始まりは罰則
リアルの忙しさから、久しぶりに帰り、書きたくなった小説です。他の作品とともに気のままに更新していきます
八百万、この数を聞いて想像できるものはなんだろうか?
それは神の数だ。神は多岐にわたる全てを管理している。火の神、水の神がいるなら、植物の神、涙の神なんてのもいる。
八百万の神を管理するのは力をもった神達だ。何を管理しているか等関係ない。純粋な力で序列八十二位まで定められる。それ以外は有象無象の神だ。価値もない。
神の一柱、気まぐれの神は雲の上にそびえる大きな柱の上で正座をしていた。その髪は銀色、瞳は金色。性別的には男性だが、中性的な顔立ちをしている。
気まぐれの神は上位八十二士の中でも二柱の座を治めている。さまざまな世界を管理し、見るのが彼の仕事だ。
そんな彼の隣に並んで正座をするのは上位八十二士の三柱である悪戯の神だ。二人は今、ある仕事からもどったところだ。
「まったく! ロキ! なぜお前はことごとく俺の邪魔をするぅ!? もう少しで俺の祈願たるスライム帝国が世界を征服しそうなところを!」
気まぐれの神は頭を掻き、苦言を隣の悪戯の神、ロキに吐く。
そんな気まぐれの神の様子をロキはケタケタと笑う。
「ははははは! 馬鹿め、世界を征服するのはコボルトだ!」
二人はある魔法と剣と人間の勇者が存在する世界で魔物と呼ばれる化け物の中で最弱を争う者に成りすまし、その種族で世界を征服しようと気まぐれに遊んでいたところだった。
その過程はこうだ。
「そうだ、世界を制服しよう」と某観光番組のノリで気まぐれに思いついた気まぐれの神が、ある世界に目をつける。しかし、ただ征服するのはつまらない。魔人と呼ばれる種族で征服するなら難易度はイージーを通り越し、餡子に砂糖水と蜂蜜をかけたなみに甘い難易度だ。人間など論外。ドラゴン、検討外。アンデットは捨てがたいが、それでもそれほど面白いと彼は感じない。そこで目をつけたのが、そう、スライムだ。
最弱の名をコボルトと争う彼のスライムならば俺に相応しいと、気まぐれの神は直感し、特に計画を立てることもなく、スライムに知能を与え、神として彼らの前に顕現した。
そして、ご高説を垂れるがごとく、演説をしたのだ。
『しょくぅぅぅぅん! 最弱の名は今、終わりを迎えた。さぁ、世界にスライムの名をとどろかせようではないか!』と。
紆余曲折し、祝福を与えられる限り与えたとして、魔人や勇者に敵わない実力に気まぐれの神は『心が折れそうだ……』と呟くときもあったが、とうとう、スライム達は生物的進化を果たし、ドッペルスライムとなり相手の能力を真似し、それに自分の力を上乗せするといったチート力を手に入れ、大台に乗ったその時だ。ロキが参入したのは。
なにやら面白そうな事を親友の気まぐれの神がしていると嗅ぎつけたロキもまた、最弱たるコボルトに力を与え、世界征服を始めたのだ。
なぜ、気まぐれの神がコボルトを選ばなかったか、それはコボルトが武器を使えることにある。たしかにコボルトは弱い。しかし、武器を使えるということは知能を与えるだけで化けてしまう可能性があるのだ。案の定、知能を与えられたコボルトは最終兵器、核爆弾を作りだし、スライムを、そして世界を焼け野原にした。
その陰でロキが『ハァ~ハハハア! 核は正義なりぃいいいい!』と叫んでいた事を知っている者はすでにいない。
その世界は核の汚染により滅んだからである。
しかし、これも何時もの事。ロキが気まぐれの神の邪魔をすることもあれば、気まぐれの神がロキの邪魔をする事もある。悪戯と気まぐれ。似た性質の二人はどこか惹かれあう物もあり、互いに互いを親友と公言している。
そんな幹部の二人が何故正座しているのか、それは目の前で憤怒の色を隠そうともしない上位八十二士の一位たる、一柱、神を司る神、アラが二人を呼び出したのだ。
虹色のロングヘア、紫と蒼が混ざった瞳のアラは言葉をどう選んだとしてその美しさを表せない程の女神だ。
「ロキィ、それに、ルシファー? 何故私が貴方達を呼び出したか、分かっているのでしょう?」
アラは眉間に皺を寄せ、笑いながら拳を鳴らし始めた。
そんな最強を前に気まぐれの神、ルシファーと悪戯の神、ロキは死神に囁かれたの如く肝を冷やす。これ以上ふざければ粛清を受けかねないと感じたのだ。
先程の様子はどこへいったのか、二人は沈痛な面持ちをすると、アラに向かい騎士が王にそうするように肩膝を折り頭を垂れた。
「重々承知しております。我らがアッラーよ。」
「アラだっつってんでしょ!? 本当に粛清されたいのロキィ!」
こんな状況でも軽口を叩くのは彼が悪戯の神であるからかもしれない。
このやり取りはある世界でアラが人間達に規則を言い渡した時に始まった事だ。石版に十の戒律を書いてモーゼと呼ばれる人間に渡したのだが、アラと書かれていた部分をロキがアッラーと書き換えたのだ。それからアッラーと人間達に名前は広がり、アラが激怒する事になったのは言うまでもない。
「申し訳ありません、アラ様」とロキは深く頭を垂れると、仕切りなおすようにアラは咳をする。
「今回そなた達を呼んだのは他でもない。度が過ぎると多方面の神々から苦言を注進されたからだ。ロキ、そなたは他世界の知識をある世界にもたらしたな? その結果世界から生き物は消えた。その罪は決して軽くはないぞ。」
「は、このロキ、重々承知しております。」
先程までのおふざけは終わった。二人は神の王に罰せられるのだ。しかし、これも慣れた事、二人はその司る物からこうして罰せられる事は少なくない。
「その言葉がどこまで本当か、余には疑わしいがな。して、ルシファーよ。今回、そなたには余り非はないと余は思っている。そなたは気まぐれを行っただけ、他世界の知識を持ち出しても、過剰な加護を種族に与えてもいない。しかし、同じ世界に存在しながらも上位のそなたが止められなかった事には非があると考えている。これに関してはある頼みを引き受けてくれればそれでよい。」
頼み。その言葉を不可解に思い、ルシファーはアラを見る。彼女は不敵な微笑みを浮かべていた。冷や汗がルシファーの背中をつたう。
「して、その頼みとは……?」
「汚染が末期に進みありつつある世界の調査だ。」
神が悪魔に見えた瞬間だった。
「ゆ、遺言を家族にお願いします。」
「貴方に家族はいないでしょう。」
「あ、そうだった。」
ギャグとシリアスは半々ずつおこないます