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30 缶詰が欲しい!

 昨日の晩、お腹いっぱいに食事をしたわたし達は、ミスリル鉱石と麦やソバ、コメを馬車に乗せ、ドリンコート領に戻る事にした。


 ミスリル鉱石だけでなく穀物類を馬車に積んだのは、ここでは売り物を出せなくてもドリンコート領からなら商品を売り出す事が出来るからだ。

 工員もあれだけの数がいれば袋詰めも小分けもいくらでも可能だ。

 小口の売り物が用意出来れば、商人ギルドをわざわざ通さなくても馬車の路上販売であっという間に売りさばけばいい。


 幸いこの国には今はまだ国の指定した業者以外からの商品の購入による罰則が無いからだ。

 ただし、革命前夜の王国末期には物価高騰と物資不足により国指定の業者以外からの買い物は一切禁止になり、違反者は商品没収の上重い罰則が科せられる事になる。


 この悪法は民衆の怒りに対し火に油を注ぐ事になり、革命を早めたと言えるだろう。


 わたしの前の人生で、この国は工業ギルドの大火災に始まり、物資不足、物価高騰、国指定業者以外の完全排除、といった流れで一般人は明日買うパンにすら事欠くようになった。


 わたしがなぜ今になってそれが分かるかというと、あの鬼畜眼鏡ことアンリの猛勉強の中には流通や経済学といったものの本も入っていたからだろう。


 前の人生当時、馬鹿で勉強をする気も無かったわたしは、物価高騰の意味も分からず、また、あの馬鹿王子ことオウギュスト王は税収が減れば増税すれば良い程度しか思いつかない愚王だったので、夫婦そろって国民に重い負担を与えていた事が、今の人生で勉強した内容でようやく分かったのだ。


 そんな事をやれば耐えきれなくなった民衆の怒りが爆発するのも当然、馬鹿で愚かだったわたしは革命でギロチンの露になっても文句の言いようがない。


 だが、今やり直しているわたしは、その時とは全く違う!

 何が失敗につながるのかをよく分かっているので、今のうちに穀物や物資の流通ルートを作っておけば商人ギルド壊滅後のシェアはこのわたし、レルリルム・ドリンコートの思い通りになるのは確実!


 その為には安全な物資の流通ルートを作ることが必要だと思う。

 今回持って帰るミスリル鉱石はその為だ。


 冒険者ギルドの人に約束している手前もあるが、彼等に早くミスリルの武器を渡す理由は一日も早く仕事をしてもらいたいからだ。

この国の冒険者ギルドは商人ギルドにこき使われ、武器防具は最低ランクのモノだけ与えられてわざと仕事が捗らないようにされている。


 その方が流通に不具合があり、地方格差や物資不足を意図的に作り出して物資の少ない村々に商人ギルドの思い通りに物を売りつける事ができるからだ。


 なのでわたしはその状況を破壊しようと考えている。

 冒険者ギルドの冒険者達は決してレベルが低いわけではない。

 むしろ身体的に劣る獣人相手にレベルの低い武器で立ち向かうだけの能力のあるベテラン達だ。


 そんな彼等に最高級のミスリル装備を渡せば確実な仕事をこなしてくれるだろう。

 それで治安が良くなれば流通ルートを構築するのもそう難しい話ではない。


 わたし達は三十人分以上のミスリル鉱石を手に、ドリンコート領の仮設工業ギルドに向かった。


「お、お嬢さん……これ、全部ミスリル……ですか!?」

「ええ、そうですわ。これを一日も早く冒険者ギルドの皆さんの武器防具として作っていただけますかしら?」

「勿論です! 喜んで仕事させてもらいます。不眠不休でやって一週間あれば完成します!」

「ちょっと待ちなさいっ!」


 わたしは工業ギルドのギルド長ドワイトを制止した。


「いいこと? わたしは確かに急いでミスリルの武器を用意してもらいたい気持ちがありますわ。ですが、それで不眠不休であなた方が働いていて疲れからミスが出たらどうしますの? 折角あの過酷で劣悪な状況から脱出できたのにあなた方は同じ事を繰り返したいのですか?」


 わたしの意見にドワイトが黙ってしまった。


「最低でも四日に一日は休みなさい。これはわたしからの命令です。その上で最良の物を作ってください。期間は一週間とは言いません、二週間……いや、十日差し上げますわ」


 わたしが期限を先延ばしにした事で、ドワイトと他の工員達は全員が一斉に頭を下げた。


「お嬢さん、承知いたしました。儂ら工業ギルドはお嬢さんに命を救われました。この恩を一日も早く返したい思いで焦っておったようです。お嬢さんの言う通り、工員には当番で休みを与え、最良の武器防具を完成させてみせます!」

「お願いね、期待していますわ」

 さて、これでひとまずのミスリル武器制作の目途は立った。


 今度は、あの村から持ってきた穀物をどうやって売るかの問題を考えなくては。

 わたし達は工員の残りがいる盗賊ギルドの跡地に向かった。


「お嬢様、こんなむさくるしい場所までよくお越しくださいました!」

「ええ、皆様もお元気そうで何よりですわ」


 あの大規模火災偽装から脱出した工員達は、ザフィラとギュスターヴが壊滅させた盗賊ギルドの跡地に住居を移した。

 彼等はそれぞれが出来る作業をしようと、盗賊が這う這うの体で逃げ出し、置いて行かれた物を次々に商品になりそうな物として加工していた。


 どうやら彼等には工業製品を作る事が生活の一部になっているようだ。

 その状態の彼等にわたしはある事を依頼した。


「この中で金属の筒を作る事の出来る人はいます?」

「はい、オレでしたら金属の筒を作れます」


 わたしが何をやらせようとしているのか、それは缶詰を作る事だった。


 缶詰とは、王国末期に隣国で発明された物で、どうやら聖女アンリエッタが考案したらしい。


 缶と呼ばれる鉄や他の金属で作られた小さな上下を塞いだ筒の中一杯に食料が満たされているので、保存食として長持ちする加工された食べ物だ。


 慢性的な食糧、物資不足に陥った末期の王国と違い、隣国はこの缶詰を効率的に使った事で食糧危機や軍事の問題を解決してわたしの国を攻めた。

 缶詰とはそれくらい画期的な発明品だったのだ!


 それを今この時代にわたしが作ることでこの国の将来的な食糧不足、物資不足を解決しようと考えたのだ。

 幸いここにいる工業ギルドのスタッフは腕がかなりのものなので、わたしの期待に沿った物を作ってもらえるだろう。


「お嬢様……食べ物を筒に入れて……どうするんですか?」

「これはね、短く切った筒の上と下に蓋をして食べ物を保存する方法なのよ」

「そんな面倒くさいことをしなくても、食べ物なんてそのまま用意すれば良いじゃないですか」


 まあ彼等の言う事ももっともだ。

 この時代、缶詰なんてまだ誰も見た事が無いし聞いた事も無い。

 だから説明する必要がある。


「それで食べ物が腐っていたなんて場合どうするの? カビも生えるかもしれないわよ」

「え……それは……仕方ないかと、その場合はその部分を捨てるしか」

「いいこと。この缶詰だとね、その食べ物が一年、二年はそのまま保存できるのよ」

「一年二年!? そんなバカなっ‼」


 まあ彼等の反応もおかしくはない。

 食べ物が腐らず一年以上そのままなんて、魔法か何かかと思うレベルだ。

 だが残念ながらこの世界に魔法なんて便利なモノはそうやすやすと存在しない。


 あるとすればインチキな聖女教の起こす奇跡まがいの演出くらいのものだ。


 しかしわたしは缶詰の凄さを実際に前の人生で体験した。

 

 ――ようやく思い出した! それは物資に事欠き、革命の最中で食べる物も無く牢屋から逃亡した時だった……。

 あの時、騎士団長だったギュスターヴは大嫌いな私の為に、貴重な食事を提供してくれた。


 それが隣国から闇ルートの高値で手に入れた貴重な最後の缶詰だった。

 あの甘辛く煮たお肉の味、あれは前の人生でまさに最後の晩餐だったわ。


 実際わたしはその後捕まり、翌日に公開処刑されたから。


 そう、あの肉の缶詰、わたしは彼等にアレを今作らせたいの!


「そこまで長持ち出来る物が作れるかどうかわかりませんが、試しにやってみます」

「作業する人手が必要なら冒険者ギルドの人達に手伝わせるわ。あなた達、缶詰を作ってみてもらえますかしら?」

「わかりました! 恩人のお嬢様の命令でしたら何でも喜んでやらせていただきます!」


 ここの工員達もわたしに対して何だか変な宗教くらい信望するようになってきた……。

 ちょっと色々やりすぎたかしら……。

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