34 盛大なお祭りをしたい!
今回の話は胸糞注意です。
オウギュスト殿下の誕生パーティーは盛大に開催された。
このパーティーは忘れもしない。
前の人生で私がアンリエッタを貶め、オウギュスト殿下との婚約を発表したパーティーだ。
このパーティーで私はオウギュスト殿下との婚約を発表し、聖女として聖女教に任命されたのだ。
この数週間で私は裏工作にかなりの金額を要した。
前の人生では私の父であるドリンコート伯爵が数年かけてようやく渡したのと同じだけの額を一週間で用意して聖女教会に寄付したのだ。
私の作った工業ギルドと冒険者ギルド、そして建築ギルドをまとめた人材ギルドは、獣人の能力、冒険者の行動力、工業ギルドの開発力、そして建築ギルドの実行力を兼ね備え、この二年で国最大の財閥化していた。
その財力を使えば出来ない事はない。
私は前の人生と同じ流れを意図的に作る為、金と権力を使ってしたくない裏工作をした。
バカ王子のオウギュストに対し愛想を振りまき、気に入られようともした。
まあ今回は心理学も学習したので、あの王子の考えている事も手を取るように分かる。
そして二週間後、前の人生と同じ日にあのバカ王子オウギュスト殿下の16歳の誕生日パーティーが開催された。
私はパーティー会場に入り、ザフィラ、ギュスターヴの二人を護衛にしていた。
聖女教関係者や貴族は獣人のザフィラを奇異の目で見ているけどそんなの気にしない。
彼は私の大事な護衛なのよ、文句ある!?
そして、パーティー会場にアンリエッタと手をつないだオウギュスト殿下が姿を見せた。
さあ茶番劇はこれから開始よ。
「オウギュスト殿下のおなーりー‼」
後ろで派手な曲を鳴らしながらオウギュスト殿下が赤いカーペットの敷かれた道を歩いてきた。
横には正装したアンリエッタがいるが、彼女はこの後私によって陥れられる事になる。
今は例え彼女に恨まれても、この国の為には私が悪者になるしかない。
さあ、その時が来た、あのバカ王子は会場に着くと大げさに大きな声で宣言した。
「皆の者、ぼくはここに宣言する! ここで婚約破棄をすると!」
辺りの様子がざわついた。
聖女教の関係者以外は誰もがこの場でオウギュスト王子と聖女アンリエッタの婚約会見になると信じていたからだ。
「ぼくにはこの国で一番すばらしい女性こそがふさわしい。その為には万年次席の彼女ではぼくに不釣り合いなんだ」
万年最下位のバカ王子が偉そうに。
しかし私は表情を崩さず、その場で会見を聞いていた。
「ぼくはここに宣言する。ぼくの婚約者は、レルリルム・ドリンコート伯爵令嬢こそが相応しい!」
そう言うとオウギュスト殿下はアンリエッタを突き飛ばし、私を強引に引き寄せた。
まあこの茶番に合わせる為に私は主役でも問題の無い最高級のドレスをドワイトに命じて作らせていたんですけどね。
「さあ、レルリルム嬢。ぼくと一緒になってください」
「オウギュスト殿下……いや、陛下。嬉しいですわ、私……」
このバカ、殿下ではなく陛下と言われて舞い上がっている。
それに対してアンリエッタは床に座り込んだまま地面を見つめ、何か呟いていた。
「――そっかぁ。これが、原作の神による強制力……ってやつかぁ――」
アンリエッタが何を言っているのかよくわからなかったけど、私はわざとらしくオウギュストと腕を組みながらアンリエッタを見下した。
ダメだ、冷徹な目で見下すつもりでも……この二年間親友としてアンリエッタと仲良くしてきた記憶が邪魔して、表情を上手く作れない。
アンリエッタはそんな不安定な表情の私の目を見つめ、寂しそうな笑みを見せた。
「そして、アンリエッタの父親、バートン子爵は鉱山での収入を脱税し、隣国への戦争の資金を横流ししていた。コレは国家反逆罪である! よってバートン子爵はその爵位をはく奪の上、投獄。ニセ聖女アンリエッタは国外追放とする!」
これも私が仕組んだ罠だ。
あの鉱山を国営にする為にはこの方法で手に入れるのが一番早い。
そして今のうちにバートン子爵を投獄しておく事で、彼を暗殺しようとする者から守る必要もあるからだ。
前の人生でのバートン子爵は奴隷売買の濡れ衣を着せられ、罪人として見せしめの上での処刑だった。
今だからわかるが、これは獣人奴隷解放を謳ったバートン子爵を陥れ、奴隷解放を邪魔するための聖女教会と商人ギルドと悪徳貴族による冤罪擦り付けだった。
それを避ける為には禁錮刑にしておくのが一番確実と言える。
私の今の人生ではむしろ奴隷解放をしたのはこの私、だから彼が奴隷解放を叫ぶ必要は無いのよ。
そして今はむしろ金鉱を横取りしたい悪徳貴族の方がバートン子爵を妬ましく感じているだろう。
「わかりました。新国王の命に……従います」
バートン子爵は抗議する事も無く素直に兵士に捕らえられ、地下に連れていかれた。
今は仕方が無い、この後彼の命を守るにはこれが一番荒療治でも確実な方法なのよ。
バートン子爵は去り行く際に私に何か目で合図をした。
これが意味のある事だと彼は理解してくれているのだろう。
何もわかっていないのはむしろ、あの鉱山が国営になって自分が贅沢できると思い込んでいるバカ王子のオウギュストくらいだ。
ふざけるな、そうはさせるか。
それ以外にも聖女教や悪徳貴族はアンリエッタが追放になり私が聖女認定とオウギュストとの婚約者に決定した事を困惑した表情で見ていた。
どいつもこいつも前の人生では手放しで私がバカ王子の婚約者になった時に喜んでいた連中ばかりだ。
さて、それじゃあ無駄遣いさせる事で鉱山の収益が国庫に入らないようにする作戦と行きますか。
「オウギュスト陛下、私は貴方の婚約者になれてとても嬉しく思っています」
「そうかそうか、それはそうだろうな。オレはこの国で一番偉いんだから」
さっきまでぼくと言っていたヤツがいきなりオレ呼ばわり。
いかにも虚勢を張っていますと言わんばかりの馬鹿っぷりだ。
私はこのバカ王子に愛想を振りまく中、うつむいた表情のザフィラとギュスターヴを遠目に見た。
ごめんなさい。これが芝居だと言っても理解出来ないわよね……。
「レルリルム様、おめでとうございます」
「あ、貴方は、クロフト代官代行。来て……くれていたのですね」
「はい、自分も一応は収益の多い領主代行みたいな立ち位置ですから……」
彼も祝福していると言いつつ目が笑っていない。
鬼畜眼鏡のアンリとは別の意味で、言うならば丸眼鏡の奥の鷹の目と言ったところだろう。
何故私の周りの男達が今日に限って全員こんなに厳しい目なのだろうか。
そんなにバカ王子と私の婚約発表が嫌なのかな……?
「クロフトさん。ちょうどいい所におられました。是非貴方にお願いしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「はい、レルリルム王妃様、どういった事でしょうか?」
まだ王妃になったわけじゃないのに……この言い方、何かトゲを感じる。
「クロフトさん、私はオウギュスト陛下との婚約発表でパーティーを盛大に開催したいの。そう、国を挙げたような大規模なパーティーを開催するのに貴方の統治する天領の穀物を提供していただきたいの」
「承知いたしました、レルリルムお……嬢様」
先程の言い方が流石にマズいと思ったのか、クロフトは二度目の私の名前を言い直した。
「さあ、皆様。私とオウギュスト陛下の婚約が発表されました。そこで、これを祝って後日盛大なパーティーを開催いたします!」
「「「オオオオオォー‼」」」
会場は盛大な喝采に包まれた。
今疲弊しきっているこの国を元気にする為には、大きな金の動きが必要だ。
それならばこの婚約発表を大きく使わせてもらおう。
その為にあのバカ王子と私の結婚式を超ド派手に開催すれば良いのよ。
はっきり言って私はあのバカ王子と話をするのも嫌だ。
でも私一人が我慢する事でこの国の鬱屈した空気を吹き飛ばせるなら、犠牲になってあげますわ。
それが私に出来る罪滅ぼしなのですから。
でも私はこの時、私に対して恋心を抱く相手が何人もいる事には全く気が付いていなかった。




