兄のために - side ローザ -
幼い頃から、兄はずっと私の憧れだった。
真面目な性格で自分に厳しく、人一倍頑張り屋さん。
それでいて優しく誠実だから、皆に慕われ尊敬されている。
兄のそんな姿は、子どもの私の目にもとても格好良くみえた。
そして兄は、何よりも家族を大切にしてくれた。
生まれたばかりの小さな弟の手を、それはそれは愛おしそうに柔く握る兄の姿を、今でもよく覚えている。
私が悩んでいたり困った事があった時には、必ず1番に気が付いて真摯に耳を傾けてくれた。
そういう時に兄は決まって、私を屋敷の裏手にひっそりと据えられたベンチに連れ出して、2人肩を並べて空を見上げながら時間の許す限りいつまでも話をして過ごした。
そうしているうちに、不思議と私の悩みなんてちっぽけなものだったのかもしれないと思えてくるのだ。
「ローザは花が大好きだから」と、何でもない日にも私を喜ばせようと綺麗な花を贈ってくれる兄。
寒い日には、「身体を冷やさないように」と、必ず自分の上着をかけてくれる兄。
ちょっぴり過保護で心配性だけど、それがくすぐったくて嬉しかった。
兄と居ると心から安心できた。
自然と笑顔になれた。
───大好きで大切な優しい私のお兄様。
けれどあの日の事故を境に、兄の中の何かが変わってしまった。
やるせなさの滲む表情を浮かべる事が多くなり、以前にもまして自分を厳しく追い詰める様になった。
──そしてそれが、私への罪悪感に囚われている所為なのだという事は、兄を見ていてすぐ分かった。
それがとても悲しくて、切ない。
きっと今の兄に私がいくら言葉を重ねたとしても、本当の意味で受け取ってはもらえないのだろう。
大好きな兄を救うのは、今度は私の番だから。
以前のように、兄の心からの笑顔が見たい。
何にも囚われないで、兄自身の人生を歩んでいってくれる様に。
そのために、今の私に出来ることを精一杯するんだ。




