【第2話 「自称、愛の追跡者。他称、ストーカー」】
【第二話 「自称、愛の追跡者。他称、ストーカー」】
放課後の教室。
俺たち帰宅部にとっての教会。
日曜日ミサのため教会に通う熱心なキリスト教徒のごとく、俺たちは毎日こうして放課後の教室で駄弁っているのだ。
それが青春の象徴の一つである部活動に背を向けた我々「帰宅部」の生き方というものだ。
「それで昨日の午後6時13分頃に、更衣室を出て来た榊原さんをたまたま見掛けてね。
少し辺りも暗くなってきていたし、女の夜道は物騒だと思って一緒に帰ろうと思ったわけよ。
だけど、面識がある訳でもないから一緒に並んで帰ろうとは言えない訳じゃん?
だから俺は気を遣って、榊原さんの後方20メートルの位置をキープしてバレないように一緒に下校したんだよ。
それでさ。ふと、榊原さんが黒ずんできた夕空を見上げるのよ。
俺も釣られて、同じ方向を見上げると夕月が薄っすらと空に浮かんでいてさ。
ああ、今。俺たちは同じ風景を見ているんだなーと思うと少し感傷的な気持ちになっちまったよ。
それから榊原さんが6時20分頃に駅に着いたのを確認して、そのまま電車が来るのを待ったんだけど、昨日事故があったみたいで電車の到着時間が随分と遅れたんだよなぁ。
あまりにも時間が掛かるからって、榊原さんが家に連絡入れて迎えに来てもらうって話になったみたいで––––––
いやいや、盗聴器なんて無粋な道具使ってないよ?
ほら、毎日見てるんだよ?
それくらいのこと雰囲気で察せられるよ。
まあ、榊原さんのお兄さんはあの時刻だと家に帰ってきているから30分もあれば車で迎えに来れる距離だから大事ないだろうと思ったんだけど、やっぱり見守るなら最後までかと思ってさ。
俺も30分ほど、駅のホームの隅っこで迎えの車が来るのを待ったよ。
だけど、恐らく信号機運が悪い日だったんだろうね。
お義兄さんが来るのが、平生より五分ほど遅れたんだよね。
辺りも大分暗くなってき、榊原さんも無表情ながら少し寂しい感じの空気を纏い始めて。
それはそれで良いんだけど、やっぱり同じ夕空を見上げている時も思ったけど、「守りたい、この笑顔」って感じの守ってあげたくなるタイプの美少女なんだよなぁ。
ああ、それで結局は平均時間より6分24秒遅れてお義兄さんが来たんだけど––––––」
「もう止めてくれ!」
俺はとうとう意を決して、口早に捲し立て続ける小林義経の話を遮った。
「どうしたん? 急に興奮して・・・・・・。」
「どうかしてるのは、お前の方だろ!?
もうどこから突っ込んで良いのか分からないレベルでおかしいだろ!
そもそも勝手に女子の後ろを付いて歩いている時点で完全なストーカーだし、それに分刻みであった出来事を記憶しているのも気持ち悪いわ!
あと何で、友達でもない同級生女子の家の位置や通学路ルート、家族構成その他諸々の情報をそこまで細かく知ってるんだよ!?
私立探偵でも雇ったのか?
それに、あれだよ。
分刻みで記録取って、そのメモなりストーカー日記を見ながら話すならともかく・・・・・・なんで空でスラスラと暗唱できるんだよ。
俺の人生で今まで見聞きした中で最高に気持ち悪いわ!」
「どうしたんだ、急に。
躁うつ病でも発症したか?」
「急に、じゃねーよ!
こっちは毎日毎日、お前の恋バナ(?)聞かされて頭おかしくなりそうなんだよ!」
「そうか。すまんな。
どうすればいい?」
「金輪際、もうお前は恋バナするな!
それと早めに腕利きの弁護士を探しておけ。
ついでに刑法の勉強もしておいた方が良い。」
とうとう堪忍袋の緒が切れたが、それなりの付き合いの友人だ。
なんだかんだ言って悪いヤツではないのは知っている。
榊原巴が絡まなければ、そこそこマトモなヤツなんだがな。
「というか、そこまで好きならなんで告白しないんだよ・・・・・・?」
最後にふと前から思っていた疑問を溢したら、今世紀最大レベルの予想外の返事が返ってきた。
「いや、だから。昨日から榊原さんと付き合い始めたから、その報告を今しようとしていたんだけど・・・・・・。」
「・・・・・・は? ・・・・・・・・・・・・はぁ!?」
「そんなに俺の恋愛話が嫌ならもう言わないよ。
すまなかったな。」
「おい、ちょっと待って! やっぱり詳しく聞かせろ!
なんでそこから女の子と恋人になれるんだ!?」
榊原さんの一体どんな弱みを握ったのか気になって、俺は前のめりになって小林に問い正した。
嘘だろ? まさか、こいつの方が先に彼女できるなんて・・・・・・!?