35 番外編 原作の結末を知りたい!
今回の話は転生者アンリエッタの視点からの話です。
まあ名前から分かる人は分かるかと思いますが、作中のクイズRPGゲームとかには元ネタがあります。
聖女とニセ聖女の名前もよく見ると元ネタ分かるかと……。
アタシは色々と選択肢を考えながら動いてきた。
何故ならこの世界の結末やこの国の行く末が分かっているから。
そしてアタシは原作の強制力で再び婚約破棄を宣言された。
アタシは元々日本で大手食品会社のOLをやっていた。
実家が農家だったのもあるけど、食べ物で世界から貧困や飢餓を救えるならと考えたからだ。
アタシは日々仕事に追われ、なかなか休日を取るタイミングも無いくらいだった。
そんなアタシが仕事の通勤や隙間時間に遊んでいたスマホアプリゲームが、『謎猫project』
クイズで強くなるカードRPGゲームで、かなりのプレイ時間を要していた。
そんな中でアタシのお気に入りだったのが、ニセ聖女レルリルムの出てくるイベント、『エターナルエンパイア』だった。
このイベントに出てくる悪妃レルリルムは、イベントの難しさと人気絵師によるその美麗なキャラデザ、そして手に入れると最強と言われているSSレアカードで人気だった。
彼女は革命で殺された後、悪霊となり……悪魔に魂を売り渡した世界の破壊者として英雄王クローヴィスの前に立ちはだかるのだ!
魔法使いとその使い魔の人の言葉を話す猫になってしまった転生者が、イベントごとに様々な異世界に召喚されるこのゲームのイベントの中でも、エターナルエンパイアはSSカードの英雄王クローヴィスの出現率が異様なまでに低く、課金勢でもめったに当たらないと言われているモノだった。
忘れもしない、アタシがカードを手に入れたその日は、他の駅で人身事故があり、アタシの家の最寄りの駅でも電車のダイヤが大幅に乱れていた。
ホームは人でごった返し、ホームドアの無いこの駅では白線の外側を歩かないと別の場所に行けない状態だった、どうなっているのよ。
普段のラッシュ程度なら少し危険を感じるくらいだけど、この日のホームの人の多さは尋常では無かった。
アタシはそんな中、ホームの後方で立ちながら電車の来るのを待っていた。
その際に溜まったガチャクリスタルを使い、ガチャを引いたんだけど……。
普段と違う演出! これはっ!? 出たっ‼ SSレアカード英雄王クローヴィスだ!
喜んだアタシだったが、それが最後の記憶だった。
アタシはそのすぐ後にホームを歩いてきた酔っぱらいにぶつかり、電車の入ってきたホームに転落し……気が付いたら異世界で貴族の娘になっていた。
どうやら日本でのアタシは電車に轢かれて死んでしまい、このエターナルエンパイアの世界に転生してしまったようね。
それにしてもあの駅、いつまでもホームドア設置しないから死んじゃったじゃないの!
エターナルエンパイアは、レルリルムが悪の限りを尽くして主人公達が負けるイージーモード、レルリルムを革命で追い詰めるハードモード、そしてレルリルムが悪魔に魂を売った破壊者になり英雄王が倒すエクストラモードの三つのストーリー構成になっていた。
しかし転生後のアタシが出会ったレルリルムはそんな悪女とはかけ離れた素敵な少女になっていて、アタシが困惑したくらいだ。
しかしここがエターナルエンパイアの世界だというのは出てくる人物を見ればわかる。
Bカードのイベント中ボス、愚王オウギュストにSカードの傭兵団リーダー白獅子ザフィラ、Aカードの重戦士グスタフに猫メイドのシロノ、それとSカードのイベント中ボス騎士団長ギュスターヴにSSカードの革命団リーダー、マクシミリアン・クロフト。
どれもこれもエターナルエンパイアのイベントで手に入るレアカードキャラばかりだ。
隠しSレアカードキャラに『詐欺師シュターデン』があるが、これは特殊なルートでないと手に入らないらしい。
これらはどれもキャラとしては悪妃レルリルムに対して特攻持ちのカードで、これを組んでデッキ編成を合わせないと……他の強力と言われたコラボキャラの『鬼面ライダー刃』や『魔法少女マジカルみずき』、ロボアニメ『永遠のホライゾン』に登場した巨大ロボ『飛翔騎士アルシオン』と言った他イベントでチートなくらい強かったキャラが全く手も足も出ない超絶難度の鬼イベントだった。
でも、ここがエターナルエンパイアの世界だとして、何故アタシは聖女アンリエッタに転生してしまったのだろうか?
アンリエッタもSSキャラで、英雄王クローヴィスとデッキを組むとレルリルムの毎ターン開始時の呪いによる、能力10分の1強制デバフ、麻痺、混乱、死の宣告といったランダムステータスを完全無効の聖女の祈りが使えるチートキャラだった。
まさかこの世界でレルリルムとアタシが戦う為に呼ばれたワケじゃないだろうけど、原作を知るアタシならこの世界でも十分生きていける。
それに食品会社で培った現代知識があればどんな場所でも美味しい食事にありつけるし、もし原作通り追放されても問題はないはず。
そう思ってアタシはエターナルエンパイアの序盤と同じような動きをするつもりだった。
王立学院にレルリルムが編入してくるまでは原作通りだと思っていたけど、話はその前からどこか違っていた。
まず、原作にはなかった展開で、アタシの父親、バートン子爵にレルリルムがコンタクトしてきたのだ。
そして彼女はバートン子爵に鉱山のある別荘を売ると言ってきた。
原作ではそんな話欠片も出てきた事が無い。
アタシはそこで初めて成長前のレルリルムを見た。
彼女は原作の美しいながらも邪悪な雰囲気を感じさせない、何だか個性的だけど魅力的な女の子だった。
そして挨拶をしてくれた彼女はとても人懐っこく見えた。
そして原作と違ったのは、本来彼女の敵のはずのザフィラやグスタフ、シロノが操られたり脅されているわけでもなく、本人達の意思でレルリルムに従っていた事。
獣人はレアカードの無い状態の初心者救済の為のイベント配布カードが多く、ノーマルモード、ハードモードでのレルリルム特効カードになるくらい、彼女の敵だったはず。
だけどあの白獅子ザフィラなんて、レルリルムに対して恋愛感情むき出しだ。
長年OLやりながら漫画アプリで課金コインを使いずっと恋愛漫画を見てきたアタシだからわかる。
あれは間違いなくレルリルムに恋している。
しかし原作無視のレルリルムの行動はそれだけでは無かった。
彼女はアタシと友達になりたいと言ってきてくれた。
原作ではアタシ(アンリエッタ)と敵対し、ことあるごとにいじめや陥れをしてきたはずの彼女は、むしろアタシをいじめから守り、一緒にご飯を食べようと言ってくれた。
いつからかアタシも原作の事をすっかり忘れ、レルリルムとは本当の親友になれたと思っていた。
彼女は原作の悪女とはかけ離れた、弱い人の為に出来る事をする立派な淑女だった。
こんなレルリルムなら間違っても悪妃や邪悪な世界の破壊者にはならないと確信できる。
アタシはレルリルムと親友になって毎日が楽しかった。
でも、やっぱり原作の強制力は絶対だったのかな。
形は違うといえ、アタシは結局レルリルムに陥れられ、オウギュスト殿下には原作通りに婚約破棄され、国外追放という事になってしまった。
そしてアタシの父、バートン子爵は濡れ衣で横領の罪により廃嫡の上投獄された。
彼女が本心から私を憎んでいるわけでは無いのは、彼女の目を見てわかる。
レルリルムは婚約破棄されたアタシを見下そうとしていたが、その目には何か戸惑いや悲しみみたいなものを感じた。
本当に原作通りの邪悪な目のレルリルムならゴミを見るような目でアタシを見ていたはず。
これは何か理由があるのかもしれない。
アタシはその意図がわからないまま、この国を出て行く事になった。
確か原作では、国外追放になったアタシ(アンリエッタ)は彷徨いながら寒村に辿り着き、そこの村でなけなしの食事を出してもらったお礼にその村を支配するボス、Cカードの悪代官アルブレヒトをゲストキャラのクロフトと協力して退治する事になる。
この村にいたのがEカードの進化前の謎の負傷者(英雄王クローヴィス進化前)だった。
でもどうやらそのアルブレヒトはレルリルムによって追放され、逃げた途中の山で転落死したと聞いたので、英雄王クローヴィスとアタシの初期イベントは消滅したのかもしれない。
それじゃあアタシがこの国にいてもこれ以上のイベントは無さそうね。
とりあえずはエターナルエンパイアのシナリオだと、国外に追放されたアンリエッタは隣国に辿り着き、そこで聖女の力で人を助けるはず。
それじゃあアタシも聖女アンリエッタとして人助けを始めましょう。
まあそのためには腹が減っては戦は出来ぬ、さて旅に出る為の食料を用意しますか。
追放されるとはいえ、今のアタシの装飾品を売ってしまえばそこそこの食料代にはなるはず、さあ買い物よ。
アタシは缶詰を買えるだけ買ってカバンの中に詰め込んだ。
この缶詰、蓋の密封とか缶の縁の金属加工、そして熱殺菌処理まで、レルリルムが作ったモノが不完全だったのでアタシが前世の知識で完成させてあげたのよね……。
さあ、くよくよしていても仕方ない、アタシは隣国で人助けと行きますか。
でも、原作から大きく外れたこの世界、この後一体どうなるのかな……?




