第2話 島の外へ
「ん、んん……む? おはようございます!」
朝から元気な子である。
「っ!?」
グリフォンはびっくりした。
彼は『召喚された』わけで、ある程度の常識が知識として備わっているからこそ、人間に仕える存在としてここにいる。
ただ、『寝起きからこんなに元気』なのは、流石に知らない。
「こんなに気持ちのいい朝は久しぶりですね! グリフォンさんの体。モフモフです!」
「グルッ」
種族が『クラウドグリフォン』のためか、雲の要素として、体がモフモフなのだ。
翼もモフモフだが、しっかり飛ぶことも出来る。
布団くらいはあるだろうが、ここまでモフモフに特化した材質に触れるのは初めてだったようで、良い笑顔だ。
「起きたのね。ハルカゼ」
「むふふっ! クリファスさん! おはようございます! 今日の果物、取りに行ってきますね!」
「……待って」
「む?」
「ハルカゼ。重要な話があるの」
「重要な話……グリフォンさんがバナナは炙った方が好きということですか?」
「何が重要なんそれ……」
一発でキャラが壊れたクリファスである。
ただ、ハルカゼの顔は、とってもいい笑顔なのだ。
信じられないかもしれないが、これがハルカゼの『素』なのである。
今年で13歳になるハルカゼだが、ここまで面倒を見てきたクリファスとしてもなかなか信じられない。
というか、こんな日常系のギャグマンガに出てきそうなやつにどうして育ってしまったのか。
本当に意味が分からない。
「はぁ、重要ではあるけど、緊張感は置いておきましょう」
自分の心を守るためなのか。緊迫感とか緊張感は頭の中の『地平線あたり』に置いておくことにした。多分戻ってくることはないだろう。
「ハルカゼ。グリフォンの力があれば、この島の外に出ることができます」
「島の外ですか? むぅ、いろんな島があって、この島はその中の一つ。と聞いたことがありますね」
「その通り」
「メンチカツバーガーとかありますか?」
「それは知らん」
「えええっ!? ないんですか!?」
「これ以上話の腰を折ったら拳が飛ぶわよ?」
「ご、ごめんなさい! 真面目に聞きます!」
グリフォンが『ほんまか?』といった様子になっているが、おそらく五秒は大丈夫である。
「グリフォンの力を完全に引き出すことができれば、島の外に行って、別の大陸まで飛ぶことができる。そこには、美味しいものもたくさんあるわ」
「おおっ! それはすごいです! クリファスさんと一緒にいろんなものを食べるです!」
「……このままだとダメなの。私はこの大樹と一体化していて、離れることができないの」
「ええっ!? じゃあグリフォンさんが大樹を背負って飛べばいいんですね!」
「無茶いうな」
グリフォンというと、普通なら伝説の生き物だ。
それが現実に召喚できるというのは凄いことである。
が、いくら伝説の存在だからと言って、大樹を背負って飛べるわけがないのである。
「今から、私と大樹を、剣に変えるわ」
「ええっ!? そんなことしたら、クリファスさんのおっぱいが揉めなくなっちゃうですうううっ! そんなの嫌ですうううっ!」
「……ハルカゼは私の胸を何だと思ってるの?」
「G!」
「あっそ」
拳が飛ばないので、まだ、話の腰が折れている判定ではないようだ。かなり緩い判定基準である。
「剣を握っていれば、私と話すことも出来るわ。それに、剣を地面に突き刺すことで、周囲に図書館を出すことも出来る。そこに、私はずっといる」
「おおっ! それはすごいです! む? でもどうやって剣の形に? クリファスさんが頑張ってヨガでやるんですか?」
「そろそろ拳が飛ぶわよ」
「ごめんなさい!」
クリファスはため息をついた。
「この大樹の魔法よ。見ていなさい」
クリファスは指を鳴らす。
すると……大樹全体が光り始めた。
「おおっ! 光ってるですうううっ!」
魔力を普段から扱い、それを武器に纏わせることも多いハルカゼにとって、『人や木が光る』ことそのものは不思議ではない。
光り輝くと、その形がドンドン小さくなっていく。
「お、おお……」
数秒後、地面には、一本の『木の剣』を残して、大樹が消え去った。
「うおおっ! こんなダイエット初めて見たですうううっ!」
何がどうなるとそうなるのかよくわからん。
ハルカゼは剣の柄を握る。
『ハルカゼ。聞こえるかしら』
「おおっ! クリファスさんの声が聞こえるです!」
『これが、『無窮剣ダートコリドー』よ。地面に突き刺して』
「わかりました!」
ハルカゼは剣を地面に突き刺した。
すると、剣を中心に、周囲に図書館が形成される。
本が一冊のない図書館だが……奥のソファには、クリファスが座っている。
「すごいです!」
「フフッ、さてと……」
クリファスはソファから立ち上がると、一つの台に向かった。
「ハルカゼ。これを見て」
「む?」
「ここは展示エリア。十冊。本を置けるようになってるの。本来、魔導書の性能を引き出せるのはこの図書館の中だけ。でも、ここに置いている十冊は、図書館の外でも完全に性能を引き出すことができるの」
「おおっ……」
ハルカゼは、傍に置かれていた『クラウドグリフォンの魔導書』を、展示エリアに置いた。
すると、傍にいるグリフォンの体が、一瞬光った。
「これでフルパワーというわけですね!」
「そういうこと。これで、グリフォンは海を越えて、大陸まで飛ぶことができる」
「なるほど! ところで、なんで十冊なんですか?」
「魔導書には、十冊の、本当に『特別な魔導書』があるの。その全ての力を同時に引き出すという想定だから、十冊なのよ」
「なるほど! その特別な十冊を集めたら、美味しいものをたくさん食べられますか?」
「まぁ、食べれると思うわ」
「わっほほーい!」
「他の魔導書でも、美味しいものを食べるのに繋がるものもある。魔導書を集めて、図書館に入れて、美味しいものを食べる。それが可能になったの」
「なるほどです!」
喜ぶハルカゼを見て、クリファスは微笑んだ。
「あとは剣を抜けば、図書館をしまうことができる。グリフォンに乗って、別の大陸に行きましょう」
「わかりました!」
ハルカゼは剣を抜いた。
すると、図書館が消えていき、もとの景色になる。
ただ、ハルカゼ自身と、クラウドグリフォンはそのままだ。
「えーと……」
ハルカゼはダートコリドーを背負った。
黒曜石のナイフを、腰に装備。
そのまま、グリフォンに飛び乗った。
「よっしゃ! 別の島に出発です!」
グリフォンは翼を勢いよく羽ばたかせて、空を飛ぶ。
「うおおっ! すごいですうううっ!」
初めての経験に歓喜するハルカゼ。
そして、ふと、遠くなっていく地面を見て……。
「んー……むふふ~♪ いつか、美味しいものや魔導書をたくさん集めて、この島に帰ってきましょう!」
13年生きた土地から離れて、空高く。
「さあ、グリフォンさん。行きますよ!」
「グルッ!」
グリフォンは鳴くと、島から離れていく。
青い青い空を、駆けていく。
「うわあああああああああっ! すごい、すごいです! 海を越えた先にも、空が広がってるんですね! おおっ! もう、荒れてない海になってます! 海って静かなんですね。初めて見ました!」
感動に震えるハルカゼ。
13年、荒れた海が世界の端だった少女にとって、普通の海すらも新鮮だ。
そんな海を越えて、少女とグリフォンは、大陸を目指して飛び始めた。




