第125話 ダブルデートの気分です
ケーブルカーを降りてすぐ、愛希先輩は来た時と違う道に入る。
ちょっと歩くと歩道のある太い道に出た。
車道がアスファルトでは無く石畳だ。
「ここから赤レンガ倉庫まで行ってみようかと思う。10分ちょっと位かな」
愛希先輩は歩きながら説明。
「よく見ると、家が一般的な様式と違うようです」
「本当だ。窓が少ないか縦長が多い。窓が大きいところもいかにも耐寒二重窓ですという感じだ」
そんな事を話している典明と美羽先輩の言葉を後ろに聞きながら、愛希先輩と並んで歩いて行く。
「でも愛希先輩、散歩コースなんてよく知っていますね」
「事前研究した。一応これでも女の子だから、色々なシチュエーションを考えるんだ」
「普通の女の子って、おおむねそうなんでしょうか」
美雨先輩が食いついた。
「本当はどうだか、私もわからない。ただ私はそうだな。もしこうなったらいいな、なんて妄想したりもするしさ。そしてそのための準備もしておくんだ」
考えようによってはなかなか恥ずかしいことを、事を愛希先輩はさらりと説明する。
「例えば何気に、今日の私は勝負パンツだ」
おいおいおい。
「愛希先輩、横に僕がいるのを考慮下さい」
愛希先輩はわざとらしく肩をすくめる。
「まあこんな感じだから出番は無いだろうけれどさ。それでも万が一起こるかもしれない楽しい出来事を妄想しながら準備したりする。それはなかなか楽しいと思うんだ。私はあんまり頭がよくないからうまく伝えられないけれど」
美雨先輩は頷いた。
「なんとなくわかります。でもこれも性衝動の一種なのでしょうか」
見てみると典明が、おいおいおいおい、という顔をしていた。
しかし愛希先輩は平然と答える。
「そうかもしれないな。でももとが性衝動であれ知識欲であれ他の欲であれ、自分が気に入った対象について知りたいと思ったり近づきたいと思ったりするのは当然の感情だろ。だからカテゴリ分けしようがしまいが、その感情を楽しめばいいと思うな」
いつの間にか、4人で並んで歩いている形になっていた。
そして両脇の僕と典明は、さっきから地蔵モードだ。
さっきから女子2名の発言が、微妙に過激すぎる。
それでも僕と、多分典明は、愛希先輩が伝えようとしている事がわかるような気がするのだ。
愛希先輩の案内通り、住宅街の太い道を右へ左へ歩いて行く。
突如ライトアップされた、レンガ造りの巨大な建物が現れた。
レンガ造りの建物は1つだけでは無い。
4つか5つか6つか……よくわからない。
「どうせだから海まで行くぞ」
愛希先輩の言葉通り歩いて行くと、確かにすぐ海だ。
こっちにも赤煉瓦の建物があって、ライトアップされている。
「今日の散歩のハイライト、って処だな。それなりの特別感はあるだろ」
確かに。
いかにも観光というかデートコースという感じだ。
我ながらしょうもない感想だけれど、確かにいい雰囲気ではある。
海側から回ってまたレンガ倉庫が見えてきたところで、愛希先輩は足を止めた。
そして何故かにやりと笑う。
「さてと。ちょうどいい店があるから、そこで部屋会やろうぜ」
えっ、部屋会?
でも美雨先輩も典明もわかっているらしい。
頷いている。
「と言う訳で理奈と沙知、これから30秒以内に出てこい。でないと取り敢えず今着ている服を憶えたての冷却魔法で氷漬けにするぞ」
あ、遙か背後の方から、2人組がダッシュしてきた。
「結構離れていたんですけれどね」
沙知先輩が息をきらしつつそんな事を言う。
「だから30秒にした」
「それで店って何処かしら」
「それ、それ」
愛希先輩が目で方向を示す。
レンガ倉庫の反対側に、サーカスのテントを模したような建物があった。
地元系ハンバーガーレストランだ。
「函館名物だからな、これもさ」
「愛希はこういうの、本当にめざといですよね」
理奈先輩が、そう呟いた。




