第一章 ⑥
大広間の様に広いエントランスは円筒形で吹き抜けになっており、天井には壮大な天井画が描かれ、高い天井を更に高く奥行きのある華やかさを与えている。
(……それにしても滲み出る魔力のせいなのか?)
離れていても重圧を感じてしまうようなオーラを放つ赤薔薇の当主を前に思わずその場に立ちすくんでしまう。
(魔力を制御していてこれほどとは…カナリアは大丈夫だろうか。)
そう思い咄嗟に自分の横を歩くカナリアの方を横目に見ると、同じように当主のオーラを感じ取り圧倒されているようだった。
父はというと威圧感など微塵も感じていない様子で、その顔はいつも通りの余裕な笑みを浮かべていた。
(…さすがお父様だ。)
全ては、日々の鍛錬が強靭な肉体と精神を作り上げてゆくのだ。
気を持ち直し、遅れないよう父について僕らも前に進む。
「ようこそ、ジョーヌ殿。
本日はご足労いただき感謝する。変わらず壮健な様で何よりだ。」
「こちらこそ、本日はお招きいただき感謝いたします。ルージュ殿におかれましてもお変わりないようでなによりです。
カーマイン様も、お久しぶりです。
以前お会いした時は、半年程前でしたが少し見ない間にまた大きくなられましたね。」
「お久しぶりです、ジョーヌ様。
誠にありがとうございます。再びお会いできたこと嬉しく思います。」
「ジョーヌ殿、今日はもう1人娘を紹介させてくれ。
───来なさいローザ。」
赤薔薇の当主に名前を呼ばれたその少女は「はい。」と返事をすると、緊張しているのか伏し目がちに僕達の前に進み出ると美しい礼をした。
「はじめまして。ルージュ・ローザと申します。」
彼女が顔を上げた瞬間、僕は柄にもなく見惚れてしまった。
少し恥ずかしそうにしながらも凛とした佇まい。
花の様に可憐な少女の肌は抜ける様に白い。
ゆるやかに波打つ腰まで伸びた赤い髪。
熟れたイチゴの様に赤い瞳と赤い唇。
「──女神様みたいだわ…。」
思わず思った事が口に出てしまったのかと思い驚いて口に手を当てたが、そう言っていたのは僕ではなく隣にいるカナリアだった。
カナリアは、はっと我に帰ると慌てた様子で「申し訳ございません。」と頭を下げた。
「いやぁ〜申し訳ない。
うちのプリンセスはとても素直なのだ!
思わず、そちらの赤薔薇の姫君を見て女神がこの世に顕現されたのだと思ったのだろう。
神の前では皆素直になるものだからな。
すまないが、多めに見てやってくれ。」
父がふざけた様なフォローを入れると、赤薔薇の当主は慣れた様子で少し口角をあげると「良い、気にするな。」と言った。
その姿を見た僕は、ルージュ様は案外鷹揚な方なのかもしれないなと思った。
当主同士の応酬のおかげで場が落ち着いたところで、父が僕達に「さぁ、お前達も挨拶を。」と促すように言った。
「はじめまして。
黄薔薇家長男のジョーヌ・ミモザです。
先程の寛大なお言葉感謝いたします。
兄として僕からも謝罪いたします。申し訳ございませんでした。」
「黄薔薇家長女のジョーヌ・カナリアと申します。
先程の非礼、どうかお許しくださいませ。」
「気にするな。ジョーヌは我の良き友人だ。
ミモザ殿、カナリア嬢、娘と仲良くしてやってくれ。」
そう言われてカナリアの顔に安堵から笑顔が戻る。
「見ての通り、2人は双子なんだ。
ローザ嬢とは歳が同じだと聞いているよ。
どうぞ、仲良くしてやってね。」
そう言うと、黄薔薇の当主はローザににこっと微笑んだ。
「はい。ありがとうございます。
こちらこそ、よろしくお願い致します。」
「───さぁ、長旅でつかれているだろう。お茶でもいかがかな?」
「あぁいただこうかな。ありがとう。」
赤薔薇の当主のその一言を皮切りに、先程の執事がいつの間にか音もなく私達の前へ現れると、「こちらへどうぞ。」と広間へと案内してくれた。
テーブルへと置かれたカップとソーサーはシルバーと陶磁器を組み合わせた美しい作りで思わず胸が高まる。
しばらく、皆で穏やかに歓談しているとふと赤薔薇の当主に問いかけられた。
「ミモザ殿、我が家の自慢の赤薔薇はどうだったかな?」
(なぜ急に僕に話を振るんだろう、なにか意図があるのか…。)
「ええ、僕たちはいつも黄薔薇に囲まれて生活していますが、赤薔薇もとても美しく素敵ですね。特にアーチは圧巻でした。」
「─ふふ、そうか。気に入って貰えて良かった。
我が家で良ければどこへでも案内しよう。ゆっくりしていってくれ。」
「ありがとうございます。─あの…どこでもよろしいのでしたら僕、見てみたい場所があるのです。」
「ほぅ、どこだい?」
「あ、あのっ赤薔薇家に代々伝わると言われる、絶炎(絶えない炎)を…拝見してみたいです。」
当主は一瞬驚いた顔をした気がした。
やっぱりダメだったか?だけどせっかくのチャンスだ…!僕は一心に当主の目を見つめた。
すると、当主はすっと立ち上がると「ジョーヌ。」と声をかけた。
あぁ、ダメだったか。と僕は肩を落とした。
「──…ミモザ殿、君くらいの歳の子に絶炎をみたいなんて言われるとは思わず驚いたが、嬉しいよ。
我が家の宝なんだ。ゆっくり見ていってくれ。
カーマイン、案内は任せる。絶炎へ案内してさしあげなさい。
──では、私達はそろそろ失礼するよ。さぁジョーヌ、ここからは大人の時間だ。」
「ちょっと言い方っ!!お仕事でしょ!
それじゃあミモザ、カナリア、カーマイン殿にご迷惑おかけしない様にね、お利口さんにするんだよ!」
(…おりこうさん。)
「「はーい。」」
そう言うと、父達はマントを翻し共に去って行っていった。




