砂漠で自殺
男は朝から下の階の住民の奇声で目を覚ました。
最悪だ。
男は心の中で小さな悪態を吐いた。
それから何時ものように顔を洗い歯を磨く。
朝飯を食べる前に磨くのは朝は何も食べない主義だからだ。
そして目をぎゅううと強く、まるで中の目玉を潰すかのように強くつむった。
男は18、まだ若い。
パチンコでアルバイトをしている。
時給の良さと、適度な運動量に惹かれはじめたが、男は精神が脆かった。
そう、問題は頭だ、脳味噌だ。
客は勝っていようが負けていようが目玉をよどませチラリと盗み見ては男に軽蔑の眼差しを向ける。
初めは気のせいだ気のせいだと自分に言い聞かせていたが、今となってはそんなことない、奴らは俺を軽蔑している、いつかコロサレル、あいつらは頭が可笑しい、怖いコワいと男の脳味噌は壊れていった。
男の悩みはそれだけではない。
前にパチンコ屋で働いていた友人が言っていたが、あんな所で働く奴らはちょっと性格に問題がある奴ばっかだ、気を付けた方がいいぜ、と忠告していたが、男はんなことあるか、どこ行ったって皆同じだ、警察官が強盗して、ヤクザが老婆の荷物持ってやってる時代だぜ、と男は友人の話をバカにした。
大切なのは職業なんかじゃない、そんなもんで人間の本質なんか決まらない、大切なのはそいつの産まれた時に親から貰った遺伝子だ。
それが男が長年かけて導き出した答えだったので友人の話を信じなかったのは当たり前の話だ。
だが男は後悔した。
確かに本質は遺伝子とリンクしているべきで、職業とは全く関わりのないものだ。
だが上っ面なら違う。
ここで働いている奴らは俺と同じだ、皆病んでいるんだ、だから冷たい、本当はいい奴なのかも知れないが気を遣う精神がないんだ。
男は同僚のソッケナさに落胆した。
もっと明るい奴らばかりかと想像していたが、奴らが話す会話はねえ、いつ辞める、あの客頭ヤベェ、はは、そういえばあの店出玉悪いよね、この店だって、あはは、でも常連は出てもいいかも、マヂで、俺あいつら嫌い。
男は会話には入らず、ただ心の中でコイツの本質はやっぱり最悪なんじゃないのかと考えた。
男は目をゆっくりと開く。
異常なスピードでだ。
そして鏡に映る自分の顔面を暫く眺め、反らした。
なんて顔だ、まるで死人じゃないか。
いや、死人は大抵無表情じゃないのか?
男は死人の表情を見たことがないので少しだけ悩んだが、アホらしくなってすぐ止めた。
それよりかも、今の自分を考えよう。
いや考えてやろう。
こんなにボロボロになってまで生きていたいたいのか。
男は思考の飛躍に驚いたがすぐにそんなこと気にしなくなった。
もう死にたい、あんなとこ行きたくない、働きたくない。
男は幼稚園児か小学生のように愚痴た。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
心の中で野獣のように叫び、頭を壁にガンガンとぶつけた。
今の男の様子は奇人だ。
まるで朝奇声を発していたあの頭のイカれた男みたいだ。
だが今は思考を反らしてはいけない。
考えろ。
こんなに壊れていく自分をどうするんだ。
自分は脆すぎた。
もともと社会が怖い、集団が怖い。
こんな自分が他の職場でもやっていけるだろうか。
男は一時期高校に行かない時期があった。
いわゆる登校拒否だ。
そして高校を中退した。
もうどうすればいい。
とりあえず今日は仕事を休もう。
だが今はあの主任に電話をするのも怖い。
不機嫌だったら不快な気分を露にし、そして冷たく説教をする。
体調が悪いんです、どうやら風邪を引いたみたいです。
男は今から電話する内容を頭の中で考え、そしてもう一度その内容を読み返した。
そうすると頭の中から主任の不機嫌な声が聞こえる。
ああそう。
その声の冷たさ、そして棘に男は心を凍えさせる。
とりあえずさぁ、まぁ今日は仕方ないけどさぁ、体調管理はしっかりしてよね、こっちも困るんだからさぁ、ただでさえ人数少なくて困ってるんだから。
男の頭の中では次々に主任が話を続ける。
そして男は妄想の中で頭を抱える。
とりあえず明日はきちんと出てね、じゃ、身体大切に。
そして電話がぷちんと切れる。
男は想像し、やはり電話なんかしたくないと思った。
だが無断欠勤なんかしたら、そっちの方がヤバい。
もう嫌だ。
全てを投げ出したい。
そして男はまた妄想の世界に入り込む。
昔から男は妄想の世界だけが居場所だった。
他人を酷く嫌い、そして他人との間や間隔に悩み脅え、集団の中、そう例えばグループ、クラス、それらのものはムシズが走る程男は嫌いだった。
集団の中の独り、あの居心地の悪さを想像してゾッとした。
男は妄想の世界で砂漠にいた。
何故砂漠なのかは男に問いても解らないだろう。
そして飛ぼうとしている。
飛ぶなら普通ビルの上でも想像するのだろうが、男の中では砂漠だった。
両手を広げ、口を大きく開き、目を見開く。
そして息を吸い込み、声にならない悲鳴を吐き出す。
それから足で地面を蹴る。
もちろん飛ぶ為だ。
だが飛べる筈はない。
例えそこが男の妄想の世界でも。
そして重力に逆らえきれなかった男は地面にあっけなく落下する。
顔から地面に落下。
なんとも情けない。
男は心の中で苦笑し、身体を反転させる。
太陽はギラギラと挑発的に、まるで男を誘う女のように輝き、魅力を必死に吐き出している。
今の自分とは正反対だ。
アハハハハ、アハハ。
男は何が可笑しいのか腹を抱えて笑った。
いや、本当は泣いているのだ。
今の仕事はとりあえず辞めよう。
そして無職になろう。
男は決意する。
アハハ、男は笑いながら目玉からポロポロと溢れる水滴を左手で何度も拭う。
だが拭っても拭っても涙は溢れ出す泉のように止まない。
男は自分が可哀想に思えた。
そして自分自身に同情し、ギラギラと光り輝く太陽に嫉妬を含めた嫌味な口調でバーカと叫んだ。
ここでは初めて書いた小説です。
よく妄想の世界に浸るけど私もこの話の男同様に砂漠が場面だったりします。
何故砂漠なのか?と書き終わった後考えてみましたが、どこか胸が乾燥して癒しを求めてるのかも知れませんね。
なにはともあれ、こんな小説を読んで下さった方がいるかどうかは知りませんが、いらしたらありがとうございます(o`∀´o)