38 村を発展させたい!
私はレオ・レオニ村滞在時間を予定よりも延長する事にした。
あのバカ王子はやきもきしているかも知れないが、結婚するともう自由に外に出られなくなるから最後くらいは……と言えば一応話は聞いた。
まああのバカは目の前に見えている旧バートン領の金鉱が自分の物になると思い込んで浮かれているだけなので、放っておいてもいい。――バカには丁度いい良い目くらましだ。
「お嬢さん、今日も大量だぜ!」
「待ってな、美味い魚食わせてやるからよ」
「でも、コレって本当に缶詰にしたら保存できるのか??」
私は工業ギルド部門のギルド長ドワイトをレオ・レオニ村に呼び寄せ、工場を作る計画を話した。
「お嬢様、これは良い魚ですね! これなら新鮮なうちに缶詰にすれば間違いなく売れますよ」
ドワイトは以前に比べてよほど収入も上がり、良い服を自由に着られるくらいの立場になっているが、それでもボロボロの作業着やつなぎを着ている。
どうやら彼はこれが気に入っているので使えなくなるまでは使い込むと言っているようだ。
だがむしろその服装がこの漁村の人には受け入れられたようだ。
自分達と違う偉ぶった金持ちがこの村に来て要らない物を作っていったと思われては、折角のこの村の改革が上手く行かなくなってしまう。
自分達と同じような労働者、庶民と言えるような立場の人が協力するとなると連携はしやすくなる。
「お嬢様、このドワイトにお任せください! 立派な缶詰工場を作ってみせますよ!」
「ええ、期待しているわ」
その様子を見ていたシーザー、いや……ジュリアス王子は私に問いかけてきた。
「君は何故そこまで人の為に働こうとするんだ? 貴族なんてものは椅子に座って書類を見ている事で仕事のフリをしているような連中じゃないのか?」
彼のいう事は最もだ。
この国で現場に出て視察するような貴族はほとんどいない。
大体は部下に視察させ、その結果報告だけを鵜呑みにして税収を決めたり政策を考える貴族が大半だ。
だから部下が不真面目で横領しているような奴でも何のお咎めも無く、泣くのは一番最底辺の領民という事になる。
「さ、さあ。単に私が変わり者ってだけじゃないかしら。私外に出るの好きだから」
「ははは、まあそういう事にしておこう。それじゃあ村長さんの所に行こうか」
ジュリアス王子は今後の缶詰工場を作る計画の為に村長の家に私を呼んでくれた。
村長は私の計画とドワイトの技術の高さを見てから試作品の缶詰を食べた。
「美味い! これが内陸部でも腐らずに食べる事が出来るようになるのか!」
「はい、それだけではなく。反対に漁業の人に野菜の缶詰をお渡しすれば今までよりも遠くの海で漁業が出来るようになるのですわ」
「なるほど、それではもしよろしければ早速明日の漁にその缶詰を分けていただけないでしょうか」
「どうぞ、お持ちくださいませ」
話はすんなりまとまった。
工場は今後の未曽有の大災害による津波被害の事を考え、高台の見晴らしのいい丘に作られる事になった。
その際の坂道はアンリエッタの考案したベルトコンベアを用意する事で海から直接坂道を使って海産物を送れるような仕組みを工業ギルドのスタッフ達が総力を挙げて作ってくれた。
そして今後の災害対策で必要なのは避難路だ。
このレオ・レオニ村が津波でのみ込まれてしまったのは、砂浜から陸地までの道が細かった為だと言える。
その対策として坂道をなだらかにし、道を広くする工事が必要だった。
この重労働の工事をメインで仕切ってくれたのは力に優れた獣人達とそのリーダー、グスタフだった。
ザフィラも数日後に合流してくれたが、まだ何だか私とはギクシャクした状態が続いている。
それでも美味しい魚が食べれる時は期限の良さそうな顔をしていたが、私が見ると顔をそむけてしまう。
一体どうしたって言うのよ。
私、貴方に何か悪いことしたかしら?
「ザフィラ、どうしたの? 貴方最近何か様子が変よ」
「レルリルルこそ、ボクなんかより大事なモノがあるんじゃないのか? こんなとこにいていいのよ!」
彼は何故拗ねているのだろうか。
「大事なモノ? 私にとって大事なモノはこの国の人達ですわ。それ以上のモノはありませんから」
「だって、レルリルル……あの王子とケッコンするんだろ。それなのに放っておいていいのかよ……」
「あんなバカ、放っておけばいいですわ。それより今はこの村の事の方がよほど大事よ」
私がオウギュスト殿下をバカ呼ばわりすると、ザフィラの表情が少し和らいだようだった、
「え? レルリルル、アイツのこと好きなんじゃないの!?」
「あんな奴、大っ嫌いよ! 婚約? したくてしてるんじゃないの、この国の為に必要だからアイツに従ったフリしただけよっ」
それを聞いていたジュリアス王子が含み笑いをしている。
ザフィラは私の事を見つめ、少し泣き出しそうな顔になっていた。
「ボク、レルリルルが遠くに行っちゃったような気がして……」
私はザフィラを優しく両手で抱きかかえた。
「大丈夫よ、ザフィラ。私はどこにも行かないわ。みんなと、この国を幸せにしたいから」
「流石だね。君なら本当にこの国を変える事が出来るかもしれないね……」
「貴方は、ジュリ……ンッ‼」
彼は私の口を手で塞いできた
「おっと、その話はまた今度だ……」
その日は久々にみんなが集まれたので村を挙げた大宴会になった。
誤解の解けたザフィラはまたギュスターヴと張り合っているようで、飲み比べや食べ比べで勝負している。
この二人、仲が良いんだか悪いんだか……。
その日の夜、クロフトとアンリも到着した。
これでいつものメンバー勢ぞろいってところかしら。
「レルリルム。今度は病院を作るんだって?」
「ええ、ここの立地条件は……病院に最適な場所なのですわ」
「戦争……を見据えての話か……」
そう、アンリは私が未来を見てきた事を知っている唯一の人物だ。
戦争の事を直接は彼と話していないが、彼の地政学からの見識ではここは間違いなく戦場における補給基地として最適というのが導き出せた答えらしい。
「はい、しかし今はまだ黙っていて下さいませ。無駄に村人を怖がらせるわけにもいきませんから」
「わかったよ、キミが言い出すまで僕は黙っていることにする」
「アンリさん、一つお聞きしたい事がありますけど良いでしょうか?」
「何だい? 急に」
「あの……赤い魚の目は黒い。という意味はご存じですか?」
これで彼も革命団関係者かを見極める事が出来る。
「そりゃあレオ・レオニ村の諺だからね。この地域に住む小さなスイミーフィッシュって赤い魚は普段臆病だけど、突然変異で生まれる黒い個体がリーダーになった時は獰猛に変貌してサメですら食い荒らす海の暴れ者になると言われている。だから諺の意味としては、集団の中に一人突出したリーダーがいる事を意味するんだ」
凄い、完全な回答だ。
しかしこれだけ完全な回答をされると、彼が革命団関係者かどうか反対に分からなくなってしまった。
さて、この村ではまだ私がやるべき事がたくさん残っている。
それを一つずつ終わらせないと……。
そうね、あのバカ王子には結婚式は盛大に行うので下準備に一か月近くかかると言っておきましょう。
アイツ、浮かれている間はこちらの計画に気付くわけも無いでしょうから。
私がこの村でやるべき事は……。
まずは缶詰工場の建造。
それから災害時の為の道路舗装の拡張化、斜面の平坦化。
さらには病院誘致の為の場所確保と建設工事の着手。
さらにさらに魚が多く取れた理由の説明からのこの村の災害時の危険性についての村人への解説。
やる事がてんこもり!
でもそれは避けて通れない事。
この村が壊滅する=この国の未来が終わるとも言える。
たかだか小さな村のはずだが、この村が将来的にこの国の存亡に関わるようになるので、疎かにするわけにはいかない。
そしてこの村を救う事は、第一王子ジュリアス殿下の命を救う事にもなり、あの堅物騎士団長ギュスターヴが認める程の人物である彼ならこの国を立て直す事も可能になる。
さあ、ボヤボヤしているヒマはないわ!
未曽有の大災害での死者が想定数万人に達した事を考えると、今のうちに工事を進めて国家的大事業とする事でその死者を出さないようにする!
それが今の私がやる最優先事項。
もうあまり時間は無いのよ。




