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えっ、エルフの条件ですか?

作者: R884

私の耳は人よりちょっと長くて先が尖っている。お父さんもお母さんもこんな耳の形はしていないし、お爺ちゃんはどこか外国の人だってお父さん言ってたからその遺伝かな、お母さんにどうして私だけこんな耳をしてるのか聞いたことがあるけど、その時は笑って誤魔化された。


「何、その呆れたような笑い?どういうこと?」


まぁ、耳がとんがってるとは言え普段の生活にはこれといった支障はないのだが、小学生の時にクラスの男の子に「宇宙人」とからかわれた時は随分と腹を立てたものだ。

今思えばあの男の子は私のことが好きで気を引きたかっただけなのかもしれない、が、当時の私にとってはただのいじめっ子でしかない。

あ、思い出したらムカムカしてきた。


中学、高校に入学した時には私は自慢じゃないが容姿が良かったのでめちゃめちゃモテた、告白されたことも2度や3度ではない。


「ホホホ、そんなに簡単にOKするほど安い女ではなくてよ、出直してらっしゃい」


だが、お母さん譲りなのか、いつまで経っても胸はあまり大きくならないのが今一番の悩みだったりする。




そんな私が衝撃を受けたのは、高校2年のゴールデンウィーク、学校の女友達と一緒に映画を観に行った時だった。

壮大なファンタジー、映画館の大きなスクリーンに私と同じように長い尖った耳の美女が、弓を引きながら魔法を放ってバッタバッタと敵を倒していた。


「……」


天啓を得た気がした、私、実はエルフなんじゃなかろうか。


居ても立っても居られず、映画を観た帰りに駅近くの弓道具店に弓矢を買いに行った、日本で弓と言ったら弓道しか思いつかなかったのだ。

初めて弓を手に取る、結構長いな、それにお値段も結構…10万か、えっ、矢は別売り。その場でお父さんの会社に電話したら、なんか納得したように購入の許可をもらった?きっとお母さんじゃ、そんな無駄な物は買っちゃ駄目って怒られただろうな。


店主の叔父さんに調整してやるから試射してみるかと言われ、隣接した弓道場に案内された。

親切丁寧、アフターサービスも万全のお店だ、他にお客さんもいないから暇なのだろうか、超初心者の私にとっては助かるけど。




的に向かって弓を構えてみる、店主の叔父さんに経験者かと尋ねられたが、今日初めて弓を持ったと答えたらひどく驚かれた、それほど私の構えは様になっていたらしい。制服じゃなくジャージを着てくれば良かったな、ちょっと動きずらい。


「射ってみるかい?」


「いいんですか」


「いや、嬢ちゃんの射つ所を俺が観て見たくなったんだ、頼めるかい」


そう言ってジェラルミン製の矢を6本渡される。

へぇ、イーストン?この矢は軸がアメリカ製なんだ、竹矢は職人お手製だから高いのね。


「弓のつるは1.6もんめの麻弦でいいか、嬢ちゃんは結構背が高いから並寸よりは二寸伸でピッタリだったな」


なんか叔父さんが知らない呪文を唱え出す、日本語で話してください。店主の叔父さんがテキパキと勝手に弓を整えてくれる。

本当は初心者にはグラスファイバーやカーボンの弓の方が扱いやすいらしいが、私は竹製の弓が妙に手に馴染んだ。

やっぱりエルフには自然素材でしょ。


はずと呼ばれる矢の部分を弦に掛けて、ゆっくり弓を弾く、初めてな筈なのになぜかしっくりくる。

顔の横にある矢羽根が目に入る、それにしても、あの的って西友のお墨付きのマークよね?お買い得?


「ほぉ」


叔父さんが感心したような声を出す。


28メートル先の的を見つめる、風が見えた気がする、あぁ、これ絶対に当たるわ。

私の女の勘が囁く。

息を吐くように矢を摘んでいた右手の指の力を抜く。


パァーーーーーーーーーーーーーーーーン


「よし! いやいや、嬢ちゃん本当にはじめてかい?近的(28メートル)とは言えいきなり星かぁ!」(星:ど真ん中)


「……………」


感覚が残ってるうちに続けて2本目の矢を放つ。


パァーーーーーーーーーーーーーーーーン!! カシャン!


的に刺さった矢に、私の次に射った矢が中って矢が弾け飛ぶ。


ガタッ「継矢つぎやだと!!」


パァーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

パァーーーーーーーーーーーーーーーーン!!



「おいおい、信じられねぇな、4本的中、そくだと……。初めての奴なんざ、普通は残念だぞ」(残念:1本も中らない)



「……………」



ブルリと身体が震える、確信した、私、エルフの生まれ変わりだ。





この才能を無駄には出来ない、次の日には速攻で学校の弓道部に入部した、実力で主将になり全国大会では当然ダントツで優勝した。

県知事さんには褒められるし、TVや雑誌のインタビュー気持ちい!

私はその容姿からかエルフ斉藤などと売れないプロレスラーみたいなあだ名で呼ばれ、一躍時の人になった。

ふふふ、私の弓道衣に袴、白足袋姿にメロメロに惚れた男は世に数知れずよ。




おい!誰だ私に胸当ては必要ないだろうって言った奴、しばくぞ!前に出ろ!

















母:弓子は昔から気が強くて思い込みの激しい娘だったからねぇ〜

父:………。そ、それにしてもエルフ斉藤ってちょっと強そうでかっこいいな(汗)

母:いやですよ、そんなプロレスや芸人さんみたいな名前。せっかく美人に産んであげたのに残念だわ

おまけ









「お〜い、お袋いるか〜」


不用心にも鍵が掛かっていない玄関を勝手に開け家の中に足を踏み入れる。

物騒な世の中なんだから鍵くらいちゃんと掛けろと言ってるんだが、なかなか習慣付かない、困ったもんだ。

勝手知ったる実家の廊下を歩き台所のドアを開けた。


「おや?有流あるふ、珍しいね」


「いや、近くで仕事があったんでついでにね、ちょっと仏壇に線香あげさして」


「ありゃ、明日は雨かね」


お袋が天井を見上げて呟く、失礼な物言いだ。


「ただの気まぐれだよ」



チーーーン


仏壇の前でおりんを弾く。飾ってある3枚の写真に目を向ける。

俺が今の仕事についた頃に死んだ親父が妙に爽やかな笑顔をしている、その横には爺さんと婆さんの写真。

写真の中の爺さんと親父はとても若々しく耳は長く尖っている。


「やっぱり、弓子のやつは隔世遺伝ってやつかね」






線香をあげて居間に行くとお袋がいた。


「お父さんに挨拶は済んだかい?」


「ああ」


お袋がポットから急須にお湯を入れると、俺の前に湯呑みを置く。


有子ゆうこさんと弓子ゆみこちゃんは元気にしてるかね」


「二人ともすっげえ元気だよ、弓子なんてこの前いきなり弓道なんて始めちゃってさ」


「弓道?なんでまたそんなのを」


可愛い孫がいきなり弓なんぞやり始めりゃそうなる、今までそんなそぶりも無かったしな。


「なんか弓道部の顧問に天才って言われて、舞い上がってるわ」


「へぇ〜、そう言えばお父さんも射的が上手かったし、お養父んも狩が得意だって言ってたし、家系かね」


射的は違うんじゃないかと思ったが、的当てと言えば同じ部類か。


「いや、俺そういうの苦手なんだけど」


「あんたは小さい頃から本ばっか読んでて体育の成績悪かったからね」


親父は運動神経が良かったのか小学校の運動会では親のかけっこで6年連続で1位を取っていた、美男子だったし風のように速かったので他の母親や女子に大人気だったのを良く覚えている。

けど、最後はビルの工事現場から落ちてきた鉄骨に当たって死んでしまった、爺さんも崖から落ちて死んだと聞いてる、運は悪いのか?俺は大丈夫だよな?


「なぁ、親父と爺さんの耳が尖ってるのって…」


お袋がTVのリモコンをいじりながら口を開く。


「あぁ、お父さんにそのこと聞くと、なんか、え〜っとゲルマンだからドイツか、先祖がそっちの血を引いてるんだっていつも言ってたわ、私たちの結婚式でもアルヴさんってかっこいい外人さんも来たしね、ドイツの人は耳が尖ってる人多いのかね?」


「なるほど、ゲルマンにアールヴね」


「ん、なんかあったのかい」


俺が一人頷いてると、お袋が煎餅を齧りながら尋ねてくる。

まぁ、お袋も有子も細かいことは気にしないタイプだからな。


「いや別に、今度弓子が大きい大会に出るらしいんだ、時間がとれるようなら応援に来てやってよ」


「そりゃ凄いね、でも始めたばかりでもうそんな大きい大会に出れるのかい」


「俺も聞いたら、弓子のやつ、だって私天才だもんって言ってた、天狗になってるな、エルフのくせに…」


「ハハ、そりゃ弓子ちゃんらしいね、面白いじゃないか、是非行かせてもらうよ」



その全国大会で孫が1本も星 (ど真ん中)を外さないと言う、とんでもない成績で優勝するのだが、この時はまだ俺ももお袋も知る由もなかった。






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胸当て必要ありますよ。男じゃないんだから(笑)顔が良くて耳が尖っていて弓が上手くてエルフの・・・うん、ありですよ、あり!
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