第8話 図書館の中、シリウスとクリファス
食べ物は買った。魔導書も買った。
というわけで、レッド・バイソンに挑む!
「えーと、このあたりでよさそうですね」
「?」
レッド・バイソンがいるという森に向かう平原にて。
周囲に何もないことを確認して、ダートコリドーを握るハルカゼ。
「むふふ♪ これがダートコリドーの力です!」
そう言って、地面に突き刺す。
次の瞬間、剣を中心に、図書館が展開される。
……いや、展示エリアに『クラウドグリフォンの魔導書』が一冊置いてあるだけの場所なので、図書館という印象を与えるほど本があるわけではないが、紛れもなく、図書館なのでいいとしよう。
「えっ!? なっ、こ、これは……」
シリウスは驚愕している。
いくらなんでも……そう、いくらなんでも、『地面に突き刺しただけで、周囲に施設を展開する魔道具』の存在は想定していない。
「フフッ、ハルカゼ。元気そうね」
「私はいつだって元気ですよ! むっは~♪」
クリファスも出現し、ハルカゼに話しかけた。
「……あ、あの、あなたは?」
「私はクリファス。よろしくね。シリウス」
そういって微笑むクリファス。
紛れもない美女であり、そして、その目には確かな知性を感じさせるものだ。
「クリファスさんは私の育ての親なんですよ! 13年間、いろんなことを教えてくれました!」
元気に答えるハルカゼ。
シリウスは『なるほど』と頷き……クリファスを見る。
確かに、ルックスもスタイルも抜群の美女であり、いろんなことを知っている知性がオーラとして見えそうなレベルだ。
シリウス自身、第三王女として様々な人間を見ているが、クリファスのような存在は他に類を見ない。
が、それはそれとして!
「クリファス様。単刀直入にお伺いいたしますわ。一体、どのような教育方針、どのような哲学を以て育てれば、ハルカゼのような思考回路を持つ人間が完成するんですの?彼女は、善悪の区別といった基本的な倫理観は持ち合わせているように見受けられます。それは貴方様の賜物でしょう。しかし、その価値判断の基準が、なぜ『食事』と『胸のサイズ』という二点に、あれほどまでに極端に収束しているのか、まずは論理的な説明をいただけます? 先日、わたくしが『需要と供給』の概念を、串焼きを例に説明した際、彼女は最終的に『おっぱいは大きいほうがいい』という結論に達しました。クリファス様。あの思考の飛躍に至るまでの、常人には理解しがたい論理のプロセス、貴方様ならば言語化して解説できますの? また、人間社会における『所有権』の概念を、彼女は『森のモンスターが持っている物は持ち出してよいが、町の人間が持っている物は持ち出してはならない』という、極めて独特な形で理解しております。これは、貴方様がそのように教えられた結果ですの? それとも、彼女の野生的な直感が導き出した、独自の解釈ですの? そして、何よりも解せないのが一点。なぜ彼女は、初対面の相手の胸を揉むことを、親愛の情を示す挨拶か何かのように、当然の権利として捉えているのでしょう。貴方様ほどの知性をお持ちの方が、その行動を『間違いである』と教え諭さなかった理由を、詳しくお聞かせ願いたい。
まさかとは思いますが、貴方様が推奨した、などということは……?」
文字数でいえば500文字は越えていそうなレベルで、懇々と、『ハルカゼおかしいだろ。どんなってんだオイ』と詰めていくシリウス。
オタク口調で自分の哲学を高速で喋る頭脳を持っているだけあって、頭の回転は相当速いのだ。
で、『なんだか親の顔が見たくなってきたな~』と思っていたところに、『育ての親』が出てきたものだから、爆発……というほど声が荒くなっていないが、こう、そろそろ噴火しそうである。
「……とりあえず」
「とりあえず?」
「別に私のこと、様付けで呼ばなくていいわよ?」
「話を逸らすの下手か! 質問に何も答えずにそんなことを言うのは許しませんわ!」
ちょっと噴火した。
「だって、ハルカゼって昔からこんな感じよ?」
「そうですよ! 一歩先も二歩先も考えず、思うがままに歩く! それが私です!」
「ハルカゼ、ちょっと黙っててほしいですわ」
「あ、ごめんなさいですぅ……」
睨まれて黙るハルカゼ。
そろそろ拳が飛んできそうなので自重したようだ。
「……はぁ、もう、良いですわ。どのみち、この話を進めても、誰も幸せになりませんし」
「私もその方が助かるわ」
「……ところで、ここは一体、なんですの?」
「ここは『大樹の図書館』よ」
「図書館……」
きょろきょろ見渡すが、棚に本はない。
展示エリアのような場所に、本が一冊置いてあるだけだ。
「集め始めたところ。みたいな雰囲気ですわ。あら?」
展示されている魔導書を見る。
「クラウドグリフォンの魔導書……なるほど、理解しましたわ」
「早いわね」
「明らかに『枠』として十冊分。ここに置かれた魔導書を、現実でも使える。そういうことですわね」
「そういうことです! というわけで、これらも置きましょう!」
そういって、ハルカゼは『ぬかるみの魔導書』『カカシの魔導書』『めまいの魔導書』『悪臭の魔導書』『肉切り包丁の魔導書』を置いた。
「これで六冊です!」
「これを組み合わせて戦うわけですの? ぬかるみ、カカシ、めまい、悪臭、肉切り包丁……現代の魔道具でこんな組み合わせ、絶対やりませんわ」
地味。というにしては個性を感じられるが、合理性はあまり感じられないラインナップである。
「これでレッド・バイソンを倒すんですよ! そして、美味しいお肉をゲットするんです!」
「相手がウシ型モンスターであることを考えると、微妙に効果がありそうなのが腹立ちますわ」
牛というと猪突猛進。といった印象だが、ぬかるみにハメたり、カカシで誘導したり、めまいでグラつかせたり、悪臭で集中力を奪ったり、肉切り包丁付与でナイフを通りやすくしたり……と言った形で、使えそうではある。
ただ、元気な幼女が選ぶにしてはあまりにも……。
「この渋いデッキが、これほどの性能がある魔道具の真骨頂を発揮する初戦闘……思うようにはいきませんわ」
そう、あまりにも、渋すぎた。




