第10話 ハルカゼVSレッド・バイソン
「おっ! あれがレッド・バイソンです! まずは足に鈍器……じゃなくて木の剣を叩きつけて、転ばせてやるです!」
ガッキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインッ!
「いってええええええええっ! すんげぇ反動が手に返ってきたああああああああああああああっ! どうなってるんですかあああああああああっ!」
「……」
『……』
即オチ2コマ。とでもいうのだろうか。
異常事態になった。ということ以上に、なんだか疲れてきたシリウスとクリファスである。
「ハルカゼ。大丈夫ですの?」
「これが大丈夫に見えますか!? マジで鋼鉄ですよ! 鋼鉄!」
「レッド・バイソンの特徴ではありません。誰かが、何か企んでますわ」
『この魔力の感覚……鋼鉄の魔導書かしら。生物がそれを持つとなると……』
シリウスは『誰なのか』を推察して。
クリファスは『目の前の現象』を推察する。
「くっそおおっ! こうなったらやけくそです!」
そしてハルカゼは『半ギレ』である。
なんだろう。すごく平和。
『ただ、『融合の魔導書』の可能性が高いわ。あれには時間制限があるはず』
「ボッコボコにしてやるですうううっ!」
『……念話の魔導書が欲しくなってきたわ。剣の外にいるシリウスに声が聞こえないのが非常に不便』
難しい話。
そう、『敵が魔導書を使っている』という場合の話が、なかなか通じない。
魔導書が自然界に存在しないため、とにもかくにも『直感』で動くハルカゼ。
クリファスは剣の中にいて論理しか使えないため、非常に不便である。
「むきーっ! 硬いからって調子に乗りやがってです! こうなったら、私の『デッキ』の力、思い知らせてやります!」
ハルカゼは一度距離を取ると、展示エリアにセットした魔導書に意識を集中させる。
彼女が最初に選んだのは――。
「くらえ! 『ぬかるみの魔導書』です!」
ハルカゼがダートコリドーを地面に突き刺すと、レッド・バイソンの足元が、突如として粘度の高い泥沼に変わった。
「ブモッ!?」
鋼鉄と融合し、ただでさえ重くなっていたレッド・バイソン。
その巨体はズブズブと沈み込んだ。
ぬかるみにはまって、もがくだけになる。
「フフン! どうです! これでもう動けないでしょう!」
「なるほど、重量を逆手に取ったわけですわね。ですが、あの程度のぬかるみ、いずれ抜け出して……」
シリウスが分析するよりも早く、ハルカゼは次の手を打っていた。
「次はこれです! 『カカシの魔導書』!」
ハルカゼの目の前に、気の抜けるような顔をしたカカシがポンッと出現する。
そして、そのカカシはレッド・バイソンに向かって、非常に腹の立つ動きで腰を振って挑発し始めた。
「ブモオオオオオオオオッ!」
レッド・バイソンの知能は高くない。
目の前で自分をコケにするカカシに怒り心頭、完全にそちらへ注意が向いてしまったようだ。
ぬかるみの中でもがくようにして、カカシを角で突こうと暴れ始めた。
『……なるほど、挑発を取らせて、注意を逸らす囮にしたのね。合理的だわ。なんか納得できないけど』
クリファスの感心も束の間。
「とどめです! 『悪臭の魔導書』!」
『それいる!?』
クリファスのツッコミも虚しく、ぬかるみの中でもがくレッド・バイソンの周囲に、強烈な異臭が立ち込める。
くっせぇ!
赤い牛はそんな顔でもがいている。
「ブモ……ブモォ……?」
怒りと悪臭で、レッド・バイソンの思考は完全に混乱。ぬかるみの中で、意味もなく頭を振り始めた。
「……ハルカゼ。一体、何がしたいんですの……?」
「むふふ、これで準備は万端です! シリウスさん、よく見ててくださいね!」
ハルカゼは、黒曜石のナイフを逆手に持つと、悪臭の中をものともせずに突撃。
レッド・バイソンは、ぬかるみと混乱でハルカゼの接近に全く気付けない。
そして、ハルカゼは魔導書を発動させる。
「『肉切り包丁の魔導書』!」
ハルカゼが握る黒曜石のナイフが、淡い光を帯びる。それは、対象が『肉塊』であれば、切れるものと認識させ、あらゆる防御を無視して切断しやすくする、調理補助用の魔法。
「いっくですうううううっ!」
ハルカゼは、レッド・バイソンの鋼鉄の巨体に飛び乗ると、関節の僅かな隙間に、光るナイフを突き立てた!
ガキンッ! という硬い音ではなく、ズブリ、と肉を断つ生々しい音が響く。
「ブモアアアアアアアアアッ!?」
鋼鉄の防御力を無視され、急所である腱を断たれたレッド・バイソンは、悲鳴を上げてその場に崩れ落ちた。
「ふぅ……一件落着です!」
ナイフを抜き、満足げな表情で着地するハルカゼ。
「……」
「……」
その光景を見ていたシリウスと、剣の中にいるクリファスは、揃って言葉を失っていた。
ぬかるみで動きを封じ、カカシで注意を逸らし、悪臭で思考を奪い、最後は包丁の魔法で防御を無視して解体する。
一つ一つは地味で、戦闘用ですらない魔法。
しかし、それらを組み合わせることで、格上の敵を完封する、あまりにもえげつないコンボが完成していた。
『……この子、私が教えた以上に、戦いの本質を理解しているのかもしれないわね』
「……ハルカゼ。あなたのその戦術、あまりにも……渋すぎますわ」
呆然と呟くシリウスに、ハルカゼはにぱっと笑って答えた。
「むっは~♪ お肉は新鮮なうちに、綺麗に捌かないと美味しくないですからね!」
彼女の戦術の根幹にあるのは、いつだって「食」なのである。
そんなハルカゼが喜んでいるところに……奥から、オルベールがやってきた。
「フフッ、レッド・バイソンはまだ死んでいないが、時間の問題か。まさか、完封す――」
「む? 『めまいの魔導書』!」
「るとはおもわなあぁぁ……べっ!」
地面に顔面から倒れていった。




