



今度こそお姉様が正気に戻る



「…………」



ぼんやりした表情で目の前の空間を見つめてる



「……」



なんだか魂が抜けちゃっているなぁ


大丈夫かな、これ……


このまま元に戻らないと、個人的にも全体的にもやばい



「これは、声かけても無駄なようなのでしばらく待ちましょうか」



困窮した状況で側近が案を出した


っていうかそれしかないよね……


なんとか復活して……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「…………」



だるい、とてつもなくだるい


体を動かしたくない。このままずっと横になっていたい


だるい原因は、魔力を一気に使ったからか?


ふと、鏡が目に映った


ベッドの上に横になっている自身の体が映っていた


一瞬、裸のように見えたけれど、ちゃんと着ていた


一体いつ着たんだ……



「あ、気が付かれました?」



側近が視界に映る


はぁ、今の気分だと音が聞こえてくるだけですごくいらいらする


無意識のうちに尻尾でベッドをはたいていた



「…………」



側近が急に黙り込む


そのまま静かにしておいてくれると嬉しい


起き上がって両足を抱え込む


……駄目だ、落ち着かない


このまま会場に行ったって……



「はぁ……」


「…………」



鏡の前まで行き、再び自身の姿を見る


妹とは対照的な銀色の髪はぼさぼさしていた


そして蒼い瞳……


自分でも見ていてなんだか引き込まれてしまいそうになる


下のほうに視線を移す


黒い生地がとても少ない


腰のひらひらはスカートのつもりか?


前が開いているから隠せてないぞ?


それどころかこの衣装自体、隠す気がないだろう……


でも……妹の言っていた通り、着心地がなぜかいい……


違和感がまったくないから……着てないのと同じような感覚に陥る


そして体が軽く感じる



「……」


「……まだ時間はあるのでゆっくりしていたらどうですか?」



側近が話しかける


先ほどよりは、幾分かましになったから苛立たない



「ああ……そうする」



ソファーに腰掛け全体重を預ける


気づけば、周りには側近以外誰もいなかった



「ほかのみんなは?」


「先に会場のほうへ行きました。メイド長が、一息つけたら合流するそうです」


「そうか……」



そういえばメイド長はみたことがないんだったな


残念ながら、今日は駄目だったところしか見せられそうにないが……



「もう腹を括るしかないんだな……」



今の気分はまるで世界の最終決戦の前


私にとってはお見合いなんて、最終決戦と同じなんだがな……



「…時間です。では、行きましょうか」


「ああ…」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~大広間扉前~




ガヤガヤ


ガヤガヤ



「魔王様、準備はよろしいですか?」


「何度も言わせるな。大丈夫だよ」


「わかりました。では行きましょう」



側近が扉に手をかけた



ギギィィィッ



木の軋む音とともにゆっくりと開いてゆく



「「………」」


「「「………」」」



場が静まり、視線が一気に私に集まるのがわかる


玉座まで行くと、私が座ると同時に側近が話し始めた



「このたびは、わざわざ集まっていただき、誠にありがとうございます。」



やれやれ……


周囲を見回すと、前のほうに招待された者、真ん中のあたりにこのあたりではあまり見ない者、そして両端に部下たちが、後ろのほうに私に対する血縁集団が居た


妹がこちらに手を振った


母様が頬に手を当てた


父様が母様の肩を抱いた


そして私は目頭を押さえた


おかしいな……見間違いじゃなければ、悪魔たちが1年前に比べて多い気がする



「……です」



思考していたら側近の話が終わりに近づいていた



「早速ですが、お見合いを申し込む方は……」



……はっ!


ぼけっとしていたが、記憶が確かならこの後は……



「魔王様の前にお並びください」



これだ……半分以上来た理由


側近が話を進めてくれるのはいいんだ……いいんだけど……


そう言うとたくさん来きてしまう……



ザザッ!


ザッ!



「うっ……」



広間に居た全員が私の前に並ぶ


その光景に思わず気圧される



「……こんなにたくさん」



メイド長……感心してる場合じゃない……


これ全部を……


私が捌くんだぞ?




「最初に並んだ方から一言ずつどうぞ」



側近が声をかけると、一番前に並んでいた奴が一歩前に出た



「ずっと、あなたのことを見ていました」


「ああ、次」


「あなたのことが好きでたまらなかった!」


「へぇ~。次」


「あなたと夫婦になれば世界が変わる!」


「はいはい。次」


「あなたの泣き叫ぶ姿が見たい……」


「……え?」


「あなたを痛みつけて苦しみもがく姿を見ていたい……」


「……つ、次」


「みんな結婚してるよ?」


「好きで一人で居たいわけじゃない! 次!」




……ああ、前にもこんなことがあったんだっけ……


叫んだら喉が渇いた……水でいいか


……ああ、喉が潤される


定番のセリフやまともじゃないことを言ってくる奴ばかりで結局全滅


人数が減ってきた後半から確か……



「あなたと一緒にいたい」


「お前は確か……背中の翼をみるに竜人だったか?」


「……? はい」


「……すまない……興奮して変身されるとその……いろいろと困るんだ」


「変身しないようにする」


「お前たち竜人も含めて、亜人は気が昂ぶるとすると変身するだろう? 幸い、種はまだ繁栄しているから……出直してきてくれ」


「……はぁ」



亜人たちが一斉に列から外れていく



「すまないな……」


言っていることは胸を打たれるようなことなんだが……


……私が種族が違うということで拒んでいる


正直言って……怖い


見下すとかじゃない……純粋に、だ


……そういえば最初のほうに悪魔が集中して、後半に亜人たちが来るんだったな


はぁ……今何人目だ……?


また喉が渇いた……水しかないのか……それぐらいしか飲めなかったな……



「元気にしていたか? 孫娘よ」



この声は……



「! 伯父様、何をしているんですか……」


「何をって見てのとおりだ。どうだ? わたしとでも――」


「私の中では近親相姦はタブーだ、帰れ。次」


「ぐはっ!なんて強烈……」



何考えてるんだ……まったく……


伯父様は確かかなり前の魔王だったか


よくあんな性格ででまとめられたな……


……周りがフォローしてくれたのか



「……あっ」



気づけば並んでいる者がいなくなった


あれだけ並んでいたのに……


それだけ時間が過ぎるのが早かったってことか



「もうよろしいですか? 魔王様、いかがでしたか?」



側近が呼びかける



「……全員、駄目。惜しいのがいたけど亜人だった。ほとんどの奴らは、私を見る目が気味が悪かった」


「……ということです。以上で一日目を終わりにします。ありがとうございました」



ガヤガヤ


ガヤガヤ



「あ~あ、また断られちまったよ」

「俺なんか何か言う前に次に回されたぞ?」

「聞いていたみたいだったな~」

「ああ、私の愛はあの方に届くことはなかった…」

「明日があるじゃないか。こっちは今日しかないんだぞ?」



好き放題だな……


バタンッ!


突如、大きな音とともに大広間の入り口の扉が勢いよく開かれた



「なんだ!」


「……見合い場はここであっているか?」



影で顔がよくわからない



「誰だ!」


「俺は勇者だ! 魔王! お前に婚約を申し込みに来た!」



何? 勇者?


婚約だと?



「帰れ!!」


「断る!!」



ムカッ



「式が終わってからくるな! 帰れ!」


「そんなものは関係ない! お前を連れて人間界に行く!」


(あらあら。なんて元気な子なのかしら)

(昔を思い出すな、母さん)



……種族回線で甘々なこと言うのやめてくれないかな……ほんと



「あきらめろ。 今日はもうお終いだ」


「ならもう一度開け!」



ぐぬぬ……


なんだこいつは……仕方ない


手に術式を展開する



「今日はもうおしまいだ……だからまた来い!」



転移術式を勇者にかけ、人間界に飛ばす


……はずだった



「……また来てもいいんだな? ……よし! また来るからな!」



転移術式が発動しなかった


それでも帰ってくれたからいいんだけど……


……大変なことになった


なぜまた来いなどと言ってしまったんだろう……



「……魔王様? 今日のところはもう終わりました。とりあえず自室に戻りましょう」



側近が手を引く



「今日のことは忘れましょう。誰もあなたを人間の嫁にするわけがないでしょう? 必ずこちらでお相手を見つけましょう」


「側近……ありがとう……」



大広間を抜けて長い廊下に出た


でも……見ていると、まったくと言っていいほどいないんだよ……


悪魔って数が少ないって母様は言っていたけど……


結構な数居たぞ


あれほとんどが貴族なんだろ?


ほんとに少ないのか?



「良かったら私がお相手しましょうか?」


「!? ……ごほっ、ごほっ、……は?」



何を言っているんだこの側近は……


同性でできるわけ……はっ!



「まさか……側近……お前」


「その通りですよ……両性具有です」


「……最終手段にしよう」


「そうですね……ちょっぴり残念です」


「そのかわりだけど……」


「二人きりのときは無理して魔王様って呼ばなくていいよ」


「! ばれていましたか……」


「ぎごちなかったからな」


「わかりました……お嬢様」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~自室~



真っ先にベッドに向かいうつ伏せに倒れこむ


はぁ……ベッドが一番落ち着く


それにしても疲れた



「おつかれ~♪ お姉さまっ♪」

「お疲れ様でした、魔王様。残念でしたね」


耳障りな……


妹とメイド長が来た



「ぐっ……」



妹がのしかかってきた



「また全滅だったね」


「……私は……プライドにこだわらないほうがいいのか?」


「そうしたほうがいいのでは?」



側近……でもな……



「あの子よかったな~私のお婿さんにしたかった」



妹が恍惚とした表情を浮かべた


誰だ? どいつだ?



「そういえば勇者がまた来るとか言ってましたが……あの様子だと明日に来そうですね。明日は式典二日目ですね。いい言葉が聞けることを期待しましょう」


「……はぁ」



だめだ……溜息しか出ない……


元はと言えば最初の悪魔たちが問題なんだ


なんで定番のセリフばっかり言ってくるんだ……


去年と全く変わってない……


それのせいでやる気が損なわれる


それに比べて亜人たちは内容があり、一人一人が熱意を込めていた


……考えてもいいかな



「はぁ~お姉さま~相変わらず触り心地が最高です~」


「疲れて動けないのにっ、……なにちょっかいを、ぁっ……出してるんだ……ってやめて…」


「お姉さまは抱き枕~」


「離せ……」



ああ、もう疲れた


抵抗しようにも疲れた……


背中の上に妹が乗って、体をまさぐってくるけど……


そんなの関係ないくらい眠くなってきた……


………


……



「……あれ? お姉ちゃん? ……寝ちゃった。……これはもしかして超チャンス!?」


「……とりあえず先に汗を流してあげましょう?」


「は~い」

お見合いに命賭けて


魔王様がちょっとやつれ気味になっていますけど心配なさらず


修正したら、ギャグが全くない……むしろ元からない?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ