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5 クレープを売りたい!

今回の話で主要人物のシーン二人追加しました。

 わたしの作ったお菓子を売る店が完成した。

 金さえあれば店を作るなんてすぐにでもできる。


 居抜きという方法。

 つまりは前に入っていた店が立ち行かなくなってしまった場合にその店の内装をそのまま使い店を作ってしまうやり方だ。


 この方法を使えば本来数週間から一か月くらいかかる店の開店が一週間以内に可能。

 内装さえ整えれば、数日で店を開ける。


 そして一週間でわたしの店が完成した。

 さて、このお菓子に何て名前を付けようか……。

 薄いパン巻きなんて名前だと貧乏臭くて売れなそうだし、だからとフワフワミルク巻きだとどんな食べ物なのか想像がつかない。


「お姉ちゃん、この薄いパン、まるで綺麗な服の布みたいだね」

「こら、出しゃばらないのっ」


 服の布……これに近いのは絹か。

 確か絹のことを古い言葉でクレープと言ったはず……。

 そうだ、このお菓子のことをクレープと名付けよう!


「坊や、ありがとう。おかげで良い名前思いついたわっ」

「え?」

「クレープ。そう……このお菓子の名前を古い言葉で絹を意味するクレープと付けてみてはいかがかしら?」

「綺麗で美味しそう!」

「お嬢様、素晴らしいセンスです‼」


 お菓子の名前が決まった。

 このクレープをメインにレモンパイや揚げパフにフワフワの牛乳を入れたお菓子を合わせて開店よ!


 わたしはお菓子屋の準備を済ませ、小袋を商人の男に大量に作らせた。


「お嬢様、コレで本当に売れるんですか?」

「大丈夫よ、私を信じなさい。わたしは……未来が見えるのよ」


 これは嘘ではない。

 実際、この後の時代を知っているわたしは、破滅に向かうこの国の未来を変える為に再び戻ってきたのだから。

 その手始めにやるべきなのは、庶民の食生活を取り返す事。

 砂糖をはじめとする食事の材料不足は庶民の家計を圧迫し、困窮者を大量に生み出していた。


 それを解消する一環として、わたしはこの店でお菓子を買った人にはサービスで一袋の砂糖を銀貨一枚で売ってあげることにした。


 これは慈善事業ではなく、砂糖の値段を意図的に跳ね上げた聖女教の手下を破滅させるためだ。

 アイツらは意図的に砂糖を値上げさせ、庶民から金を巻き上げた。

 その砂糖を全てわたしが買い占め、お菓子を売るおまけのサービスとして適正価格で砂糖を売ることで高騰化した市場を完全破壊する!


 例えそれで貴族や聖女教に恨まれようと、わたしは伯爵の娘なので誰も文句を言えないのよ。


「さあ、明日から開店よ。みんな、頑張ってね」

「「「はい、お嬢様!」」」



 次の日、わたしの店には開店直後から凄い行列ができていた。

 王都中の人が全員並んでいるのか? というくらいに出来た長蛇の列は……何時間経っても絶える気配を見せなかった。


「あら、想像以上に集まってしまったみたいね」

「どうするんですか! お嬢様、これでは店が持ちませんよ!」


 仕方なくわたしは周りの店の人達に一日金貨一枚の賃金で足りないスタッフを確保した。

 お菓子を買った人には砂糖一袋を銀貨一枚で売ってあげるサービスは大好評で、ものの一時間もせず、用意したお菓子と砂糖の大半が終わってしまった。


「オウ、誰に断ってここで商売してやがるっ!?」

「誰ですか? アナタ達は?」


 店が繁盛すると、そこに質の悪いごろつきが姿を見せた。


「困るんだよねぇ。ここで勝手に商売をされたら。誰の許可を得てここで商売してんだよ!

「わたしよ、文句があるならいつでも相手になるわ」

「あぁ!? てめえ誰だよ!」

「あら、申し遅れました。わたしはレルリルムと申します。ドリンコート伯爵の娘ですわ」

「伯爵……だと!?」


 あのクズな父親でも、名前を使わせてもらうにはちょうど良かったみたい。

 この連中は間違いなく貴族か聖女教が雇って営業妨害をさせようとしたチンピラだ。

 でもわたしが伯爵の娘だと聞いたら、途端に態度を変えてきた。


「お、お嬢サマ? こ、困るんですよねぇ、勝手に商売をやられては」

「あら? この国では店を出してはいけない決まりなんてあるのかしら? 営業許可証はきちんとここに在りますわよ」

「……くそっ、覚えていろっ‼」


 チンピラは尻尾を丸めて逃げ出した。

 お菓子を買うために行列を作っていた人達は、その光景を見て歓声を上げていた。



 チンピラたちは依頼主の依頼を実行できずに街の裏でイラついていた。


「くそっ、むかつくぜあの女! ヒイヒイ泣かせてやりたいぜ」

「どうすんだよ、おれ達このままじゃ依頼失敗で消されるぞ」

「ムカつくなァ、誰でもいいからボコってやろうぜ!」


 そんなチンピラが見つけたのは白いボロボロの獣人だった。


「お、ケモノだぜ、アイツをオモチャにして遊んでやろうぜ!」

「ガルルッルルル……」

「おらよぉ! ここは人間サマの国だぜ、獣人は黙ってボコられてろよ」


 ズガッ! ボスッ! ベギィッ‼


 獣人に襲いかかった三人組は……あっという間に返り討ちにあっていた。


「ひ、ひいいぃい!」

「ガルルルルル……」


 獣人の少年は首輪をつけられたままチンピラ三人を血祭りにし、白い毛皮に返り血を浴びていた。


「貴様! こんな所にいたのか‼ この奴隷が、人間様に逆らうとこうなるんだ!」

「ガァアアアアアッ‼」


 獣人の少年は首輪から流された薬によって、動けなくなりその場に倒れた。


「手こずらせやがって、人間様に逆らうからこうなるんだ!」


 気絶した獣人の少年は男に連れされて行かれた。

 だがレルリルムはこの時、追い払ったチンピラや獣人の少年とのそんなやり取りがあった事なんて全く知らなかった。



わたしが用意したクレープというお菓子はお昼前にはほとんどが売り切れた。

 でも行列は絶える気配が無く、わたしは更に材料を追加で持ってくるように命令した。

そして午後の商売の準備をしていた時、誰かが私の前に現れた。


「はじめまして、お嬢様。ワシはサウカラ男爵と申す者です、どうぞお見知り置きを」

「御機嫌よう。サウカラ男爵様。それで、どのようなご用件でしょうか?」


 コイツが来た理由なんて本当は分かっている。

 コイツはわたしに砂糖の意図的な値下げをやめろと言いに来たのだ。


「お嬢様は商才があるようですね、一日でこれだけの客を集めるなんて。ですが……商売にはタブーが存在することはご存じ無いようですね。ワシがここに来たのは不正な商売をやめてもらいたいからなのです」

「あら? 不正なんてしていませんわ。わたしの何が不正だというのですか?」


 サウカラ男爵は平常を保った表情で私にニコニコと話しかけてきた。

 だがその目が笑っていないのは一目見ればわかる。


「砂糖を意図的に安くされてしまっては、ワシらの適正価格での商売が成り立たなくなるんですわ。お嬢様のお菓子作りをとやかく言う気はありませんが、砂糖を安く売るのをやめてもらえませんか?」


 やはりその話だったか。

 貴族や聖女教が意図的に砂糖の値段を釣り上げて、庶民に買えないようにしているのをわたしは知っている。

 知った上でわたしがしているのが、お菓子屋の本当の目的で、砂糖を格安で売ってヤツらにとっての適正価格を破壊してやることだ。


「あら、わたしは砂糖を売っているのではありませんわ。わたしはお菓子を買ってくれたお客様がリピーターになってくれるようにサービスとして砂糖をおまけに付けてあげているのですわ。サービスのおまけだから本当はタダでも良かったのですけど……まあ、撒き餌として使っただけのことですわ……それが、違法だと言うのかしら?」

「い……いえ、違法ではありませんが……貴族間の取り決めというものがございまして……」


 ようはせっかく砂糖を売る利権を与えられているのに、それを潰されたらサウカラ男爵の立ち位置が無くなると言いたいのだろう。


「非合法でないなら、わたしはやめませんわよ」

「ふざけるな! こんな商売していて、聖女教が黙っていると思うのかっ!」

「あら? 聖女教が何かを言っていると? わたしは敬虔な信者で多額の寄付をして差し上げているのですわ、今回の売り上げの一部も寄付としてお渡しするのはもう司教様も了承済みですわ。それに港町の維持費の一部もわたし、ドリンコート伯爵家が受け持つと言えば喜んでお話を聞いてくださいましたわ」


 それを聞いたサウカラ男爵の顔が青ざめた。


「それとも……もしや、アナタ、意図的に異国から来た砂糖を積んだ船が沈むように寄港させない取り決めでも聖女教の司祭様としているのかしら? まさか……ね」

「そ、そんなわけがあるわけなかろうっ! 不愉快だ、ワシは帰るぞっ!」


 サウカラ男爵は尻尾を丸めて逃げ出した。

 お菓子を買う行列に並んでいた人達が彼の逃げ帰るさまを見て大歓声を上げていた。


「へえ、あのお嬢さん……なかなかやるもんだね」


 あれ? どこかで聞いたような声が聞こえたような気が……でも思い出せない、まあいいか。

でもよかった、わたしのやった事は人の為になったのね……。


 その後、わたしのお菓子屋は大繁盛し……いつしか国一番の名店と呼ばれるようになった。


 そして、わたしの本来の目的であった砂糖の値下げは……聖女教へのドリンコート家からの寄付で外国船が確実に港に入れるようになった事で、庶民でも砂糖が買える金額に戻すのに成功した。

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