42 悪徳貴族を倒したい!
ギュスターヴはエルンスト・グローヴス元帥の命令で隣国との紛争地域に送られると話をしていた。
冗談じゃないわ!
その時の代表は彼ではなくテオドール副団長だったが、グローヴス元帥は彼の部下に命じ、商人ギルドに作らせた最低最悪の兵器、魔導爆弾を用意させていた。
この魔導爆弾、スティムスンとグローヴス元帥とオッペンハイマーの三人が聖女教枢機卿フランクリンの計画によって作らされた物だったが、私の前の人生での工業ギルドの大火災はこの魔導爆弾作成の証拠隠滅が本当の原因だったという風にも一部で言われていた。
魔導爆弾、これは辺りの全てを吹き飛ばし、敵味方関係なく滅ぼす悪魔の兵器だった。
グローヴス元帥はその魔導爆弾使用の報告をボールコートで聞いて喜んでいたという……。
この戦いとも言えない惨劇は、国を失い、奴隷にされる前に逃げ出した獣人達のいくつかの隠れ集落を跡形もなく吹き飛ばした。
それこそが、獣人達が私の国に対し反旗を翻した決定的な引き金になったのだ。
どうやら邪魔者になったギュスターヴに、グローヴス元帥はその魔導爆弾を押し付けて亡き者にしようとしている!
そんなの絶対やらせないわよっ!
「ギュスターヴ、貴方は前線に行かないわ。私の傍で護衛するのよ。いいかしら!」
「レルリルム様……」
「その辞令ってのが出るのはいつ? その前に私が却下しますから!」
「残り一か月……と言われました」
「ギュスターヴ、これから忙しくなるわ!」
期限は一か月、それならそれまでに結婚式を決行してしまえば私が実質的に王妃になりこの国のナンバー2になる。
そうできればギュスターヴを王妃権限で配置換えとして現在のテオドール将軍の立場にする事が出来る。
そしてテオドール将軍には新たに作る軍学校の初代校長という地位を与えれば実質的にも肩書的にもグローヴス派を上回る最大派閥が作れる。
そして軍学校の兵士には獣人や冒険者達も入ってもらい、人種解放宣言を私が結婚式で出す!
これで悪徳貴族やフランクリン達聖女教を有名無実化する事が可能。
そうすればあの最悪兵器、魔導爆弾を使う事も無く、この国の軍部を私が掌握出来る!
軍部さえ掌握出来れば、悪徳貴族等は無力な少数派でしかない。
そして私の実行する結婚パレードの演出を見た人達は全てが私達に賛同し、参加するだろう。
私の考えた演出は、天領から始まり、最初に大きな竿にかけられた大きな帽子を火の付いた矢で射抜く!
そして燃えた帽子と竿を兵士達が踏みつぶしそのまま歩き、歩いた後に麦の穂が生えていくように演出する。これが天領での移動。
その後はドリンコート領に着き、そこで全身をミスリル武器で装備した冒険者達が合流、そこからモンスターのいる道を切り開き、冒険者達の強さを見せる。
移動途中で工業ギルドの工員達も合流。
普段着で堂々とパレードに参加する事で、このパレードが誰でも参加できるものだとアピール。ここで村人等も参加。
その後は旧バートン子爵領で獣人達と合流。
その場所で鉱山を通り、人と獣人が手を取り合えるとアピールし、聖女教を否定。
最後はレオ・レオニ村に到着し、そこで全員が赤い衣装に着替える。そこで私は黒い衣装に着替え、巨大な魚に見立てた大軍勢で王都を目指す。
そして巨大で赤い目玉の黒い魚をイメージした私達は王宮に入り、王宮で派手に色とりどりの炎を燃やしてパレードは完了!
完璧よ。
これなら道さえ広げる事が出来れば、すぐにでも実行可能な演出。
三週間もかからないで完了するわ。
そして王子は私が眠らせ続けておくことで全く何もせず眠りこけているダメ王子を国民にまざまざと見せつける事になり、国中に恥をかく。
私はこんなもの恥とも何とも思わないので、手段は選ばないわ。
さあ、それじゃあレオ・レオニ村に戻りましょう。
その前にテオドール将軍を説得しておかないと。
私はギュスターヴを引き連れ、彼の家に向かった。
「おや、未来の王妃様。これはこれは、よくぞお越しくださいました」
テオドール将軍は共和派と呼ばれる元フーバー大司教の派閥に所属していた為、軍では副団長でしかなく、民主派と呼ばれるフランクリン派閥のグローヴス元帥に騎士団をいいようにされていた。
「テオドール将軍閣下、実は貴方にお願いがあります。聞いて頂けますでしょうか?」
「レルリルム様、儂に頼みとは、一体どのような事でございますか?」
「実は、私は貴方のご子息のギュスターヴを次の騎士団副団長に任命したいと思っております」
「ふむ、それでは儂はクビという事ですかな?」
テオドール将軍は鋭い視線で私を見つめていた。
「いいえ、違いますわ。テオドール将軍閣下には是非ともやって頂きたい事がございます」
「ほう、引退を勧告されたこの老骨に何を望みますかな?」
テオドール将軍は少し不機嫌そうだ。
まあ息子に地位を譲って引退しろと言われれば、そうもなるだろう。
「テオドール将軍閣下には、新たに設立する軍学校の初代校長に任命していただきたく思っております」
「ほう、軍学校とな。それはどのようなものかと」
「はい、軍学校とは騎士だけでなく傭兵や獣人達も我が国の軍人として育て上げる王立の学校です。年齢、身分といった制限はありません。戦える自信があり、国に命をささげる事が出来るなら入学資格は問いません。勿論衣食住は全て国が提供致します」
この話を聞いたテオドール将軍は髭を触りながらニヤリとした。
「ほう、それは面白い。それで、その軍学校の矜持は何かな?」
「民族共和、法の下の平等、そして強さですわ。誰でも国を思う気持ちがあれば国民として軍人になれる。この国を愛する心を育てる事が出来る。それこそがこの軍学校の存在意義になります」
一瞬目を閉じたテオドール将軍が、椅子から立ち上がった。
そして剣を引き抜き、レルリルムの上方に向け、剣を掲げた。
「まさか今になってフーバーと同じ事を言う人物に会えるとは思っていなかった……。民族共和、彼の理想を掲げようとして儂は粉骨砕身努力したが……理想は叶わなかった。レルリルム様、あのフランクリン相手にそれを成し遂げる自信はお有りでしょうか?」
テオドール将軍は私の話を真摯に受け止めた。だから私もそれに対して返答した。
「勿論ですわ。私は子供の頃に孤児院を訪ねたジュリアス王子を平手で打ちました。彼がいじめをしていたからそれを注意したのです。その後彼は心を入れ替え、立派な王になるように努力しておられました」
「話の流れがイマイチ繋がってるようには思えんが、ジュリアス殿下は儂も期待しておった。惜しい人物を亡くしたものだ」
「彼は生きておられます。今はレオ・レオニ村で革命を起こす為の下準備をしていますわ」
この話を聞いたテオドール将軍は眼を大きく見開いた!
「なんと! 殿下が生きておられると!?」
「はい。私はこの国の一部の人間だけが肥え太り、その他大勢が苦しめられている現状を救いたいのです。その為には強さが必要です。力無き正義は無力に過ぎません。だからこそジュリアス王子に立ち上がってもらう為、私は兵力を貯えたいのです」
テオドール将軍が跪き、私の手に口づけをした。
「不肖、この老骨……王妃様、ならびにジュリアス殿下の理想の為、力となりましょう。軍学校校長の任、しかと拝命致しました」
テオドール将軍が私の説得に応じ、軍学校校長を引き受けてくれた。
これで彼が前線に出る事も無くなり、あの魔道爆弾を使う流れは断ち切る事が出来る!
後は結婚式の準備よ。
もうこちらで全て準備を済ませてしまい、あのバカ達が、予算が無い時間が無いと言っている間に実質もう変更不可能な状態まで持って行く。
期限は後二週間少しといったところ、さあ、頑張らないと。
「ギュスターヴ。貴公、幸運だと思え。理想を掲げても力を持たなければ実現は出来ない。だが、このレルリルム様はそれを実現するだけの実行力と頭がある。そんな主に仕える事が出来る騎士はこの国だけではなく、世界中探してもそうはあるまい」
「はい、父上。俺は一生涯を賭けてレルリルム様に変わらぬ忠誠を誓います!」
「頼んだぞ、ギュスターヴ新副団長よ……」
私はギュスターヴとテオドールという、この国最強の騎士の親子を完全に配下に収めた。
これで聖女教や悪徳貴族に対して戦いを挑む事が出来る下準備が出来た。
さあ、後は結婚式の準備と軍学校の新規設立が目下の目標よ。
軍学校の建物は……そうね、今は使われていない王立美術館跡地の建物を使えばいいかしら。
さあ、ますます忙しくなるわ!




