赤の企み - side 赤薔薇家 -
ローザがカナリア達を迎える支度をする為、私は一度ローザ部屋を後にする事にした。
ローザへと背を向けた刹那、先程までの明朗さとは打って変わりその表情を厳しいものへと改め、父の執務室へと足早に向かった。
言うまでも無くその理由は、先程ローザが発した魔法にある。
「──ロジエいるか?」
「はい。ここに。」
カーマインのすぐ背後へと静かに現れたのは、清潔感のある短髪を整えた年の頃がカーマインに近い青年だった。
すらりと伸びた長い手足と鍛えられた騎士の様な体つきを執事服に包んだ彼は、ローゼンの息子ロジエである。
ロジエはカーマインより5歳年上で幼い頃からカーマインとは兄弟の様に育てられてきた。
現在は、将来当主となるカーマインを支えるべく日夜励んでいる。
「ローザの警護を増やす。今すぐにだ。」
「かしこまりました。すぐに。」
「不自然でない程度にな。行け。」
────────
「───お呼びでしょうか。」
父は私の問い掛けにこちらを一瞥すると、目線で合図し傍に控えていた側近達を全て下がらせた。
ただその場に立っているだけで、父から目に見えない圧力をビリビリと感じる。
これが、帝国内最強の武人ルージュ・オックスブラッドか。
然し、カーマインも負けじと平然とした表情を崩すことなく父と向き合う。弱みは決して悟らせない。
「──つい先程、一瞬ではあったが魔力の波動を感じた。私達の持つ物とは少し違う様だったが──お前、何か知っているか?」
「ヒーラースピアーです。もう駆除は終わっておりますのでご安心下さい。」
カーマインは父に1匹の蜂を取り出して見せた。
手のひらからはみ出るほどの大きさのそれは、虹色に輝く美しい蜂だった。
暫し部屋に落ちた沈黙と共にじっと蜂を凝視したのち、ひたりとこちらの眼差しを捉えられる。
「…そんな知らせは受けていないが?」
「─申し訳ありません。父上のお手を煩わせる程の事では無いと判断しまして、ご報告が遅れました。」
ヒーラースピアーはとても珍しく巨大な巣に1匹しかいない。
そのほかの個体はヒーラースピアーを守る為、巣の周囲で気性荒く警戒している事が常であり、また猛毒を持つ危険な存在として早急な対処が求められる。
──実は早朝、魔力を発動させてしまったローザを守る為、ヒーラースピアーを探しひとり森へ赴いたカーマインは見事見つけた。
そしてヒーラースピアーは勿論、巣を守る他の個体も全て駆除済みだ。
父へと虚偽の報告を済ませたカーマインは、その足で再びローザの元へと向かった。
「こんな小細工が父上に通用するとは思えないが、時間稼ぎにはなるといいんだが。……気付かれてしまうのも時間の問題だな。」
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カナリアとミモザが帰った後、兄は私に声を潜めて言った。
「あの力はとても不思議で、特別な物だから、人前で無闇に使ってはいけないよ。その存在が知られる事になれば、誰もが力を我が物にしようとするだろう。
……そうなればどうなると思う?」
「…よく分かりましたわお兄様。
私しっかりとお約束をまもります。」
「そうしてくれると私も安心だ。ありがとうローザ。」
カーマインとローザが密やかに兄妹の絆を深めている頃、すっかり陽が落ち暗くなった執務室ではオックスブラットが何やら不敵な笑みを浮かべていた。
「───アルジョンテ・ウィステリアミストを呼べ。」




