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第4話 兵隊を片付けて港町へ

 シリウスがオタク口調で何か話していると……。


「ふ、ふざけやがって……」


 脛を叩かれて悶絶していた兵士たちが起き上がって槍を構える。


「貴様! 私を誰だと思っている!」

「まだ名乗ってないのに私は誰だとか聞いてくる、頭がおかしい人だと思ってます!」

『ブフッ! ……あれ、私のせいかもしれん』


 元日本人であるクリファスに育てられたためか、ハルカゼは基本的に『元気な良い子』である。


 しかし、社会性はない。

 そもそも話し相手が一人しかおらず、『クリファスが良い顔をするのか嫌な顔をするのか』しか、判断基準を持っていない。

 だからこそ、日本人に近い感性を持っているかもしれないが、クリファスが持つ偏りもすべて反映される。


 要するに、吹き出しているクリファスだが、自分の好みがハルカゼに移っているのかもしれない。


 そこに気が付いたのか、クリファスは吹き出した後で冷や汗をかいた。


『なんだろう、親が子供に言った冗談を、外で子供が真顔で言ってるみたいな。ちょっとアレな感じが……』


 これからは接し方も考えよう。とクリファスが思っている中、事態は動く。


「ふ、ふざけやがって」


 正論パンチをくらって眉間にしわが寄る隊長。


「私は王国軍・特務第二隊長。オルベール・テスカルト。テスカルト伯爵家の次男! 平民が調子に乗るんじゃない!」

「うーん……」


 ハルカゼは考える。


「次は両足の脛を叩きましょうか」

『まさかのダブル弁慶!?』


 信じられないほど微妙で凄惨な作戦にクリファスは驚愕した。

 オルベールの足が、少し下がった。当然である。


「あ、あのハルカゼ? 暴力はよくないんですよ?」

「聞き分けの悪い獣には躾が必要です!」


 そういってダートコリドーを構えるハルカゼ。

 彼女が使う主な武器は黒曜石のナイフだが、あれは殺傷力がありすぎる。


 で、クリファスから、『人間相手に斬撃はヤバい。打撃はギリギリでオーケー』と聞いているのか、ナイフは一切持たない。


「だ、誰が聞き分けの悪い獣だ! 貴様の方が獣だろう!」


 13年も野生児をやっているのであながち間違いではない。


「むー……そんなこと知りません!」


 というわけで、ハルカゼは突撃。


 ただ、何度も言うが、ハルカゼは強者である。

 自分が脛を叩くといって、相手がそれを防ごうと構えたとしても、何の意味もない。


「てりゃ!」

「ぎゃあああああああああああっ!」

「おりゃ!」

「ぐおおおおおおおおおおおおっ!」

「せいっ!」

「いでえええええええええええっ!」


 次々と脛を叩かれて悶絶する兵士たち。


「す、すごいですわ。訓練を受けた兵士を、ああも簡単に……筋力や速力を上げる魔道具を使っているはずなのに、全然追いつけないなんて……」


 シリウスも、ハルカゼの動きがどれほど質が高いかは理解できる。


「よっしゃー! 全員倒したです!」


 再度、全員が悶絶しながら倒れることになった。


「景気づけに隊長さんのお尻も叩きまくっておきますかね?」

「かわいそうだからやめなさい」

「わかりました!」


 凄くひどいことを言い出したのでシリウスが止めた。


『うーん……私の教育が悪かったか』


 野生児として生きていく以上、社会的な価値観を育むのは非常に難しい。

 そもそもクリファスとしても、その価値観が必要になる日が来ると思っていなかったのだ。


 ただ、やりようはあったのではないか。とは、思わなくもない。


 ★


 兵士たちはその場に残して、シリウスから『近くに町があるからそこに行こう』という話になった。


 港町コッコル。


 海が近くにある町ということで、物流にも使われている様子。

 とはいえ、その港からまっすぐ外に出ると、ハルカゼたちが越えてきた『荒れた海』に直面するため、あくまでも国内経済を活性化させるためのものだろう。


「……おおっ! 見えてきました!」

「グリフォン、早いですわ」


 ハルカゼとシリウスは、グリフォンに乗って港町にやってきた。


「高い壁に囲まれてますね。ただ、グリフォンなら簡単に越えられますよ!」

「ハルカゼ。関所があるので、通る必要がありますわ。越えたらダメでしてよ?」

「え、そうなんですか?」


 島だとどこに行くのにも完全フリーだったので、気にしたことはなかったようだ。


「ふむ、ルールというやつですね。それは守ります!」

「よかった……」


 シリウスから見ても、ハルカゼは強すぎる。

 仮に制御できないとなれば、それはそれで、大きな問題が発生するのだ。


 聞き分けが良い子で良かったと思っている。


「でも関所のお姉さんの胸が大きかったら揉みたいです!」


 聞き分けが良い子だと思ったシリウスが馬鹿だった。


「……そういえば、私のことはどう思ってますの?」


 シリウスだが、その胸はFである。

 相当、大きい。


「あとで揉みます」

「宣告!? ためらいとかありませんの!?」

「ベッドでイチャイチャするんですよ!」

「遠慮とかないんか!?」


 口調が崩れているシリウス。

 あまりにもまっすぐな欲望にドン引きである。


 そしてグリフォンもドン引きである。


「む? あそこ、なんで人が並んでるんですか?」

「順番待ちですわ。後から来た人は後ろに。そういうルールですの」

「ほー……」

「関所に配置できる人の数は限られますわ。一斉に手続きを済ませてくれと迫ったら、混乱して何も進みません。一人ずつ、素早く確認。これが、最も早く済ませる方法ですの」

「おー……」


 シリウスも、ハルカゼが社会的なコミュニティで生きてきたわけではないことくらいは察しているようで、それを前提に話している。


「確かに一斉に確認するとなったら蹴散らしたくなりますね」

「物騒!?」


 ハルカゼクオリティは基本物騒である。


「むー……ちょっと待ちますねこれは」

「そうですわね」


 この国の王女であるシリウスがいても待つということは、順番待ちに関してはどの身分でもしっかりする……というわけではないだろう。


 お忍び(公然の秘密)。みたいな形で来ているため、王族としての権限を行使しないという線引きがあるだけだ。


 で……。


「ZZZ……」


 ハルカゼは暇すぎて寝たようだ。

 グリフォンに乗ってスヤスヤである。


「自由ですわね……」


 シリウスはため息をついた。


 で、シリウスたちの順番になる。


「シリウス様。お久しぶりです」

「ええ、久しぶりですわ。冒険者ライセンスでよろしいですわね」

「はい」


 王族であるが、冒険者ライセンスを持っている。

 どういう立場なのかはともかく、関所の人間が怪しんでいる様子はない。


「ハルカゼ。私たちの番ですわ」

「むにゃ~。シリウスさーん。こんなにおっきな熊さん。食べきれないですよ~」

「熊!?」


 どんな夢を見ているのだろうか。

 それはともかく、体をゆすってみる。


「ハルカゼ。起きなさい」

「……む? ん? 私たちの番ですか?」

「そうですわ」

「よっしゃー! やっとです!」

「元気の構造がおかしいですわね」

『そんなツッコミ聞いたことないわ……』


 ということで。


「で、私は何をすればいいんですか?」

「関所をくぐる場合、身分証を提示するのが早いですわ。世界中で使えるライセンスである冒険者カードを持っていると楽ですが……持ってなさそうですわね」

「冒険者カードって何ですか?」

「まぁ、それは後で良いとして……とりあえず、ここは入場料を払えば入れますわ」

『意外と緩いわね』

「む? 意外と緩いんですね!」

「その緩いという判断。どこから出てきましたの?」


 クリファスの声が聞こえるのはハルカゼだけである。


「ここは経済で重要ですの。活発な状態にするには、入場に厳しい制限を付けない方がいいということですわ」

「なるほど、何かに違反したら股に棒を叩き込めばいいということですね!」

「悲惨……」


 まあ、とりあえず。


「ところで、お金は……持ってなさそうですわね。モンスターを倒すと、魔石とアイテムを残して塵になりますわ。そっちで何か換金できるものは?」

「うーん……」


 ハルカゼはグリフォンのモフモフの翼に手を入れると、『葉っぱの形をした水晶』を取り出した。


「森で着地するとき、こんなものが実ってたので、ついでに取っておきました」

「着地? 墜落ではなく?」

「あれは着地です!」

「まぁ、いいですわ……って、これ、確か、良い値段になる魔道具の素材ですわね」

「じゃあ、これで入ります!」


 というわけで、換金して、お金をもらって、その中から入場料を払った。


「むー……」

「どうしましたの?」

「お金って、どう使うんですか?」

「……」


 シリウスは疲れてきた。


「物を買う時に必要になりますわ」

「ふむふむ、森にいるモンスターが持ってるものはいくらでも持ち出していいですけど、町の中で人間が持ってるものは持ち出したらだめってことですね」

「そのレベル? マジでどこで生きていたんですの?」


 シリウスにとって、ハルカゼはかなり、ちぐはぐな存在だ。


 良い子であり、しっかりした大人から育ててもらったような形跡はある。

 しかし、道徳の教育を受けているが社会経験がないという、歪すぎるのだ。


 まぁ、シリウスが言っていることを聞くのならば、それで問題はないのだが。


「とりあえず、町にある美味しいものを手に入れるときはお金が必要ということですね!」

「まぁ、ハルカゼなら、多分それくらいでどうにかなると思いますわ。地雷を回避する直感はありそうですもの」


 いざとなればクリファスが止めるということもあるが、なんというかこう、シリウスにとって、ハルカゼは『迷惑にならない程度のふざける存在』という形に見えるのだ。


 世間一般ではそれをクソガキと言ったりするかもしれないが、それは気のせいである。

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