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第9話【オルベールSIDE】 シリウスを嵌める暗躍

「クソッ、あの平民の小娘と、王家の面汚しめ。痛い目に合わないとわからないようだな」


 オルベール・テスカルト。


 テルカルト伯爵家の次男であり、王国軍・特務第二隊長という立場の男だ。


 持ってきた『鎖の魔道具』を使い、シリウスをとらえて連れ帰ろうとしていたようだが、ハルカゼが脛をぶっ叩いたことで、悶絶するハメに。


 結果的に、シリウスをとらえることはできなかったわけだが、それで諦めるような男ではない。


「フフッ、『レッド・バイソンの討伐クエスト』か。所詮、肉が食いたいだけの野蛮人というわけか」


 ハルカゼは元気であり、しかも自分からこれからすることが社会的にどういう意味を持つのかを理解していない。


 結果的に、レッド・バイソンに挑み、もっと言うと美味しそうな肉を食べられるということを楽しみにしているし、それを『準備』の合間に、いろんなところで話している。


 オルベールがその情報をつかむのは容易い。


「オルベール様。どうしますか?」

「そうだな……こいつを使う」


 そういってオルベールが取り出したのは、魔導書だ。


 しかも、金色の装飾が入った、豪華な代物。


 魔導書の表紙には、『融合』と書かれている。


「テスカルト家が代々、屋敷地下の保管庫で受け継いできた魔導書だ。これを使って、アイツらには痛い目に合ってもらおうか」

「えっ……ち、地下の保管庫となると、相当、希少で重要な物なのでは?」

「紛れもなくその通りだ。だが、特務隊に所属する俺の任務に必要となれば、持ち出すことは正当性があるだろう?」


 持ち出す正当性がある。


「あ、あの、テスカルト家の当主様の許可は……」

「貰っていないが、問題はない。『貸し出した』という公的な記録があると、現場の人間が失敗した時に、課した側にも責任を追及される。しかし、その公的な記録がない場合、任務に成功すれば『問題はなかった』となり、失敗しても、持ち出したやつの責任になる」

「要するに……」

「功績があれば良いのだ。そして俺は失敗などしない。だから問題はないのだ」


 独断専行。

 組織に身を置く人間にとっては厳禁で、傍から見ている分には面白みがある要素ではある。


 それを人間が行う時の『よく使われる言い訳』は、『功績があれば、どんな違反行為も正当化される』というもの。


 ただ、実際に功績を出したなら、周囲からは『面白みがある』とそもそも思われているわけで、社会的には認められるのだ。社交的には、また別かもしれないが。


 ……もっとも、『地下の保管庫』にあるという話なので、そもそも、テスカルト家がこの魔導書を所持していると、周囲の貴族ですら知らない可能性もある。

 成功しようと失敗しようと、親から拳骨を食らうかどうかという話だけになるかもしれない。


 いずれにせよ、オルベールが今回、『融合の魔導書』を持ち出しているが、当主の許可など出ていない。


「さてと、レッド・バイソンはアイツか」


 赤い、ウシ型のモンスター。

 普通の牛よりも大きく、足も太く、角も硬くて大きい。


 しかし、生物だ。


「さてと、混ぜるのは、コイツとだ」


 別の魔導書を取り出す。

 書かれている文字は『鋼鉄』だ。


「さあ、レッド・バイソン。『鋼鉄の魔導書』を融合しろ!」


 融合の魔導書が光り出して、鋼鉄の魔導書がレッド・バイソンのところに飛んでいく。

 そして、その体に触れると、魔導書は光りながら、その内部に、スッと入っていった。


「ブモオオオオオオオオオオオッ!」

「……ふむ、なるほど、魔導書だからか。『鋼鉄』そのものと融合させれば、すぐに鋼鉄になっただろうが、魔導書と融合させたがゆえに、こちらが外部から、好きなタイミングで鋼鉄の体にできるようだ。これはいいぞ」


 オルベールとしても満足のようだ。


 言い換えると。


 融合の魔導書の『仕様』を試したのが初だからこそ、目の前の実験結果に満足しているといえる。


 さらに言い換えると。


 よく知りもしない道具を持ち出して、計画が順調に進むと思っている。ということだ。


「さて、あの小娘と面汚しが来るのを、特等席で待つとしよう」


 オルベールは笑みを浮かべて、準備を進めていく。

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