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37 病院を作りたい!

 私は次の日、ギュスターヴを連れてレオ・レオニ村に向かう事にした。

 彼は私の決意を聞き、なお忠誠を誓ってくれたようだ。


 どうやらギュスターヴがあの婚約宣言の後私と距離を開けてしまったのはあのバカ王子に本当に惚れて婚約したと勘違いしてしまったからのようね。


 誰があんなバカ王子本気で好きになるもんですか!

 あー、前の人生の私がどれだけ馬鹿だったか、つくづく思い知らされる。


 しかしそれが誤解だったとわかった後、ギュスターヴの私を見る目が何だか昨日までと違うように感じるわ。

 なんというか、優しく私を見守ってくれている感じがする。


「さあ、レルリルム様、レオ・レオニ村に向かいます」

「わかったわ。よろしくお願いね」


 私は馬車ではなく馬の後ろに乗せてもらう形でギュスターヴにレオ・レオニ村に連れて行ってもらった。


「ここがレオ・レオニ村……」


 そこは寂れた漁村といった感じの場所だった。

 確かにこんな場所に第一王子がいるとは誰も気が付くまい。

 だがそれだけに未曽有の大災害が起きた際に、誰にも気付かれる事無く第一王子が海に流されてしまったとも言える。


「おお、これは……王妃様、ようこそお越しくださいました。何も無い村でおもてなしも出来ませんがどうぞゆっくりして言って下さいませ」

「ありがとう、でもまだ私は王妃では無いわ、ただの伯爵令嬢よ」


 あんなバカ王子との婚約なんてまっぴらよ!

 でも仕方ない、アイツをどうにかしないとこの国を救う事はまだ難しい。

 それよりも、ジュリアス王子を見つけないと。


 どうやら漁師達が漁から帰ってきたみたい。

 その中にジュリアス王子がいるかもしれない……。


「よう、今回は大漁だったな」

「珍しいくらい魚が取れたよな」

「早速生でさばこうぜ」


 漁師達の中に一人顔に大きな傷のある金髪の男性が見えた。

 あの顔は……バカ王子のオウギュストに似ているけど凛々しい顔、間違いない。


「シーザー、お前のおかげだな。お前が魚のいる場所を見つけてくれたからな」

「そんな事はない、皆が協力したからの成果だろ」

「シーザーは偉ぶらないよな。だから新参者でもオレ達のリーダーになれたんだ」


 シーザーと呼ばれている男、間違いないわ。彼がジュリアス王子ね。


「おや、そこのお嬢様は?」

「シーザー、こちらの方はレルリルム様。次期王妃様になられるお方で今はこの村に視察に来られたそうなのじゃ」

「へえ、王妃様ってことはあのバカ王子の奥さんになるって事か」

「シーザー、お前……よくそんな恐ろしい事言えるな! もし誰かに聞かれていたら……」

「大丈夫だろ、この村にそんなヤツはいないって。みんなあのバカ王子のせいで苦労させられているんだからな」


 ジュリアス王子はオウギュスト殿下の事を何の躊躇もなくバカ王子呼ばわりしてた。


「それで、その未来の王妃様がこんな何も無い村に何を見に来たんだい?」

「そうね、気になった事があったので……」

「気になった事?」

「あなた方、ここ最近、やたらと魚が取れていませんか?」


 別にこれは漁獲高に上乗せして税金を取る為の話ではない。


「そうだな、最近は結構大量になることが多いが、まさか……それで税金を上げようとか言う為にこの村に来たのか?」


 やはりそういう勘違いされるわよね。


「いいえ、違います。私は地学と海洋学を勉強しておりますので、その調査をしたくて来たのです」

「へえ、まあ王妃様にもなると道楽で勉強や調査を遊び感覚で出来るってわけだね」


 まあ普通に考えればそうなるだろう。

 食うにやっとの漁村に、何も知らない金持ちの娘が物見遊山に現れたらいい感情を持つわけが無い。


「シーザーさん。お聞きしたい事がございます。少しよろしいでしょうか?」

「ん……?」


 ジュリアス王子は私の後ろにギュスターヴがいる事に気が付いたようだ。


「お嬢様、後ろにおられるのは騎士の方ですか?」

「はい。私は彼にこの村の事を教えてもらい、こちらに来ました」

「……お嬢様、赤い魚の目は黒い。そう覚えておいて下さい」


 この言葉の意味は、どういう事なの?

 まあ、何かの合言葉だと思うのでしっかりと覚えておこう。


「お嬢様、ご視察に来たならどうせならお食事もいかがですか? 取れたての新鮮な生で食べられる魚もございますよ」


 何故かギュスターヴを見た後、ジュリアス王子の態度が軟化したしたように見える。

 私は新鮮で取れたてのさばいた魚を食べさせてもらった。

 美味しい! これは、缶詰にしたら間違いなく売れる。


「美味しいわ、これは……」

「取れたての魚は甘さを感じるくらい美味しいんですよ。これはこの土地に住む者だけが味わう事が出来る味です」


 この村で産業になるといえば漁業くらいだろう。

 だが魚は長持ちしないので塩漬けくらいしか今までは使えなかった。

 でもアンリエッタの教えてくれた缶詰の技術を使えばこの魚を新鮮なまま内陸部でも持って行く事が出来る。

 そうすればこの村の人達にも収入になるだろう。


 その話を今ここでしても良いのだけど、それよりも重要な話をする為に私はここに来たわけだから、村長さんと話さないと。


 私は魚料理をご馳走になり、村長さんの家にお邪魔した。


「ようこそ来られました。シーザー、お客様にお茶を出してくれますか」

「はい、わかりました」


 一国の王子が村長に言われてお茶出しをしている。

 多分村長さんはこのシーザーがジュリアス王子だとは知らないのだろう。


「それで、お嬢様。この村にどのような御用で?」

「村長さん、その前にお聞きしたい事がございますが、『赤い魚の目は黒い』とはどう意味でしょうか?」


 村長さんはその話について詳しく教えてくれた。


「おお、その話ですか。この村の近くに住む怪魚の話ですじゃ。この村の近くには小さな赤い魚達が群れを成して住んでおります。その魚達は臆病で普段は狩られる側の存在です。ですがたまに黒い魚が生まれる事があります。するとその魚は群れを巨大な魚に見立て、黒い魚が目玉のようになり、魚群が巨大な魚のような姿となって集団でサメすらも食い殺すようになるのです」


 なるほど、何となく意味が分かった。

 つまり、赤い魚の目は黒いとは、普段群れを成しても弱い者達が強力なリーダーを抱く事で巨大な相手にすら立ち向かう力を手に入れるという意味なのか。


 つまりこれは! 革命軍の合言葉だ!


 革命軍はこの黒い目玉にジュリアス王子を当てはめているのだろう。

 やはりここは革命軍の隠れ家がある場所で間違いのない村のようだ。


 だが今下手にその話を表立ってするのも誰が味方で誰が敵だかわからないので、村に来た本題の方を話した方が良さそうだ。

 この村は数年後の未曽有の大災害で大勢の人が犠牲になる。

 それを避ける為には避難できるのが重要だが、普段の生活をやめさせてまで避難させるのは悪手と言える。


 それならば避難できるような緊急の病院を作るのが重要だ。

 また、この土地は数年後の戦争での物資調達で軍港に改造され、多くの船が行き来するようになる。

 そう考えると今のうちに病院を作っておけばこの土地は流通の意味でも軍事の面でも国の為になると思われる。


「村長さん、実はこの村に私は病院を作りたいと考えています。ここに病院を作る事が出来れば、海からの輸送で災害があった場合とかにすぐに対処できるからです」

「お嬢様、いきなりそんな事を言われてましても、この村は何の産業も無い寂れた漁村です。いきなり病院を作ると言われましても……」


 まあそりゃあ何も無い場所にいきなり病院を作ると言われてもビックリするわよね。

 さらにその理由が数年後の未曽有の大災害や戦争での病院が必要になるからなんて言っても誰も信じられないでしょうし。


「だから新たな産業を作るための病院なんです。私が王妃になったらこの土地を医療地域に設定します。ここは水も空気も綺麗で療養にはもってこいの場所なんですわ」

「へえ。あのお嬢さん、なかなかここの立地条件わかってるじゃないか」


 ジュリアス王子が何か言ったようだが、私は村長さんに説明していてあまり聞こえていなかった。


「ですが、病院を作るにはかなりの金が……」

「そんなもの私の人材ギルドの人材と元バートン子爵領の金鉱があればスタッフも金もどうとでもなりますわ!」

「……少し考えさせてください」

「それと、この漁村で採れた魚は私の缶詰工場を作る事で全部無駄なく売ってみせますわ!」


 村長さんはどうやら私のその一言で納得したらしい。


「わかりました、出来る限り村民を説得してみましょう。シーザー、お前も協力してくれるか?」

「はい、おやっさん。おれも協力しますよ」


 私はこの村の住民に病院が出来れば生活が楽になる、収入が増える等の事を詳しく伝えた。

 私の話を聞いて村人達は最初疑心暗鬼だったが、精一杯伝えると一人、二人と話を聞いてくれ、最終的にはシーザーの姿のジュリアス王子が説得してくれた事で全員が賛同してくれた。


 やはりこのジュリアス王子こそがこの国の王になるに相応しいと私は感じた。

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