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41 大きな道が欲しい!

 ギュスターヴと二人で王都に戻った私は、王宮に入った。


「これはこれは未来の王妃様、こんな大事な時に花婿を置いてどこにお出かけですかな?」

「御機嫌よう、フランクリン枢機卿猊下」


『フランクリン・デラン枢機卿』


 この国の諸悪の根源とも言える人物だ。

 現在の聖女教における最高顧問。

 つまりは王とも匹敵する地位の持ち主という事になる。


 車椅子でないと動けず、いつも顔色の悪い彼は滅多に出歩かない。

 その彼がこの王宮に来ているのは何故だろうか?


「私はレオ・レオニ村を視察してきました。今後のこの国の為です」

「おやおや、それは国王陛下のご機嫌取りよりも重要な事なのですかな?」


 この言い方、女は男のいう事に従っておけばいいという考え丸出しだ。


 この国の腐敗の根源とも言えるのがこの聖女教だと言える。

 フランクリンという男は、人種差別主義者で拝金主義のくせに外面のパフォーマンスだけは上手い俗物だ。


『ゴンクラーベ』


 聖女教の枢機卿を決める選挙で彼はライバルだった人種平等派のフーバー大司教と争い、本来なら負けると言われていた。

 フーバー大司教は鉱山開発を進め、この国の財政を立て直すべきだと主張、――だが、隣国との戦争が起こり、内政重視政策を主張したフーバー大司教は失脚。

 その後にフランクリンが大司教から枢機卿に就任した。


 奇しくもその鉱山とは、私の父ドリンコート伯爵がバートン子爵に売り、現在は横領の冤罪で国庫として没収されたあの金山である。

 フーバー大司教の政策は回り回って私の手元に戻ってきたのである。


 今考えるとその戦争も仕組まれたもので、フーバー大司教を陥れる為だったのではないだろうか。

 今やフーバー大司教は引退後病死してしまったので本人に聞くのは不可能だ。


 前の人生ではやたらと私におべっかを使い、もてはやしていたイエスマンが私の目の前にいるフランクリン枢機卿だった。

 だが今の私に向ける目は明らかに敵対の目だ。


「そうそう、王妃候補の後ろにいる金魚のフン。エルンストが呼んでおったぞ。すぐに行くがよい」

「グローヴス元帥が、承知いたしました……」


 ギュスターヴを私の金魚のフンですって!

 コイツマジで車椅子蹴っ飛ばしてやりたい。

 エルンスト元帥は本名を『エルンスト・グローヴス』といい、フランクリンの飼い犬だ。


 コイツが枢機卿になった事で聖女教教会は通常の倍以上の工事費がかかるようになった。

 フランクリンの移動する車椅子の為に上下昇降の床を作ったり、坂道をなだらかにしたり……本来やらなくていい工事ばかりあちこちでさせられた。


 それが聖女教の教会にやたらと金がかけられた原因でもある。

 フランクリンが行くわけの無いようなクロフトの教会等には一切の寄付金が送られなかったのもその為だ。


「レルリルム様、俺はグローヴス元帥に会ってきます」

「そう、わかったわ。こちらの事は気にしないで」


 グローヴス元帥がギュスターヴを呼び出した理由。

 十中八九、私から引きはがす為だろう。

 前の人生では厄介払いのワガママ王妃のお守りといった島流しだったギュスターヴだったが、今の人生では有能な王妃候補の忠実な護衛といったイメージで女子等の人気も非常に高い。


 聖女教とベッタリのあの俗物グローヴス元帥が、そのギュスターヴが活躍すると困るからとどこか別の場所に左遷しようと考えているのだろう。


 そうはさせないわ!


「フランクリン枢機卿猊下、私はオウギュスト様にお会いしたいのですが、どちらにおられますか?」

「ほっほっほ、今オウギュスト殿下は結婚式の演出を考える為に大聖堂におられるはずですよ」


 私は頭が痛くなってきた。

 黒歴史にも程がある前の人生での結婚式。


 平和の象徴の鳩を飛ばそうとして集めたはいいものの、訓練が出来ていない鳩はバラバラに飛び、挙句の果てには平和の聖火に焼かれて丸焦げになってしまった……。

 他にも何か空を飛ぶ魔法具を身につけた騎士が空を飛んで文字を描こうとして空中で衝突、墜落しそうになったとか……。


 無駄に巨大な布を用意し、私とオウギュストの絵を描かせたはいいものの、それを掲げる大きな竿を用意できるわけもなく、地面に置いた事で誰もその絵の全体が見れなかったとか……。


 思い出すだけで頭が痛くなるどうしようもない演出の数々だった。

 しかし前の人生の私、どれだけ娯楽に飢えていたんだろう……。

 そんなバカ丸出しの演出を自分の為に用意されたと喜んで見ていたのだから……。


 今回の結婚式、それらの馬鹿演出は全て却下よ!

 私が全て決める! それも国民の誰もが幸せを感じ、なおかつ聖女教への宣戦布告になるようなものだ。


「私も演出を考えさせてもらう為に大聖堂に向かいます!」

「ですが、もう演出は……」


 こいつら、間違いなく結婚式の演出を身内の貴族等にやらせようとしているな。

 残念だけどそうはさせないわ。


「私は王妃になるのよ。つまりはこの国のナンバー2! ナンバー3に過ぎない貴方にとやかく言われる筋合いは無いわ!」

「ぐぬぬ……この小娘が……」


 いくら枢機卿といえど、国のトップは国王、その妻で聖女である私には本来逆らえないのよ!


 私はオウギュスト殿下のいる大聖堂に向かった。


「だーかーらー、それじゃあ間に合わないだろうが! バカなのか」

「しかし殿下、商人ギルドが壊滅状態で物資が確保できないのです。どう考えても城より大きな布に国王と王妃を描くのはとても……」


 オウギュストが部下にわめき散らしている。

 どうやらあれはスティムスン大臣のようだ。

 彼も前の人生では私の取り巻きの一人で、フランクリンの腰ぎんちゃくだった。


「あら、大変そうね。どうしたのかしら」

「王妃様―、殿下が無茶ばかり言って全然演出が決まらないのです……助けてください」


 まあ商人ギルドを壊滅させたのはこの私だから、物資が無いので巨大絵が描けないのはよーくわかってるわ。

 これであの馬鹿演出の一つを止める事が出来そうね。


「そうねー、それならもっといい演出があるわよ」

「王妃様、それは?」

「とにかく王都から大きな道を作るの。そしてパレードをするのよ。王都だけでは無いわ、小さな村々までを全て道でつなぐのよ」


 これは結婚式の為でも何でもない、本当の目的は国土強靭計画。

 しかしそれを豪華な馬車でのパレードという名目にして旧バートン子爵領の金山の資金を使い切るのよ。

 国土強靭化、国土改造論を進めれば……――いざという時の戦争や災害時でも避難路の確保や進軍の為の大攻勢が可能。


 だが下手に平時にそれを言っても必要無いだの、無駄遣いだのと言われる。

 それならこのタイミングで一気にやってしまおうというわけ。


「王妃様、それは無駄遣いというものかと……国庫もタダじゃないのですよ」

「あら、オッペンハイマー大蔵大臣。御機嫌よう」


 この国の悪性腫瘍、――医学用語で癌と学んだけど――……が雁首並べて現れた。


 フランクリン・デラン枢機卿、エルンスト・グローヴス元帥、ジェームス・スティムスン内務大臣、アルバート・オッペンハイマー大蔵大臣。


 この四人がこの国を腐らせている元凶だ。

 それに悪徳貴族や壊滅寸前ではあるが商人ギルド等が加担し、庶民に塗炭の苦しみを与えていた。


 私が王妃となるからには、この連中を好きにはさせない!

 とにかく一日も早く結婚式を終わらせて私がこの国のナンバー2の立場から国王を骨抜きにして自在に操るのよ。


 そして騎士団はギュスターヴに仕切らせ、私が全て掌握する!


 やって出来ない事は無いわ。

 この国に住む貧しい人の為に、私は聖なる力無しに聖女になりきらなくてはいけないのよ!


 さて、そろそろギュスターヴが戻って来てもおかしく無い頃ね。

 私は演出に悩むバカ共を放っておいて王宮に戻る事にした。


 どうせ私の人材ギルドの物資が無きゃ何もできないんだから、放っておいても何も進まないのはよーくわかった。

 それよりもギュスターヴにあのエルンスト元帥が何を言ったのか。

 そちらの方がよほど重要。


 私が王宮に戻ると、ギュスターヴは既に直立不動で私の来るのを待っていた。


「ギュスターヴ、どうだった?」

「レルリルム様、残念ですが俺は貴女にお仕えし続ける事が出来なくなってしまいました」


 やはりそういう話だったか。


「え? どういう事?」

「最近隣国との国境近辺で紛争が起きているので、俺はその前線で指揮をするようにとのグローヴス元帥からの辞令が出てしまいました」


 やはり私からギュスターヴを引き離す工作に出てきたか。


「安心なさい。そんなの無視して良いわよ」

「え? しかし騎士団の命令は絶対で……」

「今の私はグローヴスよりもよほど偉いのよ。貴方には後程正式に騎士団副団長の任を命じますわ!」

「レルリルム様……」


 ここでギュスターヴに離脱されたら私の方が困るのよ!

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