第三話 反乱軍との闘い -前編-
ハンに助けられてから五日が過ぎ・・・
僕は特に何もすることなく傷口の回復を待っていた。
すると翌朝、目を覚ますとどこからか・・・
ブンっ!ブンっ!とバッドを素振りするかのような音が聞こえてきた。
僕は気になってその音のする場所・・・リビングの外へ向かうと、
そこには木製の剣を素振りしているハンがいた。
ハン「カケル君か?悪い、起こしてしまったかな?」
カケル「いえ、自分も今起きたところだったので・・・剣の稽古かなんかですか?」
ハン「ああ、近々闘いがあるのでな。」
闘い?
聞くところによるとこの村はヴァレル地方という領土に属していて、この地方はヴァレル国王のベベレが統治しているそうだ。しかし、その国政に異を唱えている反乱軍なるものがいて・・・国王の命で各地の剣士たちがその戦いに駆り出されるということらしい。
ハン「俺も昔、城の護衛をやっていたことがあってな。それにこの村には剣士出身のものが多い。だから村総出で闘いに出なきゃいけなくなってしまったんだ。」
僕に戦える力があれば御世話になったお礼にって気持ちはあるけど・・・
ガーゴイルに一撃を加えたのだってきっとまぐれに違いない。
ハン「ところでカケル君はこれからどうするんだ?帰る家はあるのか?」
カケル「わかりません・・・記憶が曖昧でこれからどうしたらいいか・・・」
ハン「そうか。君は剣の素質がありそうだから我々に協力してくれると嬉しいんだが。」
剣を使ったことも戦ったこともないなんて正直に言うべきだろうか?
正直に言ったら僕はこの村を追い出されてしまうだろうなぁ。
怪我が回復したらこの村にいる理由がなくなってしまうし。
そんなことを考えているとまるで心のうちを見透かされたように、
ハン「はは、そんなに悩まなくてもいい。もちろん基本的な剣の稽古はつけてあげるよ。」
ハン「これはあくまでも俺の偏見だが、君は実践経験があまりない・・・そうだろう?」
カケル「え、ええ・・・まぁ・・・」
もちろん僕が剣を振るった場面を見たわけではなく・・・
恐らく僕がガーゴイルに加えた一撃がいかにもまぐれって感じに見られたのかもしれない。
それから二日後、
傷が完全に癒えた僕の特訓が始まった。
ハン「ああっ!そうじゃないっ!もっと間合いを詰めるんだっ!」
カケル「はぁっ、はぁっ・・・」
正直言ってめちゃくちゃきつかった。運動して来なかったツケがきたかなぁ。
いわゆる基礎ってやつを徹底的に叩き込まれた。
何とか流とか言ってたけど、流派なんて言われてもねぇ。
実際これが何の役に立つかなんて全く分からず・・・
それでもこの人の言う通りにやっていれば上達するだろうと信じてやることにしたんだ。
一週間が経ち・・・
僕はようやくコツをつかんできたようだ。
ハン「よしっ!いいぞっ!だいぶ型は出来てきたようだな。」
カケル「ありがとうございます!ところで必殺技みたいなものは?」
ハン「ん?必殺技?なんだそれは?」
カケル「いえ、何でもないです。」
この手の剣技にはたいてい必殺技がつきものだと思ったんだけど・・・
はは、ゲームのやり過ぎかなオレ。
ハン「明日の稽古で総仕上げだ。明後日からいよいよ闘いが始まるからな!」
カケル「はい!宜しくお願いします!」
最近は稽古の疲れからかぐっすり眠れる。
そして朝日の光が差し込み、僕は自然と目が覚め起きあがった。
カケル「おはようござ・・・あれっ?」
リビングには誰もいない。
外からも物音すら聞こえず・・・
まだ寝てるんだろうか?
そう考えつつテーブルに目を見やると、一枚の紙切れが置いてあった。
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カケル君へ
おはよう!
このメモを見た時、我々は既にそこにはいないだろう。
まず君に嘘をついてしまったこと、本当に申し訳ない。
闘いは今日・・・妻や小さい子供たちは城の方へ避難させている。
最初は君にも協力して貰うつもりで剣の稽古もつきあってきた。
だが、よくよく考えたら見ず知らずの旅人にこの国の為に闘ってくれだなんて・・・
虫が良すぎるんじゃないか?って思ったんだ。
闘いになれば正直いってどうなるか分からない。
そんなどうなるか分からない状況の中に、君を巻き込みたくなかったんだ。
許してくれ。
どうかオレのことは気にせず、このまま遠くに逃げてくれ!
そして生きてくれ!
それが今のオレのささやかな願いだ。
短い間だったが君に出会えて良かったよ。
ありがとう。
そしてさよなら。
ハンより
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僕はショックだった。
助けて貰ったお礼もまだできてないじゃないか・・・
カケル「逃げろって・・・なんだよっ!」
僕がこの場から逃げて生き延びたところで、それは何の解決にもならないことくらいは分かっていた。もっと強い魔物に遭遇するかもしれない。
その時、今の自分じゃまともに闘えるわけがない。だったらもっともっと実践で経験して強くならなきゃ・・・それが今僕に出来る唯一のことだって答えに辿り着いたんだ。
カケル「今は・・・強くならなきゃ・・・」
僕が稽古で使っていたのは木製の剣。
外に置いてあった真剣を手に取り、震える手を消し去るかのようにギュっと強く握りしめた!そして、自分の寝室に置いてあった剣を背中に背負い静かに決心を誓った。
カケル「僕の危機を救ってくれた“伝説の剣”だから・・・きっとまた僕を助けてくれるに違いない。さぁ、行くぞ!」