第3話 王女が襲われているところに着……墜落する
「おおっ、でっかい島ですね! なんだか面白そうです!」
ハルカゼはグリフォンに乗って、海を渡り大陸にやってきた。
目に見える全てが初めての光景であり、目を輝かせながら見渡している。
『どこか、適当なところで休みましょうか』
「むぅ、近くに森がありますね。どんな果物があるのか楽しみです!」
森と言えば果物がある場所。
……いや、動物がいることは島にいてもわかっているはずだが、主食が芋や果物のハルカゼにとって、森と言えば果実なのだろう。
そんなことを話していると、グリフォンの体が、ガクッと揺れた。
「うおっ! どうしたんですかグリフォンさん!」
『大規模な障壁魔法が森の中で展開されているようね。グリフォンは翼だけでなく魔法も使って飛んでるから、こういうのに弱いのよ』
「えぇ!? こんなに強そうなのに!」
『グリフォンを強化できるほかの魔導書を揃えて、展示エリアにおいておけば、これくらいの障壁はどうということはないわ。ただ、ノーマルランク一冊ってそんなものよ』
「ノーマルランクってなんですか! うわっ! 落ちるですうううっ!」
グリフォンが飛行を維持できずに、森の中に落下していく。
「うおっとっとっと!」
グリフォンはモフモフすぎて上手く踏み込めない。
自身とグリフォンの体に魔力をまとわせて鎧にして、落下しても問題ないようにする。
「うおおっ! んべっ!」
そのまま、地面に背中から激突した。
「いつつ……大丈夫ですかグリフォンさん」
「グルル……」
グリフォンも墜落したが、ケガはなかったようだ。
「もおおおっ! あんな結界を出してるなんて、一体誰ですか! こんな迷惑なことをしたのは!」
ぷんぷん怒っているハルカゼ。
ただ、視線に気が付いて、振り返る。
「む?」
そこにいたのは、動きやすいタイプのドレスを着た、長いプラチナブロンドの美少女と。
そんな少女を複数人で囲う、鎧を着た兵士たちだ。
「……どういう状況ですか?」
「な、なんだこの小娘は。空から降ってきたぞ?」
「なんだあの生物は。鷲の頭と翼に、獅子の体……グリフォン?」
兵士たちの方が驚いているが……。
「フンッ、何があったのかは知らんが、任務には関係ない」
兵士たちの中で隊長と思われる、豪華な槍を握る男が鼻で笑った。
「さて、シリウス王女殿下。少し邪魔が入りましたが、我々には関係ないこと。その野蛮な武器を捨てて、王家の誇りである槍を手に取るのです!」
「お断りしますわ」
少女の方は、拳銃を思わせる武器を兵士に向ける。
シンプルだが洗練されたデザイン。と呼べるそれは、最先端を思わせるものだ。
ただ、その拳銃に『銃口』はない。
少女が引き金を引くと、本来なら銃口に当たる部分から、何かの弾丸が飛び出した。
しかし、兵士たちの鎧に当たる寸前、『障壁』にあたると、霧散して消える。
「ぐっ……」
「無駄です。鎧が常時展開する『対銃器用障壁』により、銃による攻撃は通りません。しかも、我々に怪我をさせないように、麻痺属性にしているようですが、威力としては密度が落ちる。貫通できるものではありませんよ」
「そんなことは百も承知ですわ。ただ、そんな無駄な金の装飾をつけまくった槍など、私の美学に反しますの。絶対に嫌ですわ」
「わからないお方ですね。ただ、我々も、『とらえる際に手段を選ぶな』と言われています」
そう言って、鎖を取り出す隊長。
「罪人を拘束するための鎖魔道具ですの?」
「その通り。使用許可は下りています」
「誰から下りたのかは聞かないでおきますわ。ただ、どのみち反対ですわね」
「残念ですが、あなたの意見を聞くという選択肢は我々にはありません」
そういって、兵士たちは動き出した。
それに対して、ハルカゼは……。
「むう……よくわかりませんけど、一人で寄ってたかって迫るのは卑怯ですうううっ!」
政治も立場もわからない。
伊達に13年も野生児をやっていないのだ。
ハルカゼはダートコリドーを構える。
「こういう時は……とりあえず弁慶をぶっ叩いて全員を悶絶させてやるです!」
『全員の脛を私(剣)でぶっ叩く気か。正気を疑うわマジで』
地獄である。
「な、何を言ってんだコイツは」
クリファスは元日本人である。
ハルカゼが『弁慶』という個人名を知っているのは、そこから聞いたものだろう。
それゆえに、兵隊たちはわからない。
要するに、『脛を叩こうとしている』と、わかっていない。
「ふっ!」
ハルカゼは足に魔力をまとわせると、一気に接近。
兵隊の一人の下に入り込んで、足の脛にダートコリドーを叩きつけた。
接触の瞬間、剣が光っているので、何らかの魔法を使ったらしい。
「がっ! いづううううっ!」
木の剣であるダートコリドーと言えど、全力で振れば衝撃はある。
兵士は倒れて、足を抑えた。
「さて、次は……」
顔を上げて、周囲の兵士を見る。
「な、何だお前は!」
「そんなことはどうでもいいんですよ! とりあえず、ぶっ叩いてやります!」
「ぐっ、わ、私は、ボルグニル王国軍に所属する兵士だぞ。その私の任務を邪魔するのか!」
「……シッ!」
ハルカゼは1秒くらい考えたが、よくわからなかったので突撃!
隊長の下に滑り込んで、そのまま、脛にダートコリドーを叩き込んだ。
「ぐあああああああああああっ!」
そのまま足を抑えながら悶絶する。
「次はお前たちですうううっ!」
槍を構えている兵士たちだが、ハルカゼの速度に全く追いつけない。
「ぐっ、な、なんだこいつぐあああああっ!」
「ぜ、全然見えな、いでええええええええっ!」
「ど、どうなってぎゃあああああああああっ!」
兵士であり、鎖を持ち出す以上は『捕縛任務』だと思われるが、一応は訓練を積んでいないと任されない任務だ。
それ相応に、武器を扱う訓練を受けた兵士が、脛をぶっ叩かれて悶絶している。
『やっぱハルカゼは強いわ。とはいえ、私が教えた魔力操作を全て習得してるし、平均でいえば、あの島のモンスターはこの大陸のモンスターよりも5倍は強い。これくらいできるわよねぇ』
クリファスは剣の中で余裕そうである。
彼女が語った通りだとするなら、機能、ハルカゼのパンツをくわえて森の中を走り回っていた3メートルの熊も、確かな強さを持つ……どころではないレベルのモンスターなのだ。
しかし、そんなモンスターが、全力で逃げるほど、ハルカゼは強い。
クリファス直伝というらしい魔力操作も、幼いながら全て習得している。
紛れもなく強者なのだ。
「さてと……で、あなたは誰ですか?」
「え、えっと……わ、私は、シリウス・ボルグニル。ボルグニル王国の第三王女ですわ」
「シリウスさんですね! 私はハルカゼと言います!」
立場がどうとか、ハルカゼにはわからない。
そのため、ただ、相手の名前を呼んで、自分も名乗る。
それだけである。
「それにしても……その魔道具。なんだか芸術品みたいでとても綺麗ですね」
ハルカゼはシリウスが手にする銃型の魔道具を見る。
先ほどは麻痺の弾丸を撃っていたようだが、他にもいろいろな弾丸が出るものだろう。
無駄のない洗練されたデザインであり、ただ使いこなすだけで、見栄えがある。
ただ、そう、ハルカゼは……『触れてはならないスイッチ』を、踏み抜いてしまったようだ。
「そうでしょう。いいこと、よく聞いてなさい。これはただの銃型魔道具ではありませんわ。魔道具闇市の一角、スタイリッシュマーケットの三大ブランドが一つ、『エーテリオン』社が誇る、リベリオンシリーズの最新モデル『ホワイト・リベリオン』! 見なさい、この無駄を一切排したストレートな銃身! 伝統的な貴族趣味の魔道具に見られる、あの無意味な宝玉や金細工などどこにもないでしょう? これこそがエーテリオンの哲学、『機能美』の真髄ですの!」
「きのーび……?」
「そう! 筋肉質なデザインで破壊力を誇示する『ジャガーノート』社とも、宝飾品のような装飾過多で魂の在り様を問う『ルミナス』社とも違う! エーテリオンは、『最高の性能を追求した結果、必然的に生まれる究極のシンプルさ』こそが至上の美だと考えているのですわ! このグリップを見てみなさい! 人間工学に基づき、コンマミリ単位で削り出されたこの完璧な曲線! 握った瞬間に、まるで自分の体の一部になったかのように馴染むでしょう!? これはただの『武器』ではなく、使い手と一体化する『デバイス』なのですわ!」
「で、でばいす!」
「ええ! しかもこのモデルは、前作で指摘された魔力伝達効率のロスを、新開発の『エーテルコンバーター3.0』を搭載することで15%も改善しているのですわ! これにより、同じ魔力量でも出力が格段に向上し、しかも反動は逆に軽減されている……! まさに技術的特異点!」
「は、はぁ……」
高速で語られるシリウスの説明に、一切ついていけないハルカゼ。
『なるほど……要するに、ガチのオタクというわけね。秋葉原で似たような奴を見たことがあるような……』
頬がすっごくひきつった様子で、クリファスは状況をまとめた。
少なくとも。
悶絶している兵士がいる横でする会話ではないのである。
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