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4 お店を作りたい!

 聖女教による嫌がらせはこんな所にまで響いていたのか。

 アイツらは庶民から砂糖を奪っただけではなく、それによる先物取引で庶民にさらに金を投資させた上で運搬船を寄港させない事によって沈没に追い込み……多くの人達を破産させた。


 アイツらが神の名でやっている事はただの金儲けと貧乏人いじめだ。

 わたしは前の人生の牢屋の中でそれをイヤというほど聞かされた。

 その中には今回の砂糖の先物取引で大損した為に旦那が自殺したという未亡人もいた。


 この商人の一家もやはり儲け話で潰された被害者の一人なのだろう……。

 これ以上聖女教を野放しにすれば、アイツらのせいで被害を受ける人間はもっと増えてしまう。

 それならわたしが彼らを助けてあげなければ!

 前の人生で聖女教の聖女として、傾国の王妃として苦しめてしまった人達を助ける為……その為にわたしは前の人生に戻ってきたのだから。


「わたしはドリンコート伯爵の娘なのよ。この程度の店、わたしのお小遣いで買えてしまうの」


 わたしはわざと商人の夫婦を煽った。

 これも勿論考えがあっての事だ。


 わたしが何もできない小娘のくせに店を手に入れた世間知らずに見せておきながら、本当に儲かる方法を実践し、この夫婦の信頼を得て店の実質の運営を任せる為だ。


 そのためにはできるだけ悪印象にしておいた方がいい。

 その上で店を買い叩いたワガママ娘が好き放題やったら儲かったという流れにした方が、聖女教やそいつ等に準ずる悪徳貴族も目を付けないと考えたからだ。


「いいこと? わたしを憎むならそれでもいい。でもね、あなた方、この砂糖の先物取引も値段高騰も意図的に作られたものだとしたら……どうなの?」

「そんな証拠どこにもないだろうが!」

「頭の悪い貧乏人はこれだから騙され続けるのよ。少し考えてごらんなさい。そうすればわかるわ」


 この証拠は数年後の革命の中で見つかる。

 サウカラ男爵の家を焼き討ちした民衆が見つけたのは、彼が意図的に砂糖を独占販売し、聖女教と組んで荒稼ぎしていた証拠書類と、意図的に一部の外国の貿易船を寄港させないための手紙のやり取りだった。


 この証拠を見つけられたサウカラ男爵は必死に命乞いをしたが怒りの頂点に達した民衆達によって、灼熱に熱された激辛の大鍋で煮殺された。


「まあわたしならその砂糖全部の買占めも可能ですけどね」

「アンタはこの砂糖のバカげた値段でも買い占められると思ってるのか?」

「さあ、わたしの財力なら国中の砂糖を全て買い集めてもお小遣い程度にもならないわ」

「国中の砂糖を……バカな、そんなことできるわけないだろう! いくらかかると思ってるんだ!」

「フフフ、伯爵家の財力をみくびってはいけませんわ」


 わたしは笑った後、指を鳴らして合図をした。

 その直後、建物の中には大量の麻袋を抱えた男達が数十人入ってきた。

 彼らはどんどん麻袋を積み上げていく。

 その袋からは甘い匂いが漂ってた。


「どうかしら、これでもほんの一部ですわ。国中の砂糖は今実際に買い集めている最中ですのよ」

「……お願いだ。いや、お願いします……この砂糖のほんの一部だけでも、オレ達に売って下さい」

「嫌ですわ」

「な、何でだよ。砂糖を見せつけるためにオレの店を奪ったと言うのかよ!」

「いいえ、違いますわ。アナタ方はすでにわたしの部下。それなのになぜ売りつける必要があるのでしょうか?」

「え??」


 商人の男が困惑している。


「もう一度言いましょうか、アナタ方はもうわたしの部下なの。部下を蔑ろにする趣味はわたしにはありませんから。砂糖が欲しい? 好きなだけ使えばいいですわ」

「!!!! 信じられない……」

「信じなくてもこれが現実ですわ。わたしはあなた方を買いました。でもこれは慈善事業ではありません。勿論、仕事はしてもらいますわよ」

「仕事? オレ達に何をやらせるつもりなんだ?」


 商人の男が少しわたしのことを警戒した。


「あら、商人にやらせる事なんて商売に決まってますでしょう。あなた方にはこの砂糖を売ってもらうのですわ」

「……これを、一体いくらで売るつもりなんだ?」

「そうね、今の相場は……いや、あなた方が砂糖の先物で出した金はいくらほどでした?」

「今の相場は、一袋で金貨十枚、オレ達が先物で買ったのは一袋金貨一枚の手形だった」


 聖女教とサウカラ男爵はどれだけ暴利をむさぼっているの!

 わたしは前の人生で砂糖入りの菓子を毎日何も考えずに食べることでアイツらに良いように踊らされていたと、つくづく自分自身を情けなく感じた。


「お嬢様? 一体何を考えているのでしょうか?」

「……そうね、ただ砂糖を売るだけだと……利権族の貴族に目を付けられますから、お菓子かパンの店を作ってそこで売りましょう。そこに卸している名目で砂糖を上増しして、それをアナタ方の店を使い適正価格で売るのです!」

「お嬢様……そんなことをしたら貴女様の命が……」

「こんな命程度、いくらでも賭けられますわ! わたしには怖いものなんてありませんわ」


 実際、わたしにはもう怖いものなんて存在しない。

 前の人生でわたしが一番恐怖を感じたのは、日々迫りくる処刑の日と……わたしのせいで苦しめられたという人たちの怨嗟の視線だった。


 今の人生で恨みを買うとしてもそれはたかだか腐敗した利権族の貴族や聖女教程度だ。

 この国の人間の全体数にすればほんの一握り、それ以外の全てを敵にしてしまったあの恐怖に比べればなんということはない。


「大丈夫、わたしに任せなさい。いい考えがあるのよ」


 わたしはそう言って台所を使い、小麦粉と牛乳と玉子と砂糖を入れた透けるほど薄いパンともケーキともつかない物を焼いた。


「お嬢様? 何ですか……それは? そんなペラペラのパンを売るつもりなんですか?」


 商人の男が困惑するのもわかる。

 これは今の時代まだ存在しない食べ物だからだ。

 この食べ物は王国末期の誰もが飢餓で食べられない時代に国のシェフが考案した薄いパンだった。

 このパンともケーキともつかない食べ物で、どうにか腹持ちの良い野菜や加工肉を巻いて食べられるようにしたもの、それが王国末期の王宮の食べ物だった。


 わたしはこれを工夫してどうにか食べやすくしろと命令し、完成したのはシェフが苦心の末完成させた空気を食べる物、つまりは卵や牛乳をフワフワになるまで泡立て、この薄く焼いたパンに包んだ物だった。

 それは食べる物に事欠いた王国の末期に、わたしが食べた食べ物の中で最も美味しいと感じた物だった。


「この薄く焼いた物で、この泡立てた牛乳と玉子のフワフワを入れて」

「何だこれは!?」


 そして完成した食べ物は、フワフワに泡立った牛乳と玉子が包まれた不思議なお菓子だった。


「お父さん、これ食べても……いい?」

「おい、勝手に……」

「ええ、いいわよ。どうぞ召し上がって」


 商人の子供が薄く焼いた牛乳のフワフワ入りを巻いたお菓子を食べた。


「美味しい! ぼく、今までにこんな美味しい物食べたこと無いよ!」


 子供の表情がとても嬉しそうになっている。

 これは間違いなく売れる!


「これで間違いないですわね、このお菓子なら……絶対に売れますわ、そして……そのお菓子の発注に合わせて砂糖を適正価格で売る……完璧な作戦ですわ!」

「お嬢様……ですがオレ達にはこれ以上砂糖以外の材料を買うお金は……」

「あら、確かあなた方はわたしのペンダントを()()()()()()のですわね。そのお礼としてお金を渡さなくていけませんわ」

「え? 拾ったって……」

「そうですわ、何故かわたしはレストランに向かう途中で大事なペンダントを落としてしまい、困っていたのですわ。それを親切な商人さんが拾ってくれたので、それに対するお礼をしなくては……貴族とは言えませんわ」

「お嬢様……ありがとうございます……ありがとう……ございます」


 商人の男は、泣きながら何度も何度もわたしに頭を下げてお礼を言い続けた。


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