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ここは、ハラリドウッド王国。
今日は、朝から氷点下まで気温が下がり、しんしんと雪が降っている。雪の精たちは大忙しで、順番に、天空から飛び立ち、地上へと、我が身を舞い立たせる。
雪の精たちは、地上に降りたつと、溶けてなくなってしまう。しかし、天空にいる雪の女王が、溶けた雪の精を蘇らせる。
天に戻ってきた雪の精は、雪が降り続ける限り、天から地へと、何度も舞い降りなければいけない。
雪の精であるメアリーが、天空から2回目のジャンプをして降り立った。
メアリーは、雪の精になり1億年あまりたつが、雪の精の仕事が好きだった。空に舞い、雪の粉たちがキラキラと輝く美しさを見るのが最高の幸せだった。
「こんなに寒いのだから、今日は3回は舞い散れるわ。嬉しい!」
メアリーは、浮き浮きしながら、下界に広がる地上に向かって呟いた。
上空から下界を見下ろすのも、絶景であった。雪の精は視力が150~200ある。上空にいても、人間たちの動きがよくわかるのだ。
人間たちの暮らしぶりを見るたびに、なぜあんなことで怒っているのか、なぜあんなに急いで生きないといけないか、メアリーにとっては、不思議でしょうがない。
「絶対に人間だけには、なりたくないわ」
メアリーは、人間が喧嘩をしたり、罵り合ったりするのを見るたびに、そう呟いた。
雪の精にとって、地上までの道のりは長い旅であり、メアリーのように、呟き癖をもつ妖精が多かった。
しかし、メアリーの見立ては甘かった。メアリーは、このすぐ直後に、人間に恋をしてしまい、人間へと転生することを選んでしまうのだ。
それは、もう少しで地上に降り立つ頃だった。メアリーは、ちょうど、ハラリドウッドの城の周囲に降りていきそうだった。
そのとき、メアリーには、火の精が目に入り込んできた。
「城で、火の精が暴れている!しかも、かなりの数だわ」
雪の精にとって、火の精は天敵だった。火の力か雪の力か、どちらか弱いほうが消えてしまう。
火の精によって消されてしまうと、雪の女王の力でも、蘇ることができなくなる。
コックの火の不始末から出火したようだった。料理場からの火事が次々に燃え立ち、城の半分を焼いていた。
城にいる人々は、逃げるばかりで消化にまわる人数が足りていなかった。
「やだ!やめて!このままでは、火に消されてしまう」
メアリーは、目を閉じて、自分が消滅してしまうことを意識した。
そのとき、国の王子である、ウィリアムが、戦車を動かして、大量の水を吹きかけた。火は途端に消えていき、煙がたち、焦げた臭いが広がっていく。
メアリーが目を開けたとき、丁度、消化された跡地に降りる瞬間だった。
「私、生きてる!消えてない!」
メアリーは、歓喜で身震いした。地上に降りたとき、瞬間的にウィリアム王子が目に入ってきた。金色の髪と青い目の、イケメン王子だった。
メアリーは、ウィリアム王子に助けられたことを知り、イケメン顔に、一瞬で恋に堕ちてしまうのだった。
メアリーが溶けて、天空に戻ると、雪の女王に、雪の精に戻るより、人間になりたいと要望をだした。
「メアリー、あなたは何億年もかけて雪の精に転生できたのに、ここでまた人間に戻ってしまったら、また抜け出すのが大変ですよ」
雪の女王は、困惑しながらメアリーを説得したが、メアリーは要望を変えなかった。
雪の女王は、渋々とだが、メアリーの要望を叶えてあげた。
雪の女王は、メアリーの頭に、氷のステッキを振り下ろした。
すると、ステッキから氷の粒が出て、メアリーの魂を包み込んだ。まばゆい光が放たれると、メアリーの魂は、下界へとおりていってしまう。
「ああ、どうか、メアリーの恋が叶うように」
雪の女王は、嘆願するように言い、メアリーの魂を見送った。